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藤井聡太叡王、防衛4連覇&八冠堅持か? 伊藤匠七段、初タイトル獲得か? 4月7日、叡王戦五番勝負開幕

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 4月7日。愛知県名古屋市・か茂免において、第9期叡王戦五番勝負第1局、藤井聡太叡王(21歳)-伊藤匠七段(21歳)戦がおこなわれます。棋譜は公式ページをご覧ください。

3連覇中の藤井叡王

 2021年。藤井王位・棋聖(当時)は第6期五番勝負で豊島将之叡王に挑戦。フルセットの末、3勝2敗で叡王位を獲得。史上最年少19歳で三冠に輝いています。

 過去21回出場したタイトル戦番勝負で、ただの一度も敗退したことがない藤井叡王。過去に最終局まで戦った例は、この第6期叡王戦、1度きりです。

 翌2022年には出口若武六段の挑戦を3勝0敗(1千日手)でしりぞけました。

 2023年には菅井竜也八段の挑戦を3勝1敗(2千日手)でしりぞけました。

 藤井叡王は現在3連覇中。今期で防衛を果たせば4連覇となります。通算5期を達成すると、史上初の永世叡王の資格を得ます。

伊藤七段、3回目のタイトル挑戦

 伊藤七段は今期で叡王戦参加4期目となります。今期は抽選時に六段(竜王挑戦決定時に七段昇段)で、六段戦に参加。黒沢怜生六段、高野智史六段、渡辺和史六段、服部慎一郎六段に勝って、初めて本戦に進みました。

 伊藤七段は本戦トーナメントで山崎隆之八段、斎藤明日斗五段、青嶋未来六段、永瀬拓矢九段を連破。堂々たる戦いぶりで、挑戦権を獲得しました。

 伊藤七段は2023年度、竜王戦七番勝負、棋王戦五番勝負で藤井八冠に挑戦し、いずれもストレートで敗れています。21歳にして早くも3期目のタイトル戦登場。そして今回もまた、いどむ相手は藤井叡王です。

年少者に負けたことがない藤井叡王

 藤井叡王と伊藤七段は同じ2002年生まれ。誕生日は、藤井叡王は7月19日、伊藤七段は10月10日で、わずかに伊藤七段が年少という関係です。

 藤井叡王は史上最年少14歳2か月で棋士になって以来7年半、自分より年少の棋士に公式戦で敗れたことがありません。

 自分より年少で対戦経験のある棋士は、伊藤七段ただ一人です。

 藤井叡王と伊藤七段は過去に11回対戦し、藤井叡王の10勝0敗1持という成績が残されています。

 今期五番勝負の下馬評もまた、藤井ノリの声は高いでしょう。

 トップクラス同士が長いキャリアを通じて長く戦っていく中で、どちらかに星が片寄ることはしばしばあります。

 一方で、はじめのうちは圧倒されていた側が、巻き返すこともあります。伊藤七段にとっては、まずは対藤井戦での初勝利が望まれることでしょう。

みたび、若き両雄の熱いシリーズ

 藤井叡王(棋王)は棋王戦で伊藤七段の挑戦をしりぞけたあと、次のように語っていました。

藤井「今期の棋王戦は第1局の持将棋から始まって。どの将棋も難しかったと思うので。その中でなんとか結果を出すことができて、うれしく思っています」「伊藤七段とは竜王戦と棋王戦、続けてのタイトル戦ということになりましたし。今後も自分と同世代であったり、また自分より若い世代の方との対戦というのは、増えていくと思うので。こちらもより力をつけて、そうした中でもしっかり戦っていけるようにしたいと思っています」

 伊藤七段は叡王挑戦権を獲得したあと、次のように語っています。

伊藤「再び藤井さんと対戦する機会を作れたことはよかったと思います。なかなか番勝負で2回続けて、結果が出ていないので。前の2回よりは、実力を上げて臨まないといけないなというふうに思っています。もちろん(タイトルを)取るつもりで臨まないといけないんでしょうけど。内容を見ても、あまり接戦にできていないという現状ですので。もっと棋力を伸ばしていかないといけないなというふうに思っています」「なかなか終盤勝負というところに、もっていけてないのかなというふうに思うので。難しい終盤にまずはもっていけるように、やはり、中盤の難所で正しい判断ができるようにしないといけないなと思ってます。なかなか結果が出ていないので、よいイメージを持って臨むことは難しいんですけど。あまり悲観的にならず、前向きな気持ちで臨めればというふうに思っています」「手応えというものは、なかなかつかめていない現状ではあるんですけど。ある程度、序盤のわかれとしては、こちらのやりたい将棋が指せているところもあるので。中盤戦をどう乗り切れるかというところが鍵になってくるかなと思っています」「藤井さんと番勝負を戦うことで、自分自身も成長できている部分はけっこう大きいのかなというふうに感じています。やっぱり、いままでふがいないシリーズが続いているので、もっと熱戦をお見せしないといけないなというふうに思ってます」

 戦型はこれまで通り角換わりなど、現代最新の戦いが見られるでしょう。

 ただし藤井叡王は棋王戦第4局では後手番で、珍しく角換わりを選びませんでした。村田顕弘六段によれば「豊島流村田システム」という作戦です。

藤井「公式戦では私自身、初めて指す形だったので。なかなかやっぱり急所がつかみづらいところもあったんですけれど。その中でなんとか、バランスを崩さずに指すことができたかなと思いますし。その点、手応えというか、収穫のある将棋だったかなというふうに感じています」「戦法の定義自体は、私は、正直、定義自体はあまり詳しくは知らないんですけれども(笑)。ただ公式戦の、村田六段であったり、豊島九段が指されていて。私自身も指すにあたって、そこを参考にしたところもありました」

伊藤「(藤井叡王は)相手によって戦い方を変えられるという印象はあまり持ってないんですけど。藤井さんがそういった戦い方をされるという印象はいままでなかったので。それも踏まえて考えていきたいなというふうに思っています」

 叡王戦五番勝負でも、意外な戦型が現れる可能性はあるのかもしれません。

 本棋戦のスポンサーは不二家。両対局者がどういうおやつを選ぶのかも、大きな注目ポイントです。

伊藤「やはりタイトル戦でのおやつというのは、一つの楽しみにしているところですので」

 全国各地を転戦する五番勝負。第1局のか茂免、第3局の名古屋東急ホテルと、今シリーズでは愛知県名古屋市での対局が2回あります。

 瀬戸市出身の藤井叡王にとっては、もちろんホームの地です。

 一方の伊藤七段にとってもゆかりのある地です。

伊藤「名古屋は親戚の家があって、小さいときはよく行っていた場所なので。名古屋で対局できるということは、自分にとってもうれしいことだなというふうには感じています」

 2024年度および、今後の将棋界のゆくえをうらなうであろう、若き両雄による熱いシリーズがいよいよ始まります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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