石破茂新首相のアジア版NATO構想は中国はおろか、インドやASEANの支持も得られていない
自民党の石破茂新総裁は10月1日、国会で第102代の総理大臣に選出され、新たな内閣を発足させる。長らく続いた安倍一強時代、閑職に干されてきた石破氏が政権中枢にカムバックする。これは自民党内での疑似政権交代と言ってもいい。旧統一教会問題や派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件でダメージを受けた、自民党による安倍政治の総括の一環と言ってもよいかもしれない。
石破氏の外交・安全保障政策をめぐっては、同氏が提案する「アジア版NATO」構想が早速、激しい論議を巻き起こしている。とりわけ、その実現性をめぐっては、懐疑的な見方が根強い。
石破氏は、米国の保守系シンクタンク「ハドソン研究所」に寄稿した9月25日公表の論文の中で、「今のウクライナは明日のアジア。ロシアを中国、ウクライナを台湾に置き換えれば、アジアにNATOのような集団的自衛体制が存在しないため、相互防衛の義務がないため戦争が勃発しやすい状態にある。この状況で中国を西側同盟国が抑止するためにはアジア版NATOの創設が不可欠である」と主張した。
そして、インド太平洋地域で、日米豪印協力枠組み「QUAD」(クアッド)が首脳会談レベルまで引き上げられたほか、米英豪安全保障枠組み「AUKUS」(オーカス)も2021年9月に創設されたことを取り上げた。
しかし、中国はおろか、インドや東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国もアジア版NATO設立に反対だろう。
●インドの見方
インドは、中国と東西に約3500キロに及ぶ国境線(日本の北端の択捉島から西端の与那国島までの約3300キロに比肩する距離)を抱え、中国との不要な緊張対立や関係悪化を望んでいない。インドは中国と長年にわたる領土紛争問題を抱えている。直近では、2022年12月にインド東端の山岳部のアルナチャル・プラデシュ州タワン地区で両軍の武力衝突が勃発した。
インドの外交官たちはこれまで常々、筆者の取材に対し、「インドは日米豪とともにクアッドに参加しているが、クアッドが反中国の軍事的な包囲網になることを望んでいない」と述べてきた。そして、クアッド自体の安全保障協力の色合いを薄め、経済や技術協力、民間支援などについても対話を重ねていることを強調してきた。
また、例えば、2023年5月に東京で開催されたクアッド首脳会合の共同声明文は、インド太平洋地域での「力又は威圧による一方的な現状変更の試み」に強く反対すると述べたが、「中国」や「中華人民共和国」といった言葉が一切出てこずに、中国を名指しすることを避けた。日米豪の3カ国による、中国との過度な関係悪化を望まないインドへの配慮があったとみられている。
そして、そもそも何より、インドは、特定の同盟や大国によって自国の外交の手足が縛られるべきではないという「戦略的自律性」を外交の基本方針に掲げており、アジア版NATO設立に組することはないだろう。
●ASEANの見方
では、石破氏の掲げるアジア版NATO構想についてのアセアンの見方はどうか。
アセアンのある外交官は9月28日、匿名を条件に筆者の取材に応じ、次のように答えた。
「アジア諸国は、東南アジア諸国を含め、中国とさまざまな関係を築いている。中には経済パートナーとして北京やワシントンと強いつながりを持つ国もある。アジア諸国間の相違や対中政策に関する統一性の欠如により、NATOのようなアジア同盟の出現は不確かだろう」
石破新政権はアジア版NATO構想に限って見ても、外交と安全保障の面で困難なスタートに直面するかもしれない。
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