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【犬の未来を考える】ぐるぐる回るなどのシニア犬の行動をイラストで解説

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:イメージマート)

コロナ禍で「孤独を感じる」「ぬくもりがほしい」などと思った人たちが、犬を飼いはじめています。新規飼育する人のなかには、SNS上に投稿された犬の可愛らしさの部分だけを見て、よく考えずにペットショップで購入することもあります。

そんな人たちのなかには、「犬の認知症」があることを知らない人もいるのです。犬の寿命が短い時代(寿命が10歳もない)は、認知症という病気はあまりありませんでした。

いまや犬の平均寿命は約14歳です。そうなると、加齢による認知症になる犬は割合にいます。犬が若いときから、犬の認知症の知識を持っているとシニア犬になったときに、慌てることが少なります。今日は、犬の認知症をわかりやすくイラストを使って解説します。

シニア犬の問題行動

画像制作 Yahoo!ニュース
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シニア犬の問題行動は、いろいろとありますが、主なものは以下です。

ぐるぐる回るような動きをする(旋回運動)

部屋の隅や狭い場所に頭を突っ込む

夜鳴きをするようになる

それでは、詳しくみてみましょう。

・ぐるぐる回るような動きをする(旋回運動)

犬は、目的を持たずぐるぐると回ることはあまりしません(よほどストレスがあるときにすることもあります)。

異常がないときは、食べたい場合はキッチンに行く、家族の人が帰宅したら玄関に迎えるなどと意味のある行動をします。

しかし、ぐるぐると回るような動きをする場合は、淡々と回っています。自分では止めることができず、誰かに脳を占領されたように動いています。そして、愛犬の目を見ると、虚ろで視線が合わないこともあります。

部屋の隅や狭い場所に頭を突っ込む

犬の大好きなおもちゃやフードがあるときは、部屋の隅に頭を突っ込むことがあります。それ以外のことで、このような行動をしている場合は、認知症の疑いがあります。

正常な行動の場合との大きな違いは、認知症になった犬は、後ろに戻る行動ができないことです。自分では、行き止まりだということを理解していても、それでは「どのようにするばいいのか」わからず犬自身もパニックになり鳴き続ける子もいます。

夜鳴きをするようになる

飼い主が、犬の認知症で来院されるケースで一番多いのが、この夜鳴きです。

夜はとくに、鳴き声は響くので近所迷惑になります。そのうえ、飼い主も睡眠不足になるので、鳴かずに眠るようにしてほしいと言われます。

認知症は急にはやって来ない

写真:イメージマート

飼い主から見れば、急にぐるぐると回り始めたように見えるかもしれません。しかし、段階を経てぐるぐる回って、夜鳴きに悩まされることになるのです。10歳以上になったら、以下の点に注意しながら、愛犬を見てあげてください。

(犬の行動)

・用事もないのに行ったり来たりする

・よく知っているはずの人がわかならい(初めて会ったような態度をする)

・よく遊んでいた犬を覚えていない(初めて会ったような態度をする)

・犬の名前を呼んでも反応が鈍くなる

・活動的でなくなり、寝ている時間が長くなる

・目の前に初めて見るものがあってもニオイを嗅いだり見たりしなくなる

(犬と家族との関係)

・家族になでてほしいとか求めなくなる

・遊んでほしいとアピールしなくなる

・出迎えなくなる

・表情が乏しくなる

愛犬にこのような動作が見られたら、そろそろ認知症になってきたという自覚を持ちましょう。

認知症と似たような病気

上述のような症状があっても、全てが認知症ではありません。それ以外の病気が隠れているかもしれません。

□前庭疾患

首が片方に傾いたままになったりします(斜頸 しゃけい)。そのため、立っていられずひっくり返ります。それ以外にも眼振(がんしん)という眼球が一定方向に小刻みに往復運動をする症状が出ることもあります。いわゆる目が回った状態になるのです。

内耳の前庭部(三半規管と蝸牛の間)の障害によって起こります。

□てんかん

体が突然けいれんしたり、硬直したり、意識がもうろうとしたりします。脳炎などの病気や外傷によるものなどがあります。

□脳腫瘍

腫瘍が脳のどの部分にできるかによって症状が異なります。上記のような前庭疾患やてんかんを起こすこともあります。認知症のような旋回運動、運動失調、顔面まひなどが見られることもあります。確定診断をしようと思うと脳の画像診断が必要です。

愛犬の様子に異変があれば、身体検査、血圧測定、尿検査、血液検査などをしてもらい獣医師とよく相談してください。

認知症の予防と治療

認知症は、加齢によるものなので少しは予防ができます。

(予防)

不飽和脂肪酸(DHA、EPAなど)の摂取

比較的若いときから、DHAやEPAなどの青魚に多く含まれる不飽和脂肪酸を与えると夜鳴きやぐるぐる回るなどの認知症の予防に効果があるとされています。サプリメントであります。

抗酸化作用のある成分の摂取

体内で発生する活性酸素は、神経細胞を傷つけることがあるので、抗酸化物質を与えると、認知症の予防になるといわれています。具体的には、β-カロチン、ビタミンC、ビタミンEなどを含んだ野菜や果物やサプリメントで補うことです。

刺激のある生活をさせる

愛犬に声をかけたりスキンシップをしたりしてあげてください。散歩に連れ出すことや知らない公園に連れていくことなどもいいです。愛犬にできるだけ刺激のある生活を送らせましょう。

(治療)

ぐるぐると回るのを止めることは、難しいですが、夜鳴きを止めることや睡眠時間を長くすることなどはある程度できます。

ただ、その子によって症状が違うので、この薬だけ飲ませると大丈夫というものを処方するまで時間がかかる場合もあります。

睡眠時間を長くするためであってもずっと寝ていると困るので、薬の調節は、認知症などを専門にしている獣医師にかかることをおすすめします。

シニア犬の飼い主のできること

写真:イメージマート

愛犬が「ぐるぐると回る」や「夜鳴きをする」と飼い主は、精神的にも肉体的にも疲れてきます。追い詰められてきます。

犬を飼っていると、加齢によってこのような行動変化が起こるのかを知っていれば、早い時期から対策が取れます。

夜鳴きや夜間に寝ない場合は、内服薬などで症状を改善することができます。それは、対症療法なので完治することはないのです。ずっと飲まないといけません。

ここで問題になってくるのが医療費です。大型犬は、小型犬より体重があるため治療費が高くなります。

夜鳴きしていた犬を安らかに眠らそうとすると、ほとんどの場合は飲み始めると薬がずっと必要になります。その辺りのことも考えて、犬が若いときから愛犬の貯金をしておくといいです。

愛犬が加齢により認知症による夜鳴きが始まったときに、こんなはずではなかったと思うことがないように、シニア犬がぐるぐると回ったら、次にどんなことがあるのかを知識として持っていると、愛犬に愛情深く接するこができるのではないでしょうか。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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