恋心とカネ、コロナ禍の「心の隙間」につけ込む詐欺が巧妙化
■架空の女性になりすまし、独自の暗号資産に投資させる巧妙な手口
東京都の投資関連会社社長やその妻、エンジニアら6人が資金決済法違反容疑や詐欺容疑で逮捕された事件が報じられました。マッチングアプリで出会った男性に対し、メッセージのやり取りやボイスチェンジャーアプリで声を変え、「投資成功者の女性」を装うなどして勧誘し、独自に開発した暗号資産を無登録で販売していたとみられています。
報道によれば、おととし8月~去年9月にかけて男性5人から約4000万円相当をだまし取った疑いのほか、約1500人から20億円近くを集めていたとも言われており、余罪を含めて警察が実態解明を進めているようです。
被害者は被害を訴えた当初、「投資は自己責任」と言われたことも明かしていて、犯人グループは暗号資産への投資という法律が追い付いていない分野であることを巧妙に利用していますが、恋愛感情を利用した詐欺は昔からある手法でもあります。
新型コロナの影響で増大しつつある、孤独や将来不安という心の隙につけ込み、ニセの信頼関係を築き、現金などを盗み出す詐欺行為。実は、英・ロイターでも2020年ごろから報じられており、世界的に発生しているとみられます。
婚活現場に身を置き、マッチングアプリ関連の事件でコメントを求められることも多い筆者の視点で、今回の事件や類似する過去の事件を考察していきます。
■身分を偽ることは可能? マッチングアプリの現状
今回の事件のポイントは2つあります。ひとつめはマッチングアプリのプロフィールの不確かさです。
マッチングアプリも多種多様になってきていますが、恋愛・結婚に関して言うと、まず「恋愛・恋活」と「結婚・婚活」を目的としたものがあります。恋愛・婚活目的のほうはより登録の簡単さ・手軽さに特化したものが多く、何の証明も不要で、「写真の盗用や利用規約違反など不審な会員がいれば管理会社に報告できる」というボタンを設置しているだけ、というアプリは少なくありません。
一方、結婚・婚活目的を謳うアプリも、一部「メッセージのやりとりの前には運転免許証やパスポートなどで本人確認が必要」など身分証明書が必要なものはあっても、実態はほとんど恋愛・恋活と大きく変わらないものも多いという現状です。とはいえ、運転免許証やパスポートを偽造するのは難しいので、今回の事件のように性別を超えた成りすましなどはブロックできるでしょう。
また、報道ではメッセージのやりとりは別のメッセージアプリ画面が中心でしたから、マッチングアプリ側が個人情報のやりとりを禁じていても、抜け道はいくらでもあるとも言えます。
以前は就活やOG・OB訪問に特化したマッチングアプリで、複数の就活女性や大学生が性被害にあう事件もありました。最近は、ベビーシッター、不動産など様々な目的のマッチングアプリが生まれていますが、正直、その管理状況は運営元によってかなり差があるようで、まだまだ過渡期の段階と言えます。匿名性や自由度が高いと、利便性は高くても本来の目的とは違う使われ方をされやすく、結果的に性被害や詐欺などが横行する結果になることも多く報じられています。
結婚相談所の場合、独身証明や職業・収入の証明書が必要なので、偽りのプロフィールは作れない代わりに、書類を準備する手間や入会料がかかります。結局は、気軽さとリスクを天秤にかけて、当人が判断するしかありません。
では、どう対策するかでいうと、最初から不確かなプロフィールだと疑ってかかり、個人で相手の身分証を確認する、それまでは自分の個人情報は出さない、写真やメッセージの好感度で気を緩めないというほかありません。
■恋愛感情から「詐欺だと認めたくない」心理も……
続いてのポイントは、恋愛感情に付け込んだ詐欺でもある点です。
冒頭の事件に関するメディア報道によれば、社長の山田容疑者は、「男性よりも女性を装ったほうが警戒されずに投資話に乗ってくる」と関係者に話していたとも報じられています。
また、被害者の一人は「疑う訳ではないけど、安心が欲しいから(中略)2000万入れたとこ見せてもらえない?」とメッセージをしていた履歴もあり、やり取りの中で揺らぐ心理が見て取れます。
以前にも、出会い系アプリで出会った男性に「稼げる情報を教える」などと虚偽の説明をし、投資の指導料名目で現金50万円をだまし取った事件があったことを記憶しています。逮捕された3人にアイドルグループの元メンバーが含まれていたことで話題になった事件です。被害者は20代など若い男性で、元アイドルや魅力的な女性とつながりたい、付き合いたい、あわよくばもっと稼ぎたいという普遍的な心理を利用したとみられます。
また、女性が被害者のケースだと、SNSで外国人を装った相手と連絡を取るうちに現金をだまし取られる、いわゆる「国際ロマンス詐欺」も増加傾向です。国民生活センターの調べによると、19年度の相談は25件だったところが20年度は58件に増えたとのこと。恋愛マッチングアプリだけでなく、語学アプリのSNS機能から、50代など比較的高齢な女性が被害にあうケースも。
女性の場合、結婚詐欺との関連も根強く、男性の財力やエリートのステイタスに惹かれ、出費があっても結婚して取り戻せるという心理が働くことも。結果、100万~200万円を数回に分けて振り込み合計何千万の被害になっていることが少なくありません。私が過去に相談を受けた人の中には、シングルマザーで子どもの教育費を言われるままつぎ込んでしまったケースや、婚活パーティー会場の外で出会った相手と意気投合して不動産や宝石の高額契約を結んだもののすぐに相手が消えてしまってから価値が低いことに気づいたというケースがありました。
いずれも「会ったこともない人になぜ大金を?」と思いますが、犯人に抱いていた恋愛感情から指示に従い、途中で気がかりなことがあっても、「詐欺だと認めたくない、嫌われたくない」という心理が共通しています。
実際に会って、手で触れていても相手の本音というのは見抜きにくいもの。まずは相手が実在し、信じられる人かどうか? プロフィールにウソはないか? それを確かめてから、恋愛感情を抱いても遅くはありません。