4冠統一ヘビー級タイトルマッチ
WBA/IBF/WBO統一ヘビー級チャンピオン、オレクサンドル・ウシクと、WBC同級王者のタイソン・フューリーには身長で15cm、体重で17.46kgもの差があった。それは、ミニマム級とウエルター級、あるいはライト級とライトヘビー級ほどのサイズの違いを意味する。
しかしながら、WBCタイトル保持者は体格のアドバンテージを活かせなかった。元4冠統一クルーザー級チャンピオンは、最重量級でも主要タイトル全てを手にした。
ヘビー級のタイトルが束ねられるのは、レノックス・ルイスがイベンダー・ホリフィールドを下した1999年11月13日以来である。この時の2人にも、11.3kgの差があった。ホリフィールドは、ウシクのようにクルーザーから増量した"スモール"ヘビーだった。
ルイスはヘビー級のなかでもとりわけ恵まれた体躯、パワーを誇り、ホリフィールドを捻じ伏せたが、フィーリーは肉体的な利点を活用した戦いが出来なかった。
初回から3冠チャンプは小気味よいフットワークで、ジャブを放った。フィーリーはいつもの如く、相手を食った、ファンを沸かせるパフォーマンスを見せたものの、自分の距離で戦えない。2ラウンド開始早々に、ウシクのワンツーを浴びた。
WBC王者は膝が伸び切っており、腰の入ったパンチが打てない。そして、動く度に腹回りの贅肉がタプタプと揺れる。25年前に統一ヘビー級戦を戦ったルイスとホリフィールには決して見られなかった締まりのない体である。
WBC王者は昨年10月に元UFCヘビー級王者フランシス・ガヌーと対戦し、スプリット・ディシジョンで勝利した。だが、ボクシングの素人を相手に第3ラウンドに左フックを喰らってダウンを喫し、己の価値を暴落させていた。それでも、真剣に課題と向き合わなかったようだ。
ロープを背負い、横着な戦いを続けるフィーリーに対し、ウシクは攻めの姿勢を崩さない。それもその筈、ウクライナ人である3冠チャンプは、祖国で自身の勝利を願う国民の期待を背負っていることを理解していた。
2022年2月24日にロシアによる侵攻後、先月25日の時点でウクライナ兵士は3万1000人、民間人の被害者が1万582人となったことが明らかにされている。ウシクは自らの勝利が国民を勇気付け、哀しみにくれる同胞に、ささやかであっても安らぎを与えようと、戦ったのだ。
6ラウンドに右アッパーを浴びてピンチを迎えた折にも、ウクライナ人王者は下がらず、粘りを見せる。そして第9ラウンドには左ストレートを効果的に見舞い、ロープダウンを奪った。
結局、115-112、114-113、113-114と2-1の判定で、ウシクはヘビー級主要4団体を統一した初の王者となった。37歳のウクライナ人チャンピオンは語った。
「私のチームに感謝する。家族、自分自身、そして祖国にとって最高の勝利だ。素晴らしい時間になった。いつでも再戦する気持ちはあるよ」
小が大を打ち破ったこのファイトは、苦しむウクライナ人に希望の光を灯したに違いない。