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ロシア人YouTuberがカフェを美容院がわりにして警察沙汰 「誰にも迷惑をかけていない」も非難の嵐

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

訪日YouTuberの動画

先日X(Twitter)で気になる投稿が話題に上っていました。その投稿とは、ソーシャルメディアインフルエンサーのディアナ氏が、あるYouTubeの動画について、以下のようにコメントしたもの。

(Xのエンベッドはディアナ氏の承諾済)

たまに飲食店とかで「外国人お断り」とかネットで見たことあるけどこういうやつのせいって言われたら全然納得する

@_charisma_doll(X)

YouTubeの動画

この動画はチャンネル登録者数15.9万人を誇るYouTuberによって制作されました。2023年4月28日に公開されており、54万回視聴されています。

投稿したディアナ氏も、YouTuberもロシア人の方です。ディアナ氏の投稿は、記事執筆時点で、40.8万件の表示、993のリポスト、163件の引用、3,071件のいいね、176のブックマークと反響があります。

動画の内容

動画の内容は次の通りです。

YouTuberは、日本で撮影があるからということで、カフェでコーヒーをオーダーして、スタッフがメイクを始めます。するとカフェの従業員がやってきて「ここは美容院」ではないといわれ「もうすぐ出る」と返事。15分後に4人の警察官が訪問し、注意されます。

すると「店長が客を通報するなんていいのか」「1回しか注意していないのに警察を呼んだ」「誰にも迷惑をかけておらず、たくさん料理をオーダーしていた」と憤りを隠しません。

空間の価値

当事案の舞台はカフェでした。このカフェも含めて、飲食店の空間には少なからぬコストがかけられており、価値があります。

賃貸料があるのは当然のことながら、灯りや空調といった光熱費、テーブルやイス、インテリアやランチョンマット、カトラリーやプレート、グラスなどのテーブルウェアなどにも、お金がかけられているのです。

場合によっては、フリーWi-Fiやコンセントがあったり、セミプライベートルームに仕上げたりしていることもあります。

快適に過ごせる場所には、お金がかけられているのです。

回転率の重要性

飲食店の売上は、平均客単価と席数と平均回転率をかけあわせて算出されます。席数は変わらないので、客単価と回転率を上げていくしか売上を増やす方法はありません。

客単価を上げるには、オーダー数を増やすか、値段を上げるかのどちらかです。ただ、よりたくさんオーダーしてもらうのは難しく、客離れを恐れて値上げもしたがりません。そのため、飲食店は客単価ではなく、回転率を上げるように努めます。

ファインダイニングであれば完全予約制に近く、ディナーで1回転というところが多いですが、一斉スタートのカウンターガストロノミーや鮨店であれば、2部制を採用しており、2回転も普通です。

カフェは慌ただしいセルフ式から時間の流れが止まったかのようなオーセンティックで高単価なものまであります。スタイルが幅広いので、回転数も2回転から10回転とだいぶ異なるのが特徴。

滞在時間の長さ

回転率を上げるにはどうすればよいでしょうか。

客の滞在時間を短くし、すぐ次の客を入店させればよいです。ただ、客の滞在時間が短くても次の客が入らなければ意味がなく、反対に、行列ができているなどして客が待っていたとしても席が空いていなければ回転できません。

平均滞在時間の例を挙げると、ファミリーレストランは50分から70分、レストランは60分から90分、ファインダイニングは120分から150分。もっとカジュアルな業態であれば、立ち食い蕎麦店は5分から10分、牛丼店は10分から15分、ラーメン店は15分から20分くらいです。

カフェであれば30分から60分。セルフ式のドトールコーヒーショップは短くて30分、寛いでもらうことをコンセプトにするコメダ珈琲店では60分であるといわれています。

回転率の低下

撮影のためであれば、女性のメイクは少なく見積もっても30分程度、長ければ1時間くらいかかることもあるでしょう。私もテレビ撮影の経験が何度もありますが、女性の出演者の方は、それくらいの時間を考慮して控室に入っています。

動画ではヘアスタイリングも行われていたので、時間は決して短くないでしょう。メイクが30分から60分くらいかかることを鑑みれば、カフェの回転率が落ちることは明白です。

雰囲気の悪化

飲食店の雰囲気は、客がつくるものです。上品な客が多ければ品よく過ごさなければと感じ、カップルが多ければ友人とワイワイ楽しむのは違うのかなと思ってしまいます。

まるで美容院のように使用している客がいれば、他の客はのんびり優雅な時を過ごす“表の空間”ではなく、下準備をするための“裏の空間”であると認識することでしょう。なぜなら、メイクは表舞台に出る前に行う作業だからです。

さっと終わる軽いメイクであればまだしも、テーブルをいっぱいに使ってスタッフに行ってもらう本格的なメイクであれば、なおのことです。

飲食店は客に訪れてもらって、そこでよい時間を過ごしてもらいたいと思うだけに、ここでそのような下準備をしてもらうことは嬉しく思いません。

飲食店とは

飲食店は、食品衛生法に基づき、自治体の保健所から飲食店営業許可を得て運営している施設です。食品衛生法によると、飲食店はあくまでも、調理された食品を販売する店であると定義されています。つまり、飲食店の存在意義は、食事の場を提供することです。

メイクすることで匂いが広がるので、食べ物や飲み物の風味が毀損されてしまいます。他の客に迷惑をかけることは自明です。つくり手が残念な気持ちになるだけではなく、店の営業妨害にさえなりかねません。

これらを鑑みれば、飲食店は、美容院で行われるようなメイクを施す場所ではないことがわかります。あくまでも食べたり飲んだりすることが主となるので、それ以外のことを主として行いたいのであれば、他の場所を探すべきです。メイクをしたいのであれば、どこかのスタジオや会議室をレンタルするのがよいでしょう。

注文品数

飲食店は慈善事業ではありません。長期滞在したいのであれば、できるだけたくさん注文し、売上に貢献するべきです。

YouTuberはたくさん注文したと主張していましたが、実際のところ、何人でどれだけ注文したのか不明です。もしも、たくさん注文していたとしても、メイクまでしてよいと許されたわけではありません。

長時間テーブルを占有したこと、場の雰囲気を損ねたこと、食事の体験を毀損したこと、さらには、従業員に注意されてすぐに中止しなかったことを鑑みれば、いくら利益に寄与していたとしても、飲食店にとっては歓迎できないゲストになります。

従業員による注意

1回しか注意していないのに警察を呼んだという指摘は、賛同できません。

注意してすぐに止めたのであればまだしも、警察が訪れたという15分後でも、まだ悠然とメイクしていました。本当にすぐ撤退する気があったのか疑わしいところです。メイクする時からカメラを回しっぱなしにしていたのも、無断撮影にあたります。

割れ窓理論でも示されていますが、飲食店における風紀の乱れも、ひとりの客から広がっていくもの。それだけに、従業員が看過できなかったのは当然のことです。

訪日外国人数が復調

日本政府観光局(JNTO:Japan National Tourism Organization)によると、訪日外国人が2023年6月に、コロナ後初めて200万人を超えて活況を呈しています。

訪日外国人が増えて、日本の食文化を楽しみ、観光業や飲食業が潤うのは非常に喜ばしいことです。日本の素晴らしさを海外に発信してもらえるとなれば、なお嬉しく思います。

ただ、日本の常識にそぐわない方法であったり、誤った認識を植え付ける内容であったりすれば、歓迎できるとはいえません。

日本のルール

動画について疑義を呈したディアナ氏は、次のように述べます。

「ロシアでもカフェでメイクすることは非常識です。コメント欄のほとんど(9割以上)は非難する声ばかりでロシア人も彼女を非難していました。ただでさえロシア人というだけで非難されるご時世で、こういう1人の人間の行動によって真面目に日本で生活する外国人にとって迷惑だなと思いました」

日本でも海外でも、飲食店の目的や価値は同じ。訪日外国人の方は、日本の飲食店を利用する際に、是非とも最低限のルールを守っていただきながら、日本の食を堪能していただきたいと思います。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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