ノルウェーで「若者の過激化対策」が話し合われる
20日、ノルウェーの首都オスロでは、暴力的な過激化対策を話し合うノルウェー政府主催のカンファレンスが開催された。
毎年行われる集まりであり、今年のテーマは「対話」。インターネットなどで思想や行動が過激化する傾向において、教育現場では「対話を通じて」どのような対応が可能かが意見交換された。
若者が過激な思想に向かうプロセスにおいて、対話は必要不可欠な対策となる。自分がそう思うからといって、他者もそう思っているとは限らないこと、他者がどのように考えているのかみんなで理解しようとすることが大事だと話し合われた。
ネットでの監視社会は話し合いを難しくさせる
移民や難民などが増加するノルウェー社会において、インターネット上での対話はより困難を極める。
他者と意見が異なる時、ネットでの「監視社会」を恐れて、自分の考えをしまい込もうとする人が増えれば(ノルウェーでは「冷却効果」といわれる)、いつのまにか過激派の増加につながる恐れがあることが指摘された。
ナンセン学校のハンメリン学長(冒頭写真)は、会話に参加するリスクが増加していると話す。
「人々が話し合いを面倒だと感じ、ほんわかな猫の動画をクリックしたくなるのも不思議ではない」と、デジタル社会で監視されていることのリスクが、議論のしにくい雰囲気をうみ、民主主義にとってのリスクにつながるとした。
「自分の意見は偏見かもしれない」と自覚できているか?
「ノルウェーのメディアの報道は多様性に欠けている」。そう指摘するのは、教育現場での対話によって相互理解を深めるとするプロジェクトの試験的導入をおこなうダルバンディさん。
異なるグループ間で「偏見」が広まっており、「全てのノルウェー人は白人」、「全ての移民はムスリム」と思い込んでいる若者が実際は多いと話す。
若者たちが、「自分たちの考えは思い込みで、偏見かもしれない」と自覚するためには、人同士の直接的な会話が必要だとする。
「全員がひとつの結論に同意する必要はなく、難しいテーマについて話しやすい雰囲気づくりが必要。偏見は誰もが持っているもの。なぜ私たちはそう考えるのか、みんなで話し合い、考えることが必要とされている。みんなの意見が違うことはよいことであり、同意する必要はないと伝える。答えはでないが、年齢が若い時から話し合うことで、若者の思想や言動の過激化をおさえることができる」とダルバンディさんは話す。
学校側が積極的に外国人の保護者と交流を
移民・難民を背景とする家族と学校との関係もテーマとなる。
言葉や文化が異なる国にきて、社会に馴染むことに苦労している保護者。授業参観や保護者が集まるミーティングなどに参加しようとしない外国人の保護者に、どう接していいか分からずに、困惑しているとされる教育現場。
「難民や移民が多くの家族を同伴させ、自分たちの国の出身者で集まるネットワークがノルウェーにもあるだろう」というよくある思い込みは、「神話」であり、実際は外国人の保護者は孤立していると、ノルウェー科学技術大学で社会研究を専門とするベルグ教授は語る。
同教授は学校側と外国人保護者が対話できるような試験的プロジェクトを導入している。
娘が「ノルウェー人化」することに、見えない恐怖を抱き、「娘を守らなきゃ」と思い込む親がいること。学校に親がこないのであれば、学校側が自宅を訪問したり、集まる場を設けると、「意外なほど歓迎される」こと、「学校側と話したら、安心した」という保護者からの反応が多いことなどが報告された。
一般的なノルウェー語での会話はできても、ストレスになるテーマの会話では別の言語能力が必要とされる。学校側と外国人保護者の間には優秀な通訳がもっと必要であることも指摘された。
全体的には、若者たちも気づいていない自分の偏見を認識するきっかけを提供すること、ネットではなく対面で話し合うこと、誰もが同意する必要はないこと、例え話しにくいテーマだとしても、若い頃から話し合うことが若者の過激化対策になるなどとして取り上げられた。
Photo&Text: Asaki Abumi