29年前の記録が「北半球の史上最低気温」に。今頃なぜ?
シベリアからグリーンランドへと、「北半球の最寒の地」が変わりました。
国連の世界気象機関(WMO)は、29年前にグリーンランドで観測されたマイナス69.6℃を「北半球の観測史上最低気温」に認定したと、23日(水)発表したのです。
その気温は1991年12月22日に、グリーンランド氷床の頂上部、高度3,100メートルにある観測所で記録されました。
WMO総長は、高温記録に目がいく昨今において、地球ではそれと真逆のことも起きているということを認識させる発見だと、その意義について語っています。北半球の現在の最高気温記録はアメリカ・デスバレーの56.7℃なので、最高気温と最低気温の差は130℃近くに上ることになります。
どれだけ寒い?
これまでの北半球の最低気温の記録はマイナス67.8℃です。偶然にも2回ロシアで記録されています。1回目が1892年ベルホヤンスクで、2回目は1933年のオイミャコンでした。
つまり今回新しく認定されたグリーンランドの気温は、それらより2℃ほど低い記録なのです。
ちなみに世界の最低気温の記録は、南極ボストーク基地のマイナス89.2℃(1983年)ですから、南極の寒さには到底届かないようです。
記録の探偵団
ところで、なぜ30年近くも前の記録が、今頃になって認定されたのでしょうか。
記録を認定したのは、気象気候極値アーカイブ委員会というWMOの専門家集団です。
この委員会の任務は、あらゆる気象現象の世界記録を整理すること、さらにこれまで見過ごされてきた気象データを検証することにあります。まさに「気象の探偵団」と言ったところでしょうか。
委員会が発足した2007年以前は、各国で個別に記録が保存されていて、それを統合する公式な記録がありませんでした。そこでWMOがこの委員会を立ち上げたというわけです。
とにかく過去の記録なので、検証するのには膨大なデータと人手、時間がかかります。それがずっと前の記録であれば、尚の事です。今回はある気象学者が疑問を投げ掛けたことから、検証が始まりました。
記録策定の対象となる気象現象には、気温、気圧、雨、雹、風、雷、竜巻と熱帯低気圧があります。面白いことに雪が含まれていないのは測定方法が各国で異なるため、統一の記録を作ることが難しいからなのだそうです。
今年の世界記録候補
気象気候極値アーカイブ委員会には、今年も新たな宿題が課されています。
まず、6月にロシアのベルホヤンスクで観測された38.0℃という記録。この気温は、北極圏の観測史上最高記録となる可能性があり、検証が行われています。また8月にアメリカのデスバレーで記録された54.4℃。こちらは世界の最高気温となる可能性すら秘めています。
でもなぜでしょう。現在の世界最高気温記録は1913年の56.7℃です。どうして今年の記録が世界記録になるかもしれないのでしょうか。
それはこの56.7℃という値の信ぴょう性が疑問視されているためです。
世界の気象学者からは、砂嵐に伴って実際よりも2℃以上高く記録されている可能性があると指摘されています。100年も昔のことですから、検証には相当な時間を要すると思われますが、もしかしたら今年の54.4℃が世界の歴代1位の高温記録となるかもしれないのです。
取り消された世界最高気温
過去にも最高気温の記録が取り消された例があります。90年間世界最高気温記録として登録されていた、1922年北アフリカ・リビアにおける58℃の記録です。
検証の末、観測者が未熟であった、測器と観測場所に問題があったなどの理由から2013年に記録が抹消されました。これを発表したのも、先の気象気候極値アーカイブ委員会です。
このニュースは世界中に大きな反響をもたらし、普段なら1日150件ほどの委員会のウェブページの閲覧数が、3日間で24,000件に跳ね上がったのだそうです。
激しい天候が頻繁に起こるようになってきた昨今、世界一の記録に益々注目が集まりそうです。
*参考文献*