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高気圧酸素療法の驚くべき効果とは?若返りと再生医療の新たな可能性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【高気圧酸素療法とは?その仕組みと効果】

高気圧酸素療法(HBOT)とは、高濃度の酸素を高気圧下で体内に取り込む治療法です。通常、私たちが吸っている空気中の酸素濃度は21%ですが、HBOTでは95~100%の高濃度酸素を1.4~3気圧の高気圧環境下で呼吸します。こうすることで、血中や体内の組織に溶け込む酸素量が飛躍的に増加し、通常呼吸では届きにくい部位にまで酸素を送り届けることができるのです。

HBOTは、一酸化炭素中毒や減圧症などの治療に使われてきましたが、近年では創傷治療、放射線障害、皮膚疾患など幅広い分野での有効性が報告されています。例えば、糖尿病性潰瘍や褥瘡(床ずれ)など、通常の治療では改善が難しい難治性創傷に対するHBOTの効果は目覚ましく、治癒速度を高め、患者のQOL向上に大きく貢献しています。

HBOTの効果は、高濃度酸素によって引き起こされる生理学的変化によってもたらされます。具体的には、血管新生(新しい血管の形成)の促進、幹細胞の活性化、コラーゲン合成の促進、抗酸化作用の増強などが挙げられます。これらの作用が複合的に働くことで、HBOTは組織の修復や再生を促し、炎症を抑えるのです。

【加齢とHBOT:若返りと健康長寿への期待】

加齢に伴い、私たちの体は少しずつ衰えていきます。特に酸素を効率よく運ぶ能力の低下は、全身の臓器や組織の機能低下につながります。そこでHBOTに注目が集まっているのです。高濃度の酸素を体内に取り込むことで、加齢によって低下した組織の修復能力を高め、若々しさを取り戻すことができると期待されているのです。

実際、HBOTを受けた高齢者では、認知機能の改善や記憶力の向上が報告されています。また、HBOTによって血管内皮機能が改善し、動脈硬化の進行を抑えられる可能性も示唆されています。さらに、テロメア(染色体の末端部分)の長さが維持され、細胞の老化が抑えられたという興味深い研究結果もあります。テロメアの短縮は老化の指標の一つとされており、HBOTがテロメアの維持に寄与することは、若返り効果につながると考えられます。

ただし、現時点ではHBOTの若返り効果については十分なエビデンスが蓄積されているわけではなく、さらなる研究が必要とされています。しかし、加齢による機能低下を防ぎ、健康寿命を延ばす新たな手段としてHBOTに大きな期待が寄せられていることは間違いありません。

【皮膚疾患とHBOT:美肌と再生への可能性】

HBOTは皮膚疾患の治療にも効果が期待されています。例えば、難治性の皮膚潰瘍や褥瘡、糖尿病性壊疽などでは、HBOTによって治癒が促進されることが報告されています。これは、HBOTが皮膚の微小循環を改善し、創傷治癒に必要な酸素や栄養を十分に供給できるようになるためと考えられています。

また、HBOTにはコラーゲン合成を促進する作用があることが知られています。コラーゲンは皮膚の弾力性を維持する重要なタンパク質であり、加齢とともに減少していきます。HBOTを受けることで、皮膚のコラーゲン量を増やし、ハリと弾力のある美肌を手に入れられる可能性があるのです。

さらに、HBOTは放射線治療による皮膚障害の改善にも有効であることが報告されています。放射線治療を受けた患者さんの中には、皮膚の炎症や潰瘍に悩まされる方が少なくありません。HBOTは損傷した皮膚組織の修復を助け、痛みや不快感を和らげる効果が期待できます。

HBOTは、皮膚の健康維持と美容においても大きな可能性を秘めているのです。今後、エビデンスの蓄積とともに、より多くの人がHBOTの恩恵を受けられるようになるかもしれません。

高気圧酸素療法は、再生医療と抗加齢医学の分野において大きな可能性を秘めています。組織の修復能力を高め、若々しさを維持する新たな手段としてHBOTに注目が集まっているのです。特に皮膚疾患への応用は興味深く、難治性潰瘍の治療や美肌効果など、幅広い活用が期待されます。まだ研究の途上ではありますが、HBOTが私たちの健康寿命を延ばし、QOLを高める重要な役割を担う日が来るかもしれません。

参考文献:

Hachmo, Y., et al. (2024). Hyperbaric oxygen therapy increases telomere length and decreases immunosenescence in isolated blood cells: a prospective trial. Aging, 24(22), 22445-22456.

Hadanny, A., et al. (2021). Hyperbaric oxygen therapy induces transcriptome changes in elderly: a prospective trial. Aging, 13(22), 24511-24523.

Front Aging. 2024 May 2:5:1368982.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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