なぜ「行列のできるラーメン店」は儲かるのか?
私はラーメンが大好きです。ただ、行列に並ぶのは好きではないので、「行列のできるラーメン店」に行くのはできれば避けたいと思っています。しかし、何度も「行列のできるラーメン店」を目にすると、ついつい並んでしまうこともあります。今回のテーマは行列のできるお店について。ラーメン店に代表されるように、なぜ行列のできる店は儲かるのか? について解説します。
まず「儲かる」ということは、利益が出る、ということです。利益が出るということは、売上が多く、コストが少ないということ。要素分解すると、「商品が高い」「客単価が高い」「お客様の回転率が高い」「原価が低い」「人件費が安い」「販促費用が少ない」「維持コストが少ない」……など、いろいろな要素が挙げられます。
そもそも行列ができると、なぜ人はそのお店を注目するのでしょうか? その理由は「社会証明の原理」という心理効果が大きくかかわっています。多数の支持を受ける物事のほうが人は受け入れやすくなる心理を言います。また、新刊「空気で人を動かす」に書いたとおり、特定の脳の神経細胞(俗称:ミラーニューロン)が原因で、人は近くにいる人の言動のみならず思考までも無意識にモデリングします。良くも悪くも周囲の人たち、そして空気に「感化」されていく生き物なのです。「同調性バイアス」が高い人ほどその影響を受けます。
行列ができているラーメン店を見れば、「あそこはいつも流行っているな」と、通りかかる人は思うことでしょう。そして「今日は行列ができているから並ばないけれど、いつかは食べてみたい」と考える人も多いはずです。人は人によって影響を受けます。「感化」されるのです。
「自家製麺とこだわりの厳選素材!」「感動間違いなし! 激ウマ味噌ラーメン!」といったポスターや看板より、「行列」のほうが、はるかに人に大きな影響を与えます。集団心理が作り上げる「空気」を巧みに利用し、お客様を引き寄せます。人通りの多い駅前で「行列のできるラーメン店」を作り上げることができれば、集客にそれほど困らないでしょう。
駅前などにお店を構えると、地代がかかります。しかし地方都市の駅前であれば、それほど大きくはならないでしょう。それより「行列」そのものが強烈なプロモーションですので、「広告費」が削減できることは大きな要素です。ネット広告やクーポンといったプロモーション戦略も不要になりますので、ここに関わる「人件費」も削減できます。
「行列」を作ってもらうため、
● 店舗面積を小さくする
● 注文を受けた後に調理する
● 営業時間を短縮する
……といった物理的な制約も作るため、店舗を小さくした分だけ地代も安くなりますしスタッフも少なくて済みます。店が狭いため長居できず、お客様の回転率は上がります。作り置きをしなくて済むため料理のクオリティは上がりますし、営業時間が短いと、アルバイトの人件費も落とせます。(バイト料よりも流行っている店で働きたいという優秀なバイトを集めやすくなります)
ただ、お客様の回転率を上げることは不可欠ですから、ビールやおつまみといった「客単価」を押し上げるオプションを用意できないことは減点要素です。したがって、当たり前ですが、そのお店の主力商品が「並んでも食べたくなるほどとても美味しい」ということが前提条件でしょうね。
このように、「行列のできるラーメン店」は、集団心理を巧みに利用したプロモーション戦略をしています。そうすることで儲かるのです。味に自信があるお店は、あえて店舗を小さくするなどして行列を作らせ、「売れている空気」を店の外にアピールする戦略をとってはいかがでしょうか。お店の前で「いらっしゃい、いらっしゃーい!」とバイトが声を張り上げなくとも、引力に引き寄せられるように、次々とお客様が寄ってくることでしょう。
※参考図書:「空気」で人を動かす