入管法審議での争点振り返りと今後の展望
様々な問題点が内外から指摘されたにもかかわらず、今月、強行採決された入管法改悪案。ただ、法案審議の中で、国会議員や弁護士グループや市民団体、報道などによって、日本の難民受け入れ及び入管制度の問題がこれほど追及され、事実が明らかにされたことは、かつてなかったと言えるだろう。法務省及び出入国在留管理庁(入管)は、法案を押し通して安堵しているのかもしれないが、むしろ、今後、追及される問題が増え、日本の難民受け入れや入管制度の抜本的な改革の必要性が高まったとも言える。本稿では、今回の入管法改悪案審議の中で論議された諸問題を振り返り、改悪入管法の付帯決議も分析していく。
〇桁違いに低い難民認定率
入管法審議の重大な争点であったのが、「送還停止効の例外」、つまり、難民認定申請中の人であっても、3回目以降の申請では、強制送還できるとしたことだ。日本は他の先進諸国に比べ、難民認定率が文字通り桁違いに低く、「送還停止効の例外」を認めることによって、本来、難民として認定され、保護されるべき人々を迫害の恐れのある母国に送還してしまうのではないか、その結果、「間接的に死刑執行ボタンを押す」ことになるのではないか、と懸念された。これに対し、法務省・入管は、そもそも日本の難民認定率が低いこと自体を認めようとしていない。「難民鎖国」との批判に対し、入管は「我が国の難民認定をめぐっては、多くの難民が発生する地域と近接しているかなど、諸外国とは前提となる事情が異なる」との主張をくり返してきた。だが、今年3月9日の参院法務委員会の質疑では、福島瑞穂参議院議員(社民)が、少数民族のクルド人が迫害されているトルコからの難民認定申請者の認定率の各国比較を例にあげ、以下のように追及した。
「トルコ出身者(の難民認定率は)、2019年で、カナダ97.5%、イギリス72.5%、スイス75.1%、アメリカは86.2%、日本は0%です」
「難民の人が全員カナダに行って、日本には難民でない人たちだけが、ずっと何十年と来続けているのではないでしょう。何でこんなに極端に難民認定率が違っているのか?」
「カナダに行ったらほぼ全員救われて、日本では全く救われてこなかった。これ、おかしくないですか?」
これに対し、入管庁の西山卓爾次長は、何ら具体的に答えることは出来なかったのである。つまり、「日本と他の国々では事情が異なる」という入管の常套句は完全に論理崩壊したのだ。
〇国連軽視の開き直り
日本の難民鎖国ぶりや入管制度の問題点については、国連の人権関連の各委員会からも、度重なる改善勧告を受けてきた。今回の入管法改悪についても、「国際人権基準を満たしていない」として、国連人権理事会の移民の人権に関する特別報告者、宗教と信条の自由に関する特別報告者、恣意しい的拘禁作業部会が法案の抜本的な見直しを求める共同書簡を、今年4月21日に公表している。この共同書簡では、以下の点が問題視されている。
1.原則収容主義の維持
2.新設された収容代替措置の問題
3.司法審査の欠如
4.無期限収容
5.子どもの収容に関する問題
6.難民申請者への送還停止効の解除の問題
*詳細はアムネスティ・インターナショナル日本のウェブサイトの解説を参照
https://www.amnesty.or.jp/news/2023/0426_9910.html
これに対し、齋藤健法務大臣は「(書簡は)特別報告者個人の資格で述べられたもので、国連や人権理事会としての見解ではない。また我が国への法的拘束力もない」「一方的に見解が公表されたことについては抗議する」と、「逆ギレ」気味の反応であった。だが、齋藤法務大臣は理解していないのかもしれないが、今回の共同書簡の送付と公開は、国連人権理事会の正式な手続きに基づいて行われたことだ。日本は国連人権理事会の理事国であるが、同理事会の機能及び手続きを否定することは、理事国としてあるまじき暴論である。また、書簡で述べられていることは、国際人権規約に基づくものであり、同規約は日本に対しても法的拘束力を持つ。「法秩序の維持」がその存在理由であるはずの法務省の大臣が、憲法で定められた国際法の遵守(憲法第98条)を蔑ろにすることは、大臣としての資質に欠くと言えるだろう。
〇難民審査参与員制度の問題
今回の国会審議で大きなテーマとなったのが、難民審査参与員制度のあり方や、参与員の一人である柳瀬房子氏の言動だ。
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