Yahoo!ニュース

200年に一人の天才ボクサーが語る「メイウェザーvs.那須川」

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
現役時代のメイウェザーを10とするなら、1にも満たないほど衰えた元王者だったが…(写真:ロイター/アフロ)

 予想通り、茶番にしかならなかったフロイド・メイウェザー・ジュニアと那須川天心とのエキシビジョン。

 今回も、「200年に一人の天才」と呼ばれた元WBAジュニアウエルター級1位、同級&ウエルター級日本チャンピオンの亀田昭雄に、昨夜のイベントを振り返ってもらった。

 亀田が挑んだ世界チャンプ、アーロン・プライアーとは、ピーク時のフロイド・メイウェザー・ジュニアと甲乙つけ難い名王者である。指名挑戦者として、そんな最強の男に挑んだ亀田の言葉には重みがあった。

==============================================================

 見るべきものの何一つ無いスパーリングでしたね。体格云々ではなく、実力差があり過ぎます。赤子と大人、あるいは小型車とダンプカー以上の違いですよ。

 那須川はあくまでもキックボクシングの王者であって、ボクシングはズブの素人であることを示しました。この子にはサイドステップがまるでなく、前後の動きしかできずにメイウェザーの真正面から攻撃を仕掛けてしまった。RIZINやキックの世界では、あれでもいいのでしょうが、ボクシングはそんなに甘いものではありません。

 メイウェザーが既に引退した人間であっても、あの力量で、かつての世界チャンピオンに向かっていくのはボクシングを舐めているとしか思えません。今後、この子がボクシングを真剣にやることは無いでしょうし、やったところで成功は期待できません。日本の格闘技界という狭い世界では通用しても、世界中の強者がひしめき合うボクシング界では生き抜けないでしょう。ボクシングとは、それだけワールドワイドな競技なのです。

 一方のメイウェザーも“元“チャンピオンですから、身体が絞れていませんでした。脇腹の贅肉が目立ちましたよね。でも、那須川を相手に練習する必要も無かったです。パウンド・フォー・パウンド・キングとしてボクシング界のトップに君臨していた彼が、こんな見世物興行に出てしまったことが、非常に哀しいですが…。

 メイウェザーは那須川に対して本気のパンチなど1発も放っていませんよ。あれはマスボクシングです。現役時代のメイウェザーが10なら、昨日の動きは1もいかないでしょう。なのに、那須川は簡単に倒れてしまった。まさに茶番劇です。

 それでもね、見世物興行としては、RIZINもフジテレビも那須川もWIN-WIN-WINと言えるでしょう。「ボクシング界の超スーパースターが日本に来て、格闘技界の神童とファイトする」ということで、3万人近い観客が会場を埋めた。TV局としても紅白歌合戦を相手に視聴率で勝負を懸けることができた。那須川は「やったことのないボクシングルールで伝説の男に挑んだ悲劇のヒーロー」として自分の名を売れた。今後、主催者サイドは、お涙頂戴的に那須川を演出していくストーリーができたんじゃないかな。そういうことが好きなファンも存在するでしょうから、ビジネス的には成立しているように思います。

 最初から勝負にならないことは目に見えていましたが、敢えて述べるならメイウェザーもボクシングの威厳を保てたのかもしれません。

 那須川はやはり、これまでやって来た格闘技の世界で生きていくべきでしょう。今回同様、彼の姿を派手に演出するTV局があってもいい。ただ、那須川にボクシングは無理だと僕は思います。見世物とボクシングは根本的に違うのです。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

林壮一の最近の記事