自民党総裁選、岸田・河野・高市・石破・野田各候補の現状と今後の展開を分析
総裁選の中心が目まぐるしく変わる
自民党総裁選は、菅首相の不出馬宣言により「仕切り直し」となりました。岸田氏が先行しつつも、河野氏・高市氏らの出馬が確実視され、さらには石破氏や野田氏らの出馬も噂されています。各候補の現状と今後の展開を分析していきましょう。
岸田・河野・高市・石破・野田各候補の序盤の狙いと動き
岸田氏 「結束力の高い岸田派からどれだけ横に広げられるか」
岸田文雄氏は、菅首相の事実上の辞任表明以前から総裁選出馬表明をしていた唯一の総裁選候補者です。既に岸田派のほとんどを固めた上で、その先駆者利益を生かすためにコロナ対策をはじめ各種政策についての情報発信を日々行っています。そもそも岸田派は結束力が強く、政策立案能力も高いと言われています。この点を生かすためにも早いタイミングでの立候補表明を行ったことで、日々新たな政策を発信してネットニュースなどに露出を高めていく戦術は、知名度が課題となった前回の流れを克服する動きとも言えそうです。実際に世論調査などにおける「次の首相」「次の総裁」のポイントは上昇傾向であり、党員・党友票も前回の地方票以上の割合で確保することができるでしょう。
ただ、党内で岸田氏を応援する動きが今後広がるかは不透明な情勢です。岸田氏は2日のBS番組で、いわゆる森友・加計問題について「調査が十分かどうかは、国民が判断する話だ。国民が足りないと言っているので、さらなる説明をしなければならない課題だ」と述べました。これらの発言の真意は自民党の透明化や国民への開かれた政治にあると思われますが、一方で衆院選を前に「既に終わったことをぶり返す必要がどこにあるのだ」という党内の反発があるのも事実でしょう。党員・党友票も河野氏・石破氏を追いかける構図ではとの観測があり、この点追いかける河野氏・石破氏らに追いつき突き放す二の矢、三の矢にも期待したいところです。
河野氏 「麻生派をどれだけ固めつつ中堅・若手を一気に囲い込めるか」
河野太郎氏は閣内から唯一の出馬となる見込みで、報道各社が世論調査で行う「総裁にふさわしい人」ランキングでは上位につけています。このランキングは、世論調査として対象を限定せず、一般に広く行っているものであり、党員・党友票の動向とは差が出ることになりますが、それでも党員・党友票で多くの票を獲得する可能性は高いとみるべきでしょう。議員票の動向としては、麻生派の一部にくわえ菅首相が支持にまわるとされ、菅首相を支えていた無派閥議員らの票が期待できるほか、党内の派閥横断的な中堅・若手議員にも河野氏を推す動きがあります。
一方、派閥の領袖である麻生太郎副総理が河野氏を支持しないという報道もありました。この点、(河野氏を要職に起用したいという思惑だった)菅首相に「おまえと一緒に、河野の将来まで沈めるわけにいかねえだろ」と麻生氏が述べた一方、河野氏が麻生副総理に出馬検討を報告したところ、麻生氏が「賛成もしないけど、反対もしない」と述べたことから、麻生氏の「今回の総裁選で無理に出馬する必要は無く、一気に若返りを図りたくない」という考えが透けてみえます。一方、既に80歳を迎える麻生太郎氏が支持を前面に出せば、若返りのイメージが半減することから、派閥の領袖としての存在感を出さない麻生氏の配慮とみることもできるでしょう。
高市氏 「安倍氏の力と保守系の力を背景に伸ばせるか」
高市早苗氏へは、安倍前首相が支持にまわるとの報道から注目が集まっています。党内最右翼とも呼ばれる保守団結の会などの議員らが推すことが想定されるほか、最大派閥の細田派に影響力を持つ安倍前首相の意向は、他派閥の若手議員にも影響を及ぼすでしょう。出馬表明が直前になる見通しやこれまで総裁選への出馬がないことから党員・党友票は伸び悩むことが想定されますが、それでも最右翼としての主義主張が受ける層も党員には一定数いることから、侮れない存在です。
ただ、現実的にこれまでのメディア露出や知名度は各候補に劣るところもあり、どこまで戦えるのかという疑問の声も上がっています。関係者の中には「コロナ禍や(実務派と言われた)菅首相によって、改憲論議が止まってしまったことに苛立ちを覚える最右翼派や改憲支持団体らがアイコンとして擁立しただけで、決選投票に持ち込めればいいだけだ。」との声もあります。その際には「憲法改正」を引き換え条件に、決選投票の候補者に高市票を寄せる可能性もあるでしょう。
石破氏 「石破派だけでなく二階派の力を借りられるか」
石破茂氏は、前回出馬後に石破派から退会者も出てしまったことで、弱体化したまま迎える総裁選となります。派閥内からは河野氏支持にまわるとみられる議員も複数いることから、そもそも推薦人20人をどう確保するのか、という点にまず焦点が当たっています。土日には二階幹事長と面会をしたと報じられていますが、二階派の力を借りることができれば出馬は可能となるほか、党員・党友票では(河野氏が出馬を表明する以前は)最有力候補であったことからも相当の票を取ることが想定されます。一説には、自民党支持者だけに絞れば石破氏が(河野氏よりも)有利との声もあることから、出馬できれば有力候補になる可能性もまだ残っています。
ただ、現実問題として出馬にこぎ着けられるかどうかがまずは大きな障壁でしょう。乗り越えたとして、石破派と二階派を足しただけでは、議員票としては不十分です。河野氏らと無派閥系を取り合う構図になりますが、出馬表明が遅れてしまえば後手となることも想定されます。また、得意の地方行脚がコロナ禍でできないこともあり、どのように党員・党友票を伸ばすのかも注目でしょう。仮に石破派と二階派にくわえて竹下派などの一部まで食い込めれば、決選投票にまで持ち込める可能性も出てきます。
野田氏 「二階氏の影響力を使って高市氏潰しとなるか」
野田聖子氏は、過去3回総裁選へ挑戦する動きがありましたが、いずれも推薦人が集まらず断念していました。ただ、今回は二階幹事長のもとで幹事長代行として活動してきたことも踏まえ、二階幹事長の後ろ盾が得られれば、推薦人の確保も可能となるでしょう。また、高市氏が「女性候補」という点を前面に出すとみられていますが、野田氏も出馬することができれば、この点を焦点から外すことができます。安倍氏らが高市氏らを推す中、無派閥の野田氏が二階氏らを説得することができるかどうかに注目です。
ただ、現実問題として野田氏が無派閥系議員であることを踏まえれば、二階派などの後ろ盾が得られなければ出馬は難しいとの声が大半です。既に高市氏が出馬濃厚とみられ安倍前首相も推すということが明らかになったことから、野田氏を推すことは安倍前首相に対抗する動きと見えることから、推薦人がどの程度確保できるかにまずは注目です。一方、党員・党友票は一定の知名度があるものの、これだけのメンバーの中でどの程度確保できるかも見どころとなるでしょう。
ネットでの反応は
ネットでの反応についても触れておきたいと思います。上記の画像はGoogleの提供するトレンドサービス「Googleトレンド」より、菅首相が総裁選不出馬を表明する直前の3日10時から、5日18時までのトレンドを折れ線グラフで表現したものです。同様のグラフは筆者も4日夜に作成してそのトレンドを分析していました。
このことから、いずれの候補者も少なくとも1回はトレンド上位になりつつも、石破氏があまり目立っていない状況となっています。また、高市氏が4日昼ごろから上位になっているのは、高市氏を推す右派系のネットクラスタが多く存在し、ハッシュタグ運動などが展開されたことによるものです。今後、各候補が正式に総裁選出馬表明をしていくにつれて、各候補の政策や人となりが報道されることで、ネットでの議論も活発化することが予想されます。
なお、GoogleトレンドやTwitterなどのSNSサービスは、必ずしも「党員・党友」に限らないことに留意が必要です。あくまで世論やネット世論の一部であることを踏まえて見る必要があります。
今後の展開について
ここまで見てきたとおり、今回の総裁選は派閥横断的な動きも見えることから、必ずしも「派閥の足し算」ではいかないところがあります。また、無派閥系議員がどのような行動をとるのかにもまずは注目をしていきたいところです。
筆者は、おそらく総裁選1回目の投票に関しては、各派閥の領袖は、派閥拘束を外した形で投票をするのではないかと踏んでいます。高市氏が報道の通り告示直前に出馬表明をすれば、(安倍前首相の意向を受けた)議員票の一部が高市氏に流れることになり、1回目の投票で誰かが過半数を取ることは難しくなるでしょう。
そうすると決選投票となりますが、決選投票では派閥の領袖も党人事やポスト、さらには各候補の主要政策などといった点において交換条件が成立した上で、派閥拘束をかけた投票となる可能性があります。そうすると、1回目の投票と2回目の投票とで1位候補が逆転するような展開もあり得るかも知れません。2回目の投票では都道府県連票はわずか「47票」であり、(全体に対する)そのウェイトは極端に低下します。1回目の投票で1位だった候補者が、ほぼ全ての都道府県で2位候補者を上回っていたとしても、都道府県連票の差はわずか40票あまりでしょうから、派閥拘束をかけた議員票との戦いになったときに、逆転する余地が残っているというところです。そのためにも、現時点で「決選投票を意識した」多数派派閥工作はもちろんのこと、無派閥議員などの議員票をどれだけ固められるかが今週のみどころとなるでしょう。
ますます今後の展開が楽しみになってきた自民党総裁選は、9月17日告示・29日投開票の予定です。