「#性暴力を見過ごさない」動画に賛同の声 性教育YouTuberらが制作
10月11日の国際ガールズデーに公開された「#ActiveBystander=行動する傍観者」とタイトルのついた動画に注目が集まっている。
描かれるのは、日常の中で見かける「性暴力」のシーン。動画の後半では見かけた人が小さな行動を起こす姿が示される。
この動画を制作したのは、性教育YouTuberとして活躍する助産師のシオリーヌさんと、性差別や性暴力についての発信も多い作家のアルテイシアさん。2人に、動画を制作した理由や、多くの人に見られるためにどう工夫したのかを聞いた。
●傍観者に呼びかけることが必要だと思った
ーー公開から2日足らずで告知したツイートが1万回以上「いいね」されるなど大きな反響です。制作のきっかけを教えてください。
アルテイシア(以下、A):もともと性暴力をどう駆逐するかをずっと考えていて、加害者でも被害者でもなく傍観者に呼びかけることが必要だと思ったことがきっかけです。コラム連載の中で「こういう動画を作ってくれる人がいるなら私が脚本を書く。ギャラ1000円でもいい」って書いたら、シオリーヌさんが声をかけてくれました。
シオリーヌ(以下、S):啓発として被害者への呼びかけは今も多いですよね。「タクシーに乗って帰ろう」「夜道ではイヤホンをつけないように」とか。でもそもそも加害者がいなければいいことだし、大勢の「見て見ぬふりの人たち」にも呼びかけたいと思いました。
●加害者も被害者も「ステレオタイプ」にならないよう
ーーアルテイシアさんが脚本を書くときに気をつけたことはありますか?
A:リアルにすることです。女性からは「思い出して泣いてしまった」「あるあるです」という声が多くて。しんどくなる人もいるかと思うけれど、とにかく現実に起こっていることを可視化するのは必要だと思いました。
加害者についても同様で、性加害者は「モテない人」とか「変態っぽい人」と思われがちだけど、ごく普通に見える人が加害をしている事実があります。間違ったステレオタイプに当てはめないように気をつけました。
S:被害に遭う女性についても、いろんなタイプの女性をキャスティングしました。狙われるのは「露出の多い人」とか「小柄で大人しいタイプ」と思われがちですが、そういうケースばかりではないので、大柄な女性にも出てもらって。服装については俳優さんとも打ち合わせを重ねました。
●ナンパを断ったらお腹を殴る真似をされた
ーー動画の中で出てくるのはエスカレーターでの盗撮や路上での痴漢行為、飲み会でのセクハラなどです。「性暴力」というと非日常なものだと思っている人もいるので、この動画で性暴力は日常の中にあるということをしっかり示してくれているのがいいなと思いました。
S:撮影に協力してくれた男性からは、自転車ですれ違いざまに胸を触るシーンについて「本当にこんなことあるの?」という声もあって、その都度、性暴力についての漫画とか資料を見ながら説明しました。
ーー路上でのナンパ行為もありますね。
A:女性が「ナンパが嫌」という話をすると「モテ自慢をしている」という反応をされることもありますが、実際は「断ったらお腹を殴る真似をされた」「体当たりされた」という経験のある人もいます。ナンパを断られて逆ギレした男が女性に暴行を加えた事件も報道されています。
私自身もナンパで怖い思いをしたことがあるし友人の中にもそういう人はいるけれど、男性にはあまり見えない世界。「ナンパは1つの出会いの形じゃん」というコメントもあったのですが、だからといって怖い思いをする人がいていいわけではない。
●「目を持つ人」が1人でも増えれば
ーー動画に寄せられた反応でを教えてください。
S:「スマホから少し目を離すだけで気づけることがあるかもしれない。街中でそういう目を持つ人が1、2人増えるだけでも、安心できる世の中になっていくはず」というようなコメントをもらってうれしかったですね。
女性からは「この中のどの被害にも遭ったことのない人は1人もいないのでは」とか「こうやって助けてくれる人がいれば、あのときの自分は救われた」という声もありました。
A:男友達との会話のきっかけになると言ってくれた女性もいました。彼女が「この動画に登場する被害のほとんどは私も経験がある」と言ったら男性が驚いていたと。
私の友人で柔道黒帯の男性がいるのですが、彼は動画を見て「自分でもその場で加害者に反撃することはできないと思う。だからこういう対応の方法を示してくれるのはうれしい」と言ってくれました。
●上から目線ではなく、問いかけを込めて
ーー性暴力に限らず、啓発・啓蒙の動画は制作が難しいと思います。工夫したことを教えてください。
A:性暴力の記事を書くとクソリプが大量に来たりするのですが、この動画についてはほとんどクソリプがなくて、主人公を傍観者の男性にしたのが良かったのかなと思います。男性が「じぶんごと」として見てくれたのかな。
S:言葉を選ばずに言えば、啓蒙や教育の動画はダサくなりがちです。そこは多くの人に再生して拡散してもらうために、目を引くテロップやBGMを止めるタイミングにも気をつけて作りました。
A:打ち合わせの時にシオリーヌさんにお願いしたのは、道徳の授業みたいにならないようにと。上から目線で言うのではなくて、「あなただったらどうする?」「一緒に考えよう」という問いかけの気持ちを込めました。
ーークソリプが少ないっていうのはいいですね。
A:「犯人が捕まらないと意味がないじゃないか」っていうクソリプはチラッとありました。これは言われるだろうなあと思っていたんですけど、この動画で示したかったのは「助けてくれる人がいることで被害が可視化される」ということ。それに「助けてくれる人がいる」という安心感、社会に対する信頼があれば、被害者は助けを求められます。逆に「誰も助けてくれない」と絶望してしまうと「助けを求めても無駄だ」と1人で抱え込み、支援につながることもできません。
S:「被害者と一緒に警察に行ってあげましょう」だとハードルが高い人もいるけれど、「大丈夫ですか?」という声かけだったらできる人もいるはずで、そういう最初の一歩を見せたかったというのがあります。
A:無視よりマシ。今よりマシなことの積み重ねで社会が変わっていくはず。
●外国語版も作る予定
ーー今後の展開について考えていることがあれば教えてください。
S:外国語訳をつけて海外の人にも見ていただけたらと考えています。あとは、普段ネットを見ない人にも見てもらいたいので、例えば電車の中とか流してもらえる場所があればデータをいくらでもお渡しします。※英語版はすでに公開
<英語字幕版>
ーー映画館で上映前とかに流してほしいですよね。
S:ですね!
A:日本のテレビはあまり性暴力について取り上げないので、ネットでこんなにバズったとか、海外で話題になったとか、そういうことをきっかけでテレビでも取り上げてくれたらいいと思っています。
※シオリーヌさんは現在、性教育に関する書籍を制作中。寄贈を希望する団体や施設へ贈るためにクラウドファンディングを行っている。
性教育YouTuberシオリーヌの性教育本『CHOICE』を全国に届けたい!
(記事内の画像はすべて筆者が動画からスクリーンショットを撮ったもの)