初防衛に成功した日本ライト級チャンピオン
4カ月前に日本ライト級王座を手にした宇津木秀が、6月14日、富岡樹を8回TKOで下して初防衛に成功した。
宇津木と二人三脚を続ける小林尚睦トレーナーは、「相手がどう出てきても気にせず、合わせず、ボディワーク、ステップ、動きでリズムを作る。まずはディフェンスに集中しよう」と声を掛けた。
だがゴング直後、日本ライト級王者の動きは硬く、リズムもとれない。小林の想定外の展開となった。
14日の昼、宇津木は家族と共に馴染みの鰻屋で食事をとっている。試合の度に「勝負メシ」として、同じ店で鰻を食べ、験を担ぐのが宇津木流だ。店には日本チャンピオンとなった宇津木の写真が飾られている。鰻を平らげ、その写真を目にした彼は、急に吐き気と寒気を覚えた。
「もし負けたら、こんなことは無くなってしまうのか……」
途端に不安になり、初防衛戦の重圧を感じる。試合開始後もプレッシャーを拭えなかった。タイトルを獲得したファイトのように、体を揺らすことが出来ない。相手との距離感も掴めない。
宇津木の述懐。
「タイトルを獲得した試合より、やり辛かったです。考え過ぎてしまいました。富岡はリードが鋭く、こちらが打った後の打ち返しも速かったです。1ラウンドはポイントをとられましたね」
小林トレーナーも回想する。
「ラウンドを重ねれば良くなると思っていたので、無理はせず、ディフェンスに集中させました。3ラウンドを終了したくらいで、富岡は2、3発打ったらクリンチすると分かったので、ガードを絞って小さい空間を作り、ショートのインサイドのパンチで削ろうとアドバイスしました。それでも、クリンチされまくりましたが」
5ラウンドあたりから、宇津木の左ボディーアッパーが有効にヒットする。
「効いているのが分かりましたし、嫌がっていましたね。冷静に戦えるようになりました。6回に右フックが富岡の左テンプルに入って、リズムに乗れました。ディフェンスを忘れずに6割くらいの力でコツコツとパンチを当てていったんです。5~6ラウンドで勝利を確信しましたよ」(宇津木)
「あの位から、連打のなかで右の強打を出させてリズムをとろうと思っていました。相手は消耗していましたよね。作戦通りではないのですが、宇津木は柔軟に対応してくれました。もう少し、ショートパンチをコンスタントに当てたかったですが」(小林)
第8ラウンド1分8秒、連打を浴びせた宇津木はレフェリーストップで勝利を掴む。
勝者は振り返った。
「倒したかったです。でも、富岡はタフで強く、根性もありました。よく頑張っていましたね。
今回、自分のボクシングをやらせてもらえない相手に対して、いかに試合を組み立てていくか、ということを学びました。タイトルマッチは2戦とも序盤の戦い方を反省しています。自分はスロースターターで後半勝負みたいになってしまっているので、今後はオープニングからペースを作れるようにやっていきたいです。それが課題ですね」
小林トレーナーは、もっとボディーブローを打たせたい、と次を見据える。
宇津木は日本タイトルマッチを戦うようになってから、「Pirates of the Caribbean」を入場曲としている。御存知のように、村田諒太と同じ曲だ。
大学卒業後にボクシングを離れ、社会人として働いていた頃、宇津木は村田諒太vs.ハッサン・エンダム1を観戦し、職を辞してプロボクシングの世界に飛び込むことを決めた。
「村田さんのような大舞台に立ちたい」
今日、135パウンド(61.2kg)のライト級は、ジャーボンテイ・"タンク"・デービス、ジョージ・カンポソス・ジュニア、デビン・ヘイニー、ローランド・ロメロ、イサック・クルス、ワシル・ロマチェンコ、ライアン・ガルシアと、好素材が揃う。
日本のライト級も、中谷正義、吉野修一郎、そして宇津木の同僚である三代大訓と激戦区だ。
宇津木の挑戦は、これからが本番となる。ライト級の荒波を制する海賊となれるか。