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奥川、いきなり履正社と対戦だ! センバツの話題その1

楊順行スポーツライター
昨年の大会は大阪桐蔭が連覇した(写真:岡沢克郎/アフロ)

 いやはや、それにしても……出場32校の主将アンケートで優勝候補筆頭にあげられた星稜(石川)だが、よりによって近畿の強豪で、過去5年で2回のセンバツ準優勝を誇る履正社(大阪)と初戦で激突するとは。現チームにもエース左腕・清水大成、通算20本以上のスラッガー・井上広大とプロ注目選手がいて、いきなり当たるには手強い以上の相手だ。

 抽選でクジを引いた星稜・山瀬慎之助主将は「奥川がすごいので、(優勝候補という)評価をされたととらえています」と苦笑い。秋はチーム打率が低迷し、「このままでは奥川に迷惑をかける。奥川一人のチームにはしたくない」と語っていたが、まあ初戦のクジについては、"奥川に迷惑"ではなく、ここを突破すれば勢いに乗る、といいほうに考えよう。

秋の北信越以降、防御率は0.00!

 その星稜の大黒柱・奥川恭伸だが、なかなかのナイスガイである。取材時、雑誌の撮影で雪のある戸外に連れ出しても、イヤな顔ひとつせず笑顔のリクエストには豊かな表情。その際、

「そういえば雑誌の前号に、奥川君の原稿を書いたけど、読んでくれました?」

 とたずねると、

「はい。ただU18で、吉田(輝星・現日本ハム)さんから"スライダーの握りを教わった"と書いてありましたが、教わってはいません」

 ……それは失礼しました。

 気を取り直して、とにかく秋の投球は圧巻である。そのU18からチームに合流した直後の県大会では、「調整不足が明らか」(林和成監督)で失点を喫したものの、チームが石川を制して進んだ北信越大会、さらにそこも優勝して臨んだ明治神宮大会。7試合に登板した奥川は、48回3分の1を投げて自責0、なんと防御率0・00なのだ。しかも、奪った三振は投球回数を大きく上回る65で、与えた四死球がわずか3というのもすごい。

 昨夏の甲子園では最速150キロをマークしたし、秋季北信越の松本第一(長野)戦では、5回コールドで13三振。10者連続も含み、11人目は三振を逃れるためにセーフティーバントを試みたから、昭和の怪物投手さえ思い出す。準決勝では、「相手に流れが行きそうなときには、野手への声がけや、間の取り方を意識した」と、ときに99キロのスローカーブなどで目先を変え、東海大諏訪(長野)を5安打で完封だ。

 神宮大会では初戦、広陵(広島)を相手に7回を11三振。「前日練習して感じがよかった」フォークが切れに切れ、広陵の中井哲之監督によると、

「変化球で簡単にカウントを取れる、あの精度。フォークがいいところに130キロ台で決まれば、ちょっと打てません。ウチは創志学園(岡山)の西(純矢)君を打ってきましたが、スピードは西君でも、制球、緩急、精度では奥川君が上です」

「創志学園の西より上」

 その奥川、シーズン終了後は「やや調子を落としていた」。「年末の沖縄合宿でいい感じになったんですが、正月の休みをはさんでまたそれを忘れかけました(笑)」。この冬は、通常の距離より長いおよそ26メートルの距離で投球練習をし、糸を引くような球筋をイメージしたという。対外試合解禁の8日には、小松との練習試合で3回を投げて1失点(自責0)。本人は「まだまだ本調子じゃない」というが最速は147キロに達し、開幕に向けて順調といっていいだろう。

 ユニフォーム姿が、パツパツに見える。トレーニングも充実していたようで、

「1年の秋にはだぶついていたユニフォームのズボンも、いまはぴっちりです」

 確かに、秋の時点で体の成長は見てとれた。17年秋の段階では、連投で明らかに球威が落ちて打ち込まれる場面も目立ち、本人も「まだまだ中学生の体でした」。だが昨秋の北信越では、東海大諏訪を完封した翌日、啓新(福井)との決勝は延長15回、183球を投げ抜いている。しかも13回の守備で左手に打球を受け、バットが振れないほどの激痛をこらえながら、続投志願しての気迫の完投だった。

 そして「まだまだ、伸びしろも感じている」と本人はいう。

「四死球は数字としては少ないですが、ゾーンぎりぎりで勝負できる、本当のコントロールがほしいんです。昨夏甲子園の済美(愛媛)戦で足がつったように、試合前の調整法も甘い。秋より成長したな、といわれるように、向上心を持って練習したいですね」

 ある新聞では西純、佐々木朗希(大船渡・岩手)、及川雅貴(横浜・神奈川)との同世代投手4人を『四天王』と称していた。奥川自身も十分意識し、「ほかに井上広輝・廣澤優(ともに日大三・東京)、岡林勇希(菰野・三重)、林優樹(近江・滋賀)とか、いいピッチャーの動画は、よく見ますね」。四天王のうち、このセンバツにコマを進めているのは奥川と及川だけ。「誰がナンバーワンかではなく、勝ったピッチャーが一番すごい」と奥川は話すが、星稜が履正社戦を突破し、横浜も激戦を勝ち進んでいけば……両者が準決勝で対戦する可能性も十分にある。

 

おくがわ・やすのぶ●星稜●投手●2001年4月16日生まれ●3年●183cm・82kg●右投右打

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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