来日4年、コロナ感染の中国人留学生は救急車で搬送された 狂った計画、帰れぬ祖国
新型コロナウイルスの影響により、日本で学ぶ留学生は激減した。日本で学びたいと願っても来日が叶わない人が大勢いる一方、すでに日本で暮らす留学生たちも困難に直面している。
日本学生支援機構による下図「外国人留学生数」が示す通り、留学生の数は2019年度に31万人を超え、16万人余りだった12年度からほぼ倍増した。しかし新型コロナ感染拡大に伴う渡航制限などにより20年度に急減、翌21年度には24万人にまで落ち込んだ。
何万、何十万の留学生一人ひとりが、それぞれに悩みや葛藤を抱えている。
このたび、「将来は日本のテレビ局などでドキュメンタリー制作に携わりたい」との熱意を胸に、来日して4年の中国人留学生に話を聞いた。今年に入ってコロナに感染、孤独な病床生活を乗り越え、今も日本で夢を追いかけて日々奮闘している。
志望校合格もコロナ禍の波乱
都内の私立大学でメディア関係について学んでいる肖杰(XIAO JIE)さん(21)。中国江蘇省出身で2018年4月に来日した。日本にある語学学校に2年間通い、その後1年間専門学校で勉強を重ねた末、現在通う第一志望の大学に合格した。「将来は日本のテレビ局やメディア関係の会社に就職したい」。そう意気込み、勉学にいそしんでいたさ中、コロナ禍が襲った。計画は大きく狂わされた。
重い生活費、難航するバイト探し
肖さんは今まで、日本学生支援機構を通じて奨学金を受給し、口を糊していた。しかしその奨学金も今年3月に終了。今は月5万円ほどの家賃をはじめ、生活費の負担が重くのしかかる。
新型コロナウイルスが広まり始めた頃はさらに深刻だった。2020年5月、緊急事態宣言などの影響で客足が減少し、当時アルバイトをしていた複数の飲食店のシフトに入れなくなった。中には業績悪化により閉店してしまった勤め先もあり、次々に収入源が絶たれた。
少しでも安定した働き口を確保しようと、同年11月からは大手アパレル企業で働き始めた。バイト先の店舗は新宿にあり、以前は中国人観光客も多く訪れ、中国語を生かせる機会も多かった。しかしコロナ禍の現在、外国人観光客はめったに訪れない。働いている外国人スタッフの数は徐々に減っていったという。また、アルバイト先独自の規則により、週18時間までしか働くことができない。法定の上限よりも少ない計算になる。
条件の良いアルバイトを探すものの、応募しても連絡が来なかったり、「もう募集してない」とすげなく断られたりしてしまう。
「留学生はただでさえバイト探しに苦労するのに、コロナの影響でさらに状況が厳しくなった」と肩を落とす肖さん。「でもそれは仕方のないこと。観光客も来ない今、日本人に働いてもらいたいと思う気持ちも分かる。ここは日本だから……」と諦め顔だ。
コロナ感染
今年1月、肖さんは新型コロナウイルスに感染、数日間高熱が続いて歩くこともままならなかった。救急車を呼んで病院に搬送され、何とか回復に至った。
退院後、自宅療養中は食料品の調達などに苦労した。「感染させてしまったらと不安で、友達にも頼み事をしづらかった」と言い、周りに迷惑をかけないよう気を配り、神経をすり減らしていた。
「あの時、看病をしてくれる家族がそばにいたらどんなに心強かったか……」。心細い状況におかれて心身ともに消耗していた当時を、肖さんは静かに振り返る。
帰国できぬ事情
肖さんは来日後4年間、一度も中国に帰っていない。
「帰省するお金の余裕もないし、なにより中国の水際対策が厳しい。中国到着後の4週間の隔離が義務付けられていた時もあった。日本は隔離期間を短くしたけど、どの国もルールが流動的でいつまた変わってもおかしくない。安心して帰れる状況にない」。帰国した場合、難なく日本に戻って来られる保証もない中、容易に帰国できないのが実情だ。不安定な金銭事情、コロナの再感染など心配は尽きない。
ただ、立ち止まってはいられない。卒業を控え、周囲は企業インターンなど、就職活動を本格化し始めている。
「将来、日本のテレビ局やメディア関係の会社に就職し、ドキュメンタリー制作などに携わりたい」と来日前から希望を抱いていた肖さん。経済的な余裕はないが、時間はある今、日本語をマスターして武器にしようと日々勉学に励んでいる。
肖さんの奮闘は続く。
(取材協力:東京外国語大学ウルドゥー語専攻卒・山本星玲奈さん)
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肖さんに限らず、また日本人・中国人を問わず、コロナ禍は多くの人の人生を狂わせた。肖さんの苦労はきっと人生の糧になると信じたい。肖さん制作のドキュメンタリー番組がいつか世に出る日を心待ちにしている。
(写真はいずれもイメージ)