最新の「総理大臣になって欲しい人」アンケートから占う来年の政局と必要な「リーダーシップ」を解説
2021年残すところあとわずか。昨年に引き続き今年も内閣総理大臣が変わる一年となりました。 国の実質的なトップである内閣総理大臣は当然、リーダーシップを発揮することが求められ、今回の自民党総裁選でもその点が話題となりました。
現在は政権与党を自民党が担っているため、自民党の国会議員から選出されることが既定路線となっていますが、国民が求めるリーダーシップ・スキルを持つ内閣総理大臣の理想像は、必ずしもそうとは限らないでしょう。
世論調査会社であるグリーン・シップが今年11月に行った自主調査では、「あなたが総理大臣になって欲しいと思う人は誰ですか」というアンケート(自由記入)で、実に多くの候補者の名前が出ました。その詳細を見ていきながら、来年の政局や「リーダーシップ」を伺っていきたいと思います。
「民間人」トップの橋下徹氏はなぜ人気か
次に掲げる表は、グリーン・シップ社が行った自主調査の項目のうち「あなたが総理大臣になって欲しいと思う人は誰ですか」というもの(自由記入)です。
表の通り、1位には河野太郎氏、3位には高市早苗氏が選ばれました。また、2位と4位には、現職の国会議員ではない橋下徹氏と吉村洋文氏がそれぞれ選ばれました。
橋下氏と吉村氏は今現在国会議員ではないため、 すぐに内閣総理大臣に選ばれることはありえませんが、こういった人物がアンケートで上位にくることに国民の期待を感じさせます。特に橋下氏や吉村氏は日本維新の会やその母体となる大阪維新の会と密接な関係を持つ人物であり、大阪のみならず全国での期待の高さを感じられずにはいられません。
吉村氏は、大阪府知事としての活躍もあり、また賛否両論はあるにしてもコロナ対応においてメディア露出が極めて多かったため、特にここ2年ほどはリーダーシップ・スキルの高い政治家という評価も目立ちました。一方橋下氏は、政治家を数年前に退任して以来、政治の第一線にいるわけではありません。しかしながら、なぜ橋下氏がこのような内閣総理大臣にふさわしい人と言うアンケートで上位になるのでしょうか。
橋下氏は現在もテレビ、特にワイドショーなどで活躍をしています。政治や選挙について公職選挙法や政治資金規正法など正確な知識を持って話ができるコメンテーターは実は多くなく、関西圏を中心に圧倒的な視聴率も取れる橋下氏は重宝されているというのもあるでしょう。
日本維新の会や大阪維新の会は、「身を切る改革」をいわゆる一丁目一番地と掲げ、昨今の政治とカネの問題を厳しく追及する姿勢を見せていることで一定の支持を得ているとされています。この政治とカネの問題というのはもちろん、国会議員を多く輩出する日本維新の会そのものの問題にも跳ね返ってくるところがあり、国民の政治的不信が高まっている中、現職の政治家ではない橋下氏がいわば身内である日本維新の会や大阪維新の会もふくめて政治の問題について追及する姿勢を示し続けることで、「身内へも甘くないんだ」という印象を与えることに成功しているとも言えるでしょう。
橋下氏は、大阪都構想の実現に失敗し、政治の第一線から退きました。しかしこれまで述べたよう政界では橋下氏の政界再挑戦が噂される事もあり、最近のメディア露出もそういったものの布石だという見方もあります。
一方橋下氏がテレビでの露出を増やしているのは他でもない民間人であり、(実際のところはともかく)建前上は政治的な立場がないからマスメディアに重用されるという事実もあるでしょう。関西圏では圧倒的とも言うべき非常に高い人気を誇る橋下氏ですが、全国規模でどこまで人気を伸ばすことができるか?そして、仮に政界に再進出するとして、どの選挙に挑戦するのか(=首相を狙えるとされる王道の衆議院議員総選挙への出馬なのか、それとも東京都知事選挙など首長選挙を狙うのか)ということも1つのポイントになってくるでしょう。
根強い河野氏・高市氏の人気
自民党の国会議員からは河野太郎氏と高市早苗氏が上位に選ばれました。この2名は、今年の自民党総裁選で岸田氏と共に戦った相手であり、それぞれ2位と3位となった候補者です。河野太郎氏はこれまでもインターネット上などでの評判が高く、今回の調査でも1位を取ることができました。一方で、民間人である橋下徹氏や3位の高市氏とそこまで大きな差はなく、一時期の圧倒的な人気には陰りがあるのではないかという見方もできます。
河野氏は総裁選に敗れた後、現在は自民党広報本部長としての仕事を務めていますが、広報本部長の役目は党の役職であることから、必ずしもテレビ露出が多いわけではなく、来年の参院選に向けてどれほど河野氏が人気を取り戻すことができるのかがカギとなるでしょう。テレビなどマスメディアの露出は減る一方で、コロナの感染拡大が一定の収まりを見せている中、地方行脚などで自身の支持を増やす行動は、かつての石破茂地方創生担当大臣(当時)のそれを彷彿とさせます。
また、3位になった高市早苗氏に関しては、保守層を地盤とする強力な支持層が多いことや、安倍晋三元首相らの支持が引き続きあることから、今後も一定の人気を保つ可能性が強いです。憲法改正論議が本格化するとみられる来年に向けて、改憲派としてのリーダーシップを発揮する機会があれば、党員をはじめとする改憲派の支持も強まることが想定されます。
ただし、自身の総裁選への再挑戦こそ表明しているものの、岸田総裁のもとで党政調会長という立場があることから、現政権への批判をしにくいのが現実です。また、党政調会長も党の役職のため、国会での露出などがやはり閣僚と比べると少なく、マスメディアへの露出も含めてどれほど存在感を示し続けることができるのかが来年の注目となるでしょう。
野党に必要な「リーダーシップ」の存在
アンケート結果では、与党議員や民間人の名前は目立ちますが、野党議員は圧倒的に少ないのが実情です。ランキング上位では、山本太郎氏、枝野幸男氏、玉木雄一郎氏の名前のみが上がり、それぞれの野党幹部などの名前は上がりませんでした(注:アンケートの実施は2021年11月であり、立憲民主党の代表選前)。
衆議院議員総選挙は内閣総理大臣の指名に優越権を持つ衆議院の選挙という意味で実質的な政権選択選挙ですが、やはりシンボリックな「リーダーシップ」の存在がなければ、政権交代は実現しないでしょう。
特に山本太郎氏はつい最近衆議院議員総選挙で当選したという意味で、直近まで現職の政治家ではなかったにもかかわらず、現職である枝野氏や玉木氏を上回る数字でした。こういったことからも、野党に「リーダーシップ」のシンボル的存在が欠けていることが如実に表れています。
山本太郎氏の手法はポピュリズム的手法であると時には批判されることもありますが、ポピュリズムを衆愚政治や大衆迎合主義として批判的に揶揄する考えがある一方、大衆の支持のない政党・政治団体には力がないのも当然の帰結と言えます。れいわ新選組の場合には、山本太郎氏のキャラクターに大きな依存をしている政党とも言えますが、やはり「党の顔」にどれだけこだわりを持ち、また「リーダーシップ」を見せられるか、こういったところに野党が答えを見いだせるかどうかが、来年夏の参議院議員選挙の結果に直結するのは間違いありません。