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「まだ結婚できない男」桑野信介の相続~独身、子どもなしの相続はどうなるのか

竹内豊行政書士
「よけいなお世話」ですが、桑野信介の相続を考えてみました。(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

独身生活を謳歌する阿部寛さんが扮する桑野信介(53歳)が、ひょんなことから出会った女性たちとの間で、回り始める運命の歯車をコミカルに描いた、「まだ結婚できない男」(フジテレビ、毎週火曜日よる9時)がヒットしているようです。

桑野信介の相続

主人公の阿部寛さんが演じる桑野信介(53歳)は、独身で子どももいません。親族は、母親・桑野育代(草笛光子さん)、妹・中川圭子(三浦理恵子さん)、そして姪の中川ゆみ(平祐奈さん)です(父親は既に他界)。

この関係では、常に相続人になる妻(配偶者)と血族相続人の第1順位である子どもがいないので、相続人は第2順位である親(桑野育代)となります。つまり、親が全ての財産を承継することになります。

数年後に、母親が死亡すると、相続人は第3順位である妹の中川圭子になります。そして、中川圭子が先に死亡していた場合は、姪の中川ゆみが代襲相続人として相続人になります。

結婚しないで子もいない場合の相続は手こずる

一般に、未婚で子どももいない方の相続は相続関係が複雑になる傾向があります。

よくあるケースは、両親が既に死亡して、兄弟姉妹が相続人になるケースです。兄弟姉妹といっても疎遠になって人間関係が希薄になっていることが多く、加えて、被相続人(死亡した者)の財産がどれだけあるのか特定することが困難になります。そのため、遺産分けの話合い(遺産分割協議)が長期化・難航する傾向にあります。ちなみに、遺産分割協議は相続人の全員が遺産分けの内容に賛成しないと成立しません。多数決では決められないのです。

さらに、兄弟姉妹の中に先に死亡している者がいると、その者の子ども、つまり、被相続人の甥・姪が相続人になるため、一層協議成立が難しくなってきます。ちなみに、代襲相続人である甥・姪のことを叔父・叔母の財産が思いがけずに転がり込んでくるために、「(うれしくて)笑いが止まらない」ことから「笑う相続人」と言うことがあります。

相続人がいないケースが増える

少子化のため、一人っ子(兄弟姉妹がいない)もめずらしくありません。一人っ子の場合、独身で子どもがいなく、既に両親が他界している状況で死亡すると、法定相続人がいないことになります。この場合、最終的には、遺産が国庫に帰属する場合もあります(民法959条)。

遺言書を活用する

このように、未婚で子どもがいない状況では、兄弟姉妹や甥・姪が相続人になって遺産分割協議の成立が困難になったり、場合によっては相続人が不存在になって遺産が国庫に帰属してしまうこともあります。

そのため、未婚で子どもがいない方は特に遺言書を残しておくことをお勧めします。両親が亡くなっていて兄弟姉妹や甥・姪が相続人の場合は、兄弟姉妹や甥・姪には遺留分(最低限保障された相続分)がないので、自分の財産を自分の思うように残すことができます。なお、結婚するなどして状況が変わったら、その遺言書を撤回して新たに作成し直すことももちろんできます(民法1022条)。

民法1022条(遺言の撤回)

遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

さて、この記事を桑野信介が見たらなんというでしょうか。きっと、「よけいなお世話です」と言われそうですね。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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