「なぜ買収が再延期?」「破談ならどうなる?」 ミランの10の疑問に伊紙が回答
本当に、“チャイナミラン”は誕生するのだろうか。3日に予定されていた株式売却取引の完了(クロージング)は、再延期される見通しとなった。昨年末に続く2度目の延期だけに、さまざまな疑問が浮上するのは当然だ。イタリア紙が、それらの疑問に答えている。
◆昨年中に実現するはずだった買収
昨年夏に合意に達したミランの買収は、2016年中に実現する予定だった。だが、買い手である中国の投資家グループが延期を要請。1億ユーロ(約120億円)の手付金と引き換えに、クロージングが3月3日まで延期された。
しかし、その期限まで3日となった2月28日、投資家グループが再び延期を要請。国内有力メディアによると、再び1億ユーロの手付金と引き換えに1カ月ほどの延期となる見込みという。
投資家グループの会社「Sino European Sports(SES)」が、クロージングに必要な4億2000万ユーロ(約504億円)を調達しきれていないとの声もある。来週が期限とされる通算3度目の手付金が実際に支払われるかも不明だ。当初から懐疑的な見方が少なくなかった投資家グループを疑う声が強まるのも当然だろう。
一方で、すでに手付金として2億ユーロ(約240億円)を支払っているだけに、SESがいたずらに時間を費やしているとも考えにくい。仮に取引が破談に終わったとしても、手付金は返金されないからだ。SESは何も得ずに巨額の金を失うだけになる。
それでも、度重なるクロージングの先送りに、ミランのオーナーであるシルヴィオ・ベルルスコーニもいら立ちを隠せない。地元メディアによると、同氏は1日に「金が届かなければミランは手放さない」と、売却中止もほのめかしたそうだ。
◆イタリアの2紙がそれぞれ「10の疑問」
チームが欧州の舞台への復帰を目指している一方で、クラブの今後がいまだ定まらないミラン。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』と『コッリエレ・デッロ・スポルト』は2日、ミランの現状に対する10の疑問に回答した。簡単にそれぞれを紹介しよう。
<ガゼッタ・デッロ・スポルト>
1)ベルルスコーニが居残る可能性
もはや売却という決定は下されており、覆ることはない。ミランの運営コストは現オーナーに耐えられるものではないからだ。
2)クロージング再延期による夏の補強への影響
大きな制限になることは明らか。より魅力的な選手がいなくなるリスクはある。
3)ジャンルイジ・ドンナルンマの契約延長への影響
現時点で全員にとっての最大の懸念。時間が経つにつれて状況はデリケートになる。ミーノ・ライオラ代理人が求める確実さは、現時点で供給できない。
4)ヴィンチェンツォ・モンテッラ監督の契約延長
以前から延長予定で、クロージング終了後にすぐ話し合うはずだった。ドンナルンマほどの緊急性はない。むしろ、モンテッラはまだベルルスコーニからの電話に我慢しなければいけない。
5)そのほかの優先すべき契約延長
スソ(2019年)とマッティア・デ・シリオ(2018年)だが、1カ月の差は大きな違いにならない。
6)アドリアーノ・ガッリアーニCEOのクラブ運営
これまでと同じ。マーケットでの動きがある場合、中国サイドと相談した上で決めるのも変わらず。
7)取引破談の場合
ほかの買い手を探す。現在の財務状態でミランが再び立ち上がることはできない。
8)クロージングが実現した場合の最初の動き
中国でのビジネス取引締結。そこから3年間の投資計画のための資金を捻出する狙い。
9)今季の運営資金を払うのは
フィニンヴェスト(ベルルスコーニ氏の会社)だが、SESとはクロージングの際の補てんで合意している。当然、時間が経つにつれて額は増していく。
10)3日の株主総会
法律上からも予定どおり開催されるが、昨年12月のときと同じで何も決まらない形式的なものに。
<コッリエレ・デッロ・スポルト>
1)再延期の理由
SESの資金不足。4億2000万ユーロのうち1億5000万ユーロ(約180億円)が足りない。直近になって投資家が2人撤退した様子。
2)次が最後の期限になるか
現時点で予想不可。次の手付で合計3億ユーロ(約360億円)となり、これだけの金額を捨てることはあり得ないが、昨年12月の延期の際も同じことが言われていた。
3)間違えたのは誰?
全員。SES、特にヨンホン・リー氏は、おそらく手に負えない大きさの取引に首を突っ込んだ。フィニンヴェストも、資金がすべて調達されていないことを知るのが3日前などあり得ない。
4)ベルルスコーニのリアクション
2月27日のランチタイムの時点では、名誉会長を引き受ける決断をした様子だった。今回の問題は彼にとっても驚き。この数カ月、売却しないことも何度も考えたが、フィニンヴェストと子供たちのプレッシャーもあり、もはや売却に関しては断念している。
5)SESの背後にいるのは?
いまだ答えが見つからない。確実で、株主になり得る唯一の投資家がヨンホン・リー。8月から分かっていた「Haixia Capital」は出資者でしかない。「China Huarong Asset Management」の役割は不明で、「China Merchants Bank」は公式に関与を否定した。
6)評価額が高すぎた可能性
債務引き受け分と3年間で3億5000万ユーロ(約420億円)の投資義務を含めると、総額は10億ユーロ(約1200億円)に達する。インテルを買収した蘇寧のような買収者ではなく、登場したのがビー・タエチャウボルやヨンホン・リーのようなブローカーだったのも偶然ではない。
7)取引破談の場合、別の買い手はいるのか
タエチャウボルは時折兆しをみせている。ソニー・ウーも再トライの用意あり。だが、買い手候補を増やすにはミランの評価額を下げるしかない。
8)ドンナルンマの契約延長への影響
複雑化は避けられない。多くのクラブから誘われるドンナルンマが、2018年の契約満了を迎えて新たなチームを選ぶ危険性は具体的。
9)夏の補強に期待すべきこと
1億ユーロ以上の資金があると漏らし、大型補強への期待を高めたのも失敗だった。クラブと選手たちにどういうメッセージが届いているのか。新生ミランとの結婚に最初に疑問を持つのは彼らかもしれない。
10)モンテッラとチームの考え
これまでは監督が非常にうまくチームをこの件から遠ざけ、選手たちも影響を受けなかった。だが、時間が経てばすべてがより難しくなるのは当然。モンテッラ自身が再考する可能性もある。他クラブのオファーにどう反応するかは分からない。
◆問題は守護神への影響、売却は決定事項?
両紙の見解で共通しているのは、守護神ドンナルンマの契約延長問題だ。2月25日に18歳の誕生日を迎え、成人となったドンナルンマとは、最長5年の契約を結ぶことができるようになった。2018年満了予定の現契約の更新は、ミランの最優先課題のひとつとなっている。
だが、ライオラ代理人は「今後のミランをどうなるか見極めるのは義務」と慎重な姿勢だ。現在の先行き不透明なミランでは、数々のビッグディールを手がけてきた敏腕代理人を納得させるのは難しい。買収延期は、チームの未来を担う逸材の確保をも危険にさらしていると言えよう。
そして、やはり両紙が共通して指摘したのは、もはやベルルスコーニがクラブ売却を取りやめることはないという点だ。だが、SESが売却先になるかは不明。破談した場合に新たな買い手を探すという。つまり、結局は不透明な状態ということだ。
1カ月後に今度こそ“チャイナミラン”は誕生するのだろうか。まずは、3度目の手付金の支払いを待たなければいけないが…。