防衛省が画像を購入する米地球観測衛星、軌道上トラブルで修復不能に
2019年1月8日(日本時間)、米マクスター・テクノロジーズマクサー・テクノロジーズ社は、光学分解能30センチメートルの性能を持つ超高解像度地球観測衛星WorldView-4(ワールドビュー4)が軌道上で姿勢制御装置の故障のため今後の撮像ができないと発表した。WorldView-4は防衛省による「常続的な撮像優先権を有する主幹光学衛星」と位置づけられており、平成31年度は約105億円の画像利用予算要求(欧州の地球観測衛星などの画像利用も含む)が出されている。
※2019年1月10日、Maxar Technologiesの日本語表記を訂正いたしました。
WorldView-4は2016年11月に打ち上げられた商用地球観測衛星。マクサー・テクノロジーズ傘下のDigitalGlobe(デジタルグローブ)社が打ち上げ、運用を担っている。デジタルグローブはWorldView-3、4を同時に運用しており、2機の衛星は米政府から許可された商用光学地球観測衛星では最高レベルの解像度となる分解能30センチメートルの衛星画像を撮像できる。パンクロマチック(モノクロ)の解像度は30センチメートル、可視・近赤外の4波長では50センチメートルの解像度となる。観測幅は13.1キロメートルで、北緯40度を4.5日間に1回撮影可能だ。
WorldView-4は計画段階ではGeoEye2(ジオアイ2)と呼ばれており、2013年にアメリカで地球観測衛星を運用する主要企業2社がデジタルグローブ社として統合された際に、WorldView-4へと名称変更された。衛星本体はロッキード・マーチン社が製造している。2016年11月に米カリフォルニア州の空軍基地から打ち上げられた際には、付近で起きていた山火事が基地に迫り、打ち上げが遅れるというトラブルにも見舞われた。
今回発表された衛星の故障は、ハネウェル社製のコントロールモーメントジャイロ(CMG)と呼ばれる姿勢制御装置で起きた。CMGとは高速で回転する円盤(フライホイール)の軸を傾けることによりトルクを生み出し、人工衛星の姿勢を制御する装置で、国際宇宙ステーションなど大型の宇宙機の使用に適しているとされる。WorldView-4のような比較的大型の地球観測衛星では、撮影したい方向へ撮像装置を正しく向けるために姿勢制御装置の役割が大きい。姿勢を高速で制御でき、WorldView-4の特徴でもあった装置の故障により、衛星の他の部分は動作していても、もはや目的の地域の撮像ができなくなった。
WorldView-4の設計寿命は7年で、10~12年程度は運用できる可能性があるとされていた。打ち上げから2年2ヶ月で地球観測衛星としての運用ができなくなり、今後は高度617キロメートルを周回する衛星の軌道上での位置と健康状態を監視していくことになるという。
マクサー・テクノロジーズ社はWorldView-4の運用により2018年は8500億万ドルの収益を挙げた。現在の衛星の価値は1億5500万ドルとされ、1億8300万ドルの保険で損失を相殺する方向で検討しているという。
※2019年1月10日、収益の単位に誤りがありましたため訂正いたしました。
商用地球観測衛星による高解像度の衛星画像の主な顧客は政府需要が大きいとされ、日本の防衛省も平成28年度(2016年度)から日本の周辺地域での軍事動向把握のため、WorldView-4の画像データを利用している。欧州のレーダー衛星画像などの利用も含め、「商用画像衛星・気象衛星情報等の利用」に関わる平成31年度予算案は105億2600万円となっている。マクサー・テクノロジーズ社の発表では、既存の顧客からの撮像リクエストは運用中の他の衛星、または外部リソースで置き換えるという。とはいえ、WorldView-4と同等の性能を持つ地球観測衛星はほぼWorldView-3のみと言ってもよく、大幅に増えると見込まれる撮像リクエストを処理できるのか、運用中止の影響が懸念される。