ブローナーが3階級制覇後に向かう場所 〜Still "The Future of Boxing"?
Photo By Kotaro Ohashi
WBA世界ウェルター級タイトル戦
米国ニューヨーク州ブルックリン・バークレイズセンター
挑戦者 エイドリアン・ブローナー(アメリカ/26戦全勝(22KO))
12ラウンド判定(115-113、117-111、113-115)
王者 ポーリー・マリナージ(アメリカ/32勝(7KO)5敗)
判定は2−1ながら勝敗は明白
開始直後はマリナージが手数でポイントを奪ったものの、2階級下のライト級から転級直後ながら馬力で上回るブローナーがハードパンチで次第に主導権を掌握。中盤以降はほぼ一方的にポイントを奪い、2−1ながら明白な勝利を収めた。
これまでパワー不足をスピード、戦略、ハートの強さで補って来たマリナージは、今回も精一杯の頑張りで試合を盛り上げてくれた。CompuBoxの集計でも、マリナージの手数はブローナーより300発以上も上(843-524)。ただ、そうは言ってもマリナージのパンチの絶対的にパワーに欠け、しかも大半はガードの上を叩いたものだけに、額面通りに受け取るのは難しかったのも事実である。
筆者の採点は116-112でブローナー優勢。リングサイドのメディアの大半も2〜6ポイント差でのブローナーの勝利を支持していた。
「ポーリーのパンチはまるで効かなかった。自分のようなことができるボクサーは他にはいない」
ブローナーがそう勝ち誇ったほどの圧倒的な展開ではなかったが、それでもより優れたボクサーがどちらであったかは誰の目にも一目瞭然だったろう。こうしてブローナーはWBO世界スーパーフェザー級、WBC世界ライト級に次ぐ3つ目のタイトルを獲得。“飛び級”の挑戦を成功させ、無敗のまま3階級制覇を達成してみせた。
ブローナーの今後は
もっとも、勝ち負け自体は問題なくとも、「ブローナーは期待したほどではなかった」という声も試合後には多かった。確かにこの日は支配的なパフォーマンスからはほど遠く、2011年6月以来続けて来た6連続KOもストップ。昇級ゆえかパンチの効果にも薄れが感じられ、「ブローナーがウェルター級でやっていくのは厳しいのではないか」と指摘する関係者も少なからず存在した。
「今の俺は32歳だけど、25歳の頃の自分に彼が勝てたとは思わない。ブローナーは素晴らしい才能を持っているが、ボクシング界を支えられる選手じゃない。女にだってもっと激しく殴られたことがある。思ったほどじゃなかった。階級を下げるべきだろう」
マリナージのそんな手厳しいコメントは、試合前から散々に舌戦を繰り広げた相手への怒りからばかりではなかったはずだ。そして、ブローナー陣営も次はスーパーライト級に下げて4階級制覇を目指す可能性も指摘しており、ウェルター級進出はとりあえず1戦のみとなったとしても驚くべきではなさそうである。
ウェルター級か、スーパーライト級か
ただ、転級後たった1試合を終えた時点で、「ブローナーは上の階級では超一流ではない」と結論づけるのも余りにも早計過ぎるだろう。
この日の試合を見ながら、筆者の頭を過ったのは1999年の“シュガー”・シェーン・モズリー対ウィルフレッド・リベラ戦だった。ライト級では歴史的な強さを発揮したモズリーは、今回のブローナー同様に飛び級でウェルター級に進出。その初戦では体格で上回るリベラに大苦戦を味合わされ、先行きに疑問を呈する声も囁かれたものだった。
それでもここで貴重な経験を得たモズリーは、新たな階級での身体作りを進め、2戦後にはウェルター級のウェイトでオスカー・デラホーヤをも撃破。才能に溢れたボクサーでも、昇級時には適応の時間が必要になことを示す好例と言って良い。
ブローナーも当時のモズリー同様に身体作りとアジャストメントを進め、一部から「フロイド・メイウェザーの後継者」とまで評価される力をスーパーライト、ウェルター級でも誇示できるかどうか。
その答えを明らかにするべく、対戦が実現すれば楽しみな相手候補にはこと欠かない。ウェルター級では過去3戦連続KO勝利でトップ戦線に戻ったマルコス・マイダナ、フロイド・メイウェザーに敗れたばかりのロバート・ゲレーロ、20戦全勝18KOと売り出し中のキース・サーマン、スーパーライト級では9月以降に直接対決を行なう予定のダニー・ガルシア対ルーカス・マティセの勝者・・・・・・
そのマナーの悪さゆえに見ているものをうんざりさせることはあっても、ブローナーが誰にも分かり易い特別な才能を備えていることに異論の余地はない。
秋にも予定される次戦の相手には誰を選ぶか。ウェルター級に止まるのか、あるいはガルシア、マティセ以外にもアミア・カーン、ザブ・ジュダー、ラモント・ピーターソンといったタレントが揃うスーパーライト級戦線に飛び込むか。23歳の王者の選択、行方に、業界内外の視線が集まり続けることになりそうである。