シウマイ弁当とサンウルブズ? --今日発売新刊プロローグより。【ラグビー雑記帳】
プロラグビー選手の堀江翔太は、横浜を中心に売られている崎陽軒のシウマイ弁当が大好きである。
横浜の老舗メーカーが作るシウマイが5個入っているうえ、俵型の白米、うまみたっぷりの鮪の照り焼、やわらかい鶏唐揚げ、ピンクの縁取りのかまぼこ、甘みのある卵焼き、味のしみた筍煮、添え物の切り昆布に千切りショウガ、デザートのあんずと多彩なおかずが入っていて、830円也。黄色い包み紙をといた先の、「縦20cm×横14.5cm×高3.5cm」の箱を彩るアンサンブルが、日本有数の人気選手の心を掴んでいるようだ。
もっとも、堀江のしているラグビーという競技もアンサンブルの風情を醸す。大柄、長身、俊足、技巧派と、各ポジションで求められる資質は異なる。何より堀江自身も突進、ステップ、キック、パスと多彩なプレーを繰り出すことをモットーとしている。ちなみに2018年初頭は、サイドを借り上げたドレッドというヴィヴィッドな髪形を楽しんでいた。
この時代の日本のトッププレーヤーは、たいていふたつのチームに属していた。ひとつは国内のチームで、もうひとつはスーパーラグビーのサンウルブズだ。それは堀江も同じで、日本のパナソニックとサンウルブズに籍を置いていた。
1996年に始動した国際プロリーグのスーパーラグビーには、長らく世界ランク上位を争うニュージーランド、オーストラリア、南アフリカの実力派クラブが参戦。各チームがしのぎを削るなかで、ひとつのぶつかり合い、ひとつの走り合い、ひとつの球の奪い合いの質を向上させてきた。
2015年のワールドカップイングランド大会では、この3か国の代表チームに加えてアルゼンチン代表という南半球4か国が上位4強を占めた。スーパーラグビーは、21世紀初頭の国際ラグビー界をリードしたステージと言っても過言ではなさそうだ。
サンウルブズは、そのスーパーラグビーに日本という国から参戦した新興チームである。
イングランド大会が始まるまではワールドカップ通算1勝という途上国から参入権を勝ち取ったのは2016年シーズンから。直前までは契約選手を揃えるのにも一苦労で、発足前にチーム消滅の危機にさえ瀕したほどだった。
結局は日本、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチン、アメリカ、サモア、フィジー、韓国と世界各地のメンバーを集め、4つあるカンファレンスのうち南アフリカカンファレンスに加盟。どこよりも長い移動時間とどこよりもタフな時差ぼけ対策、何より日本国内での思わぬプレッシャーにさいなまれながらも、本来のミッションである日本代表強化を念頭に勝負を挑んできた。
このサンウルブズの初代キャプテンを務めたのが、シウマイ弁当の彩りと開放的な生き様を好む堀江だったのである。
ラグビーのキャプテンは、重責である。
首脳陣と選手のパイプ役となり、試合中はレフリーと意見交換ができる唯一の存在となる。そのパフォーマンスの質が相手からも味方からも、もちろんファンからも注目されていて、芝を離れればレセプションパーティなどでのあいさつやメディア対応にも忙しくなる。
トップカテゴリーのクラブになればなるほど、キャプテンは物理的にも精神的にも負荷がかかる。無くなる寸前のところで踏みとどまった新興チームのキャプテンであれば、なおさら大変だろう。
堀江がその責務を担ったわけは、「僕が行くんならサンウルブズに参加するという選手もいて…」。自分がサンウルブズへ行くと決めたことから契約を決めた選手が多かったことを受け、彼らの先頭に立たねばという責任感が芽生えたというのだ。自らの人望の厚さに背中を押され、苦労を買って出た格好だ。
3月21日に発売される『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』は、実質的には日本で唯一のプロラグビーチームともいえるサンウルブズ黎明期のドラマである。
ラグビーのチームの話を通し、短期目標と長期目標の両立の難しさを再確認できて、新しいプロジェクトを動かす時のトライアンドエラーの事例、さらには頑張ることは素晴らしいという一見青臭いかもしれぬ訓話の実践編にも触れられる。
ここにサンウルブズのすべてが書かれているとは限らないが、書かれた事象のすべてがサンウルブズの歴史なのは確かだ。一応、時系列になってはいるが、シウマイ弁当よろしく好きなところからお楽しみください。
※本文は同書プロローグを縮小、編集したものです。