ホビージャパン社員「高額転売」“容認”発言 「中間搾取」の問題を分析する
模型雑誌「月刊ホビージャパン」の社員が23日、商品を希望小売価格・定価より高く売る「高額転売」について“容認”する発言をSNSでしたことから、ネットで大騒ぎになりました。すると25日同社は公式サイトで謝罪し、翌日の26日に社員を「退職処分」にすると発表しました。
◇人は過ちを犯すが…
なお元社員のツイッターには28日現在もおわびコメントが掲載されています。初見でも意味が通じるように「転売して売れているからメーカーも潤っているんじゃないの」など炎上の引き金となったコメント一連を掲載した画像もつけています。
私個人は、これまで「高額転売」は反対という立場で記事を配信してきました。しかし、これまで許容するようなメーカー関係者は見たことがありません。確かに短期的に見たら商品は完売していますが、長期的視点に立つと、本来購入できたファンは、次の商品を購入して業界に今後もお金を落とす……という視点も考えて欲しかったところです。
ですが人は過ちを犯すものです。元社員の方も職を失って、今後の生活もあります。意見はいろいろあるとは思いますが、心を入れ替えたならば、復活してまた活躍できる世であってほしいと願っています。
◇「HJ」が「転売」の隠語的なワードに
むしろ気になるのは、ホビージャパンの姿勢です。迅速・果断と言えばその通りですが、一方で丁寧な説明もなく、「とかげのしっぽ切り」のイメージもぬぐえません。元社員は不用意な発言はあったこそすれ、犯罪を犯したわけでもないのに企業側に「自社の社員を守る」という感じがしない点にも、好感は持てません。社員側から退職の申し出があったのかもしれませんが、それならそう説明すればいいだけのことで、疑問に感じます。
一方で、ホビージャパンの焦りも理解できます。炎上してから「もう雑誌は買わない」という書き込みを、私もネットで何度も目にしました。さらに騒ぎを受けて、今では「転売」ことを「HJ」に置き換える隠語的な書き込みが出ています。今はネタ(冗談半分)で使われている感じですが、イメージの悪化は避けられません。
「高額転売」の猛威は以前からありましたが、ネットオークションやフリマアプリなどの「プラットフォーム」がそろい、誰もが簡単にモノが売れる環境に加え、新型コロナウイルスの「自宅待機」をきっかけに強くなった実感があります。
その象徴の一つがソニーのゲーム機「プレイステーション5」の「高額転売」です。2020年11月に発売された後、各方面に取材をして、実際の出荷数から逆算して中国の発売前の春ごろにある程度は沈静化すると予想しましたが、残念ながらいまだに続いており、自身の見込みの甘さを恥じるばかりです。同時に「高額転売」の根がどんどん広がっていることに危機感を抱いています。
「高額転売」の実態について、今でも取材を続けているのですが、驚くような実態をいくつも知るようになりました。それはまた後日にお伝えできればと思います。
◇メーカーの利益を奪う「中間搾取者」
「高額転売」について、よく聞く擁護意見は「商行為の一つ」ですが、果たしてそうでしょうか? 商行為の公正を守る法律として独占禁止法があり、公正取引委員会は「消費者の利益確保」「国民経済の民主的で健全な発達を促進すること」を掲げていますが、「高額転売」はいずれもそれに反しています。メーカーが本来得る利益を横から奪う「中間搾取者」といったところでしょうか。
百歩譲って、「高額転売」が消費者に付加価値のあるサービスを提供しているならまだ許容できますが、残念ながらそうではありません。昨春の新型コロナウイルスのマスクと消毒液がターゲットになったときは、あっさりと法で規制されました。
それにしても「高額転売」の弊害は、消費者、店舗、メーカーのいずれも大きいものがあります。
消費者は欲しいタイミングで商品が手に入らない上に、希望小売価格以上で購入を強いられます。さらに消費者生活センターも指摘している通り、ネットの取り引きは商品がきちんと届くか?というリスクも背負います。
また店舗側も、本来欲しい人に販売できない上に、大量に買われてしまうと在庫がなくなり欠品となります。完売になっても顧客が増えたわけではなく、むしろ「この店は商品がない」というイメージを植え付け、客離れを招く可能性すらあります。
メーカー側も、増産のタイミングを逃したり、逆に在庫を抱えたり、本来の商品の需要が不明になり、販売の機会損失を招きます。なにより、商品を購入しようとした消費者が、欲しいタイミングで手に入らないことで商品の購入をあきらめる可能性があります。ましてやコレクションのシリーズものであれば、そのダメージはより大きいと言えるでしょう。
「高額転売」について「店は在庫が完売するから問題ない」という理論は、コンサートや舞台、スポーツイベントなどのチケットで置き換えて考えると良いのではないでしょうか。上記のイベントは以前から、迷惑防止条例でダフ屋行為を取り締まっていましたが、ネットは条例で取り締まれる「公共の場所又は公共の乗り物」でないという弱点がありました。
消費者が高額なチケットを買えば、財布の中身が減り、当然イベント中で本来買おうとしたグッズを買う資金が減ります。ここでも本来の権利者に落ちるべきお金が、中間搾取者によって奪われている構図が明確になります。
2019年に施行された「チケット不正転売禁止法」は、ダフ屋行為だけでなく、インターネットでのチケットの不当な「高額転売」などを禁止しています。一方で、当日にイベントに行けなくなった人のために、定価で転売できる公式のリセールサイトがあります。
チケット不正転売禁止法ができたということは、「高額転売」がより大きな社会的な問題になったとき、同様の規制が入る可能性がゼロとは言えません。またマスクや消毒液は現在、国民生活安定緊急措置法の転売規制を解除されましたが、フリマアプリ側は依然として出品禁止にしています。
なお「高額転売」は「経済を回している」という意見もあるようですが、それならあくどいビジネスをしても、極端に言えば犯罪行為をしても「経済を回している」と強弁できてしまいます。メーカーの収益機会を奪い取り、消費者の熱も奪い、その商品の将来的な成長も摘み取るなど、「高額転売」はあらゆる可能性を棄損させているのです。