ひとり旅だからこだわりたい! 「ソロ温泉」の達人が宿選びで最も大事にしていること
筆者が提唱するソロ温泉は、非日常の空間で温泉に入り、日常では得られない「空白の時間」を満喫することである。
温泉が主役の旅だからこそ、「いい温泉」であることが最低条件となる。
では、「いい温泉」とは何だろうか?
答えを先に言えば、「鮮度が高いこと」である。
ビールは注ぎたてがおいしいのと一緒で、温泉も空気に触れて酸化していないほど、いちばん個性が際立ち、気持ちよく入浴できる。
温泉の「鮮度」が重要
鮮度にこだわるなら「源泉かけ流し」の湯船を選ぶことが重要になる。
「源泉かけ流し」という言葉は、温泉を語る上でよく登場するが、意外ときちんと理解されていないので、あらためて説明しておきたい。
まずは「源泉かけ流し」と「循環ろ過」の基本について触れておこう。
源泉かけ流しとは、湯船に注がれた源泉がそのまま湯船からあふれて出ていく湯の使い方のことを指す。
だが、源泉かけ流しの湯船は全体の3割程度しかないといわれる。加水や加温など源泉に手を加えていない「100%源泉かけ流し」の湯船にかぎれば1割とも2割ともいわれる。この数字は、筆者の経験値とも一致する。
では、源泉かけ流し以外は何かといえば、循環ろ過方式の湯船となる。簡単に言えば、源泉を浴槽内で使いまわしている。
なぜ、温泉を使いまわすのだろうか?
湯船の数や大きさと比して源泉の湧出量が少ない場合、かけ流しだと湯量が足りなくなる。そこで、浴槽内の湯を回収し、汚れを取り除き、塩素などによる殺菌を施したうえで、適温になるように調整しながら湯船に戻す。大型旅館の大浴場は湯船が複数かつ大きいので、たいていは循環ろ過方式を採用せざるをえない。
循環ろ過方式なら、温泉の汚れをとって殺菌したうえで湯船に戻すので、湯の清潔度は保てる。その代わり、循環ろ過・殺菌するたびに温泉の個性が失われ、ただの水道水のようになってしまう。何度も使いまわして塩素を投入するので、まるでプールの水のような匂いを放っている浴槽にもよく出会う。
循環ろ過方式は、鮮度という点で、源泉かけ流しよりも数段落ちる。場合によってはもともとの源泉とは別物になっていることさえある。したがって、鮮度を重視するなら、源泉かけ流しかどうかをチェックする必要がある。
判別が難しい「併用式」
だが、実際は見分けるのが難しいケースもある。温泉宿が「源泉かけ流し」をうたっている場合でも、実際には循環しているケースが多々あるからだ。
湯口からは新しい源泉が投入され、湯船から湯があふれているけれど、浴槽内では循環している。この場合、どうしても純粋な源泉かけ流しよりは湯の鮮度が落ち、個性も薄まってしまう。これを「かけ流し循環併用式」「放流一部循環ろ過方式」などというが、純粋な源泉かけ流しとは異なるので注意が必要だ。
もちろん、循環式でも湯の個性が感じられる湯船はある。また、限られた温泉資源を大切に使うという面では、循環式にも価値はある。
反対に、源泉かけ流しの湯船であっても、湯船の大きさに比して源泉の投入量が少ないと、浴槽内の湯が入れ替わるまで時間がかかり、湯船全体の鮮度は落ちていく。そんな湯船にたくさんの人が入浴すれば、どうしても湯が汚れて、清潔感が失われてしまう。
「源泉かけ流しは絶対に鮮度が高い」とは言い切れないのが、もどかしいところである。
「鮮度」は肌が教えてくれる
最初は鮮度の違いを見極めるのは少々難しいかもしれないので、温泉の専門家やマニアの執筆した書籍や雑誌、ネットの情報などを活用するといいだろう。温泉好きには源泉の質にこだわる人が多いので、彼ら彼女らがおすすめする温泉から選ぶのが賢明である。
そうして、いくつか「本物」の温泉に入っているうちに、源泉かけ流しの心地よさを体が覚えてくるはずだ。鮮度の良し悪しは肌が教えてくれる。
筆者は「かけ流しセンサーが働く」などと表現しているが、かけ流しか、それとも循環式か入浴すればすぐにわかるようになる。このセンサーが身につくと、本物の温泉に対する感度が研ぎすまされ、温泉めぐりがますます楽しくなる。果ては温泉の沼にハマる可能性もある。
温泉選びにセンスが必要だとすれば、このセンサーを身につけることが最低条件になるだろう。
なお、源泉かけ流しか循環ろ過であるかは、施設側が表示するように法律で決められている。それらを確認しつつ、両者の違いを体感してみてほしい。