インフルエンザなのに出勤を強要されたら? 法律と対処法を解説する
「インフルエンザなのに、人手が足りないと言われ、休ませてもらえない」
「体調不良のため有給休暇を取ろうとしたが、認めてもらえない」
この時期、私たちNPO法人POSSEの相談窓口には、必ずこのような労働相談が寄せられる。
他にも、試用期間中に子どもがインフルエンザに罹ったため看護休暇を申請したら「正社員として採用できない」と言われた、風邪で休んだ分休日に無給で出勤させられたなど、関連する事例を挙げれば枚挙にいとまがない。ひどい場合には、インフルエンザで一週間ほど休んだところ解雇されてしまったというケースまである。
体調不良時に会社が出勤を強要することに違法性はないのだろうか? パワハラに当たるのではないか? このような疑問をお持ちの方も多いだろう。
そこで今回は、法律について解説しながら、このような事態に直面した場合にどのように対処すればよいのかをお伝えしたい。
出勤の強要は違法性が高い
具体的な条文を引用して、法律を解説していこう。まず、労働契約法には、次のような定めがある。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする(労働契約法第5条)。
簡単にいうと、使用者は、労働者の安全を確保するための配慮をする義務を負っている。これを「安全配慮義務」という。それゆえ、使用者による出勤命令は無制限に認められるものではなく、安全配慮義務に基づく一定の制約を受ける。
医者から診断書が出ていて、客観的に病気であることが明らかな場合に出勤をすれば、症状を悪化させ、労働者の生命や健康を危機に晒すことになる。
このような場合は安全配慮義務違反に当たり、一般的には「パワーハラスメント」に該当するといえるだろう。
厚生労働省はパワーハラスメントの6つの類型を示しており、その一つには「過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害」が挙げられている。
インフルエンザに感染している間に無理な業務命令を行うことが、この「過大な要求」に該当することは明らかだ。
さらに、インフルエンザのような感染性の高い病気については、労働安全衛生法に次のような規定がある。
事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかった労働者については、厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない(労働安全衛生法第68条)。
やや細かくなるが、就業禁止の対象となる疾病について、労働安全衛生規則第61条では「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者」が挙げられている。これに該当する場合、原則として、会社は労働者を出勤させてはならない。
特に、新型インフルエンザの場合、感染症法第18条において就業制限の対象として明記されている。
季節性のインフルエンザの場合、感染症法による就業制限の対象にはなっていないが、そもそもインフルエンザに罹患している労働者を出勤させれば、職場の同僚に感染してしまう可能性が高い。
職場全体に対して安全配慮義務を負っている会社は、該当の労働者を休ませ、感染を予防する義務があるといえるだろう。
つまり、インフルエンザに罹患している労働者を出勤させた場合、労働安全衛生法第68条違反と判断される可能性も否定はできない。この場合、事業者には、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科される可能性がある(労働安全衛生法119条1号)。
冒頭に挙げたような、有給休暇や子の看護休暇を取らせてもらえないケースも、法律で認められた労働者の権利を侵害するものであり、当然、違法であると判断される可能性はある。
出勤を強要されて症状が悪化した場合
深刻なケースとして、労働者が体調不良を訴え、退職を申し出ているにもかかわらず、辞めさせてもらえず、働き続けた結果、症状を悪化させてしまうことがある(なお、使用者の承諾がなくても、辞職することは可能である)。
特に多いのは、長時間労働による過労が原因で精神疾患を患ってしまい、上司に退職したいと伝えたが取り合ってもらえず、就労を継続した結果、とうとう倒れてしまったというような相談だ。
インフルエンザの場合も、無理して働くことによって重症化させてしまうと、健康を著しく害する危険性があり、最悪の場合、命を落とすことにもつながりかねない。
このように、病気を患った労働者が出勤を強要されたことによって症状が悪化した場合など、会社に安全配慮義務違反があったことが原因で損害が発生した場合には、会社に対して民事上の損害賠償責任を問うことができる。
出勤を強要された場合の対処法は?
法律の解説は以上のとおりだ。労働者も使用者もこのようなルールがあることをしっかりと認識する必要がある。ただ、実際には、法律遵守の意識が希薄で、出勤を強要しようとする上司が少なくないのも事実だ。
では、このような事態に直面した場合に、労働者はどのように対応したらよいのだろうか。
率直に言って、体調不良を訴えているにもかかわらず休ませてもらえない会社は、いわゆる「ブラック企業」である可能性が高いといってよいだろう。そのようなことが横行していたり、周りも黙認していたりするとすれば、その可能性はより高い。
筆者が共同代表を務めるブラック企業対策プロジェクトのホームページにブラック企業の特徴をまとめているので、思い当たる方は参考にしてほしい。
働いている会社がブラック企業かもしれないと思った場合には、そのまま働き続けることはお勧めできない。ブラック企業は、会社の利益を最大にするために、労働者の権利や生活を無視し、その健康や生命を危険に晒すためだ。
このような場合に最も有効なのが、ユニオン(労働組合)の活用だ。労働者個人が一人で会社と交渉して問題の解決を図るのは難しい。
また、労働基準監督署などに駆け込んで行政から指導が入ったとしても、悪質なブラック企業ではそれを無視し続けてしまう。2年間に20回以上指導されながら、結局体質を変えていない企業もある。
そこで、労使の力の格差を是正し、「対等な交渉」を実現するために労働組合法が定められている。
ユニオンに加入することによって、会社と集団的な交渉を行うことができ、問題の解決につなげることができるのだ。
ユニオンの魅力は、職場のあらゆる課題を労使間の話し合いによって柔軟に解決していけることだ。
職場の安全衛生を保つことや有給休暇を希望通りに取得することなど、法律で認められた権利はもちろんのこと、時には、法律には明記されていない事項についても交渉することができる。
先ほどのように、インフルエンザ患者への出勤強要は違法であると判断される可能性は高いものの、実際には休んだ後に解雇されたり、不利益な取り扱いをされるといったケースが多い。
そうした不当な扱いについても、ユニオンであれば「交渉」であるので、問題化しやすい。
たとえ社内に労働組合がない場合(あるいは、社内の組合が機能していない場合)でも、「ブラック企業ユニオン」(末尾参照)など、個人で加盟できるユニオンがある。
また、このまま働いていたら危険だと思う場合には、退職して他の就職先を探すのもよいだろう。ただ、この場合にも、出勤の強要や有給休暇を取得させないといったパワハラがあった場合には、離職の原因は会社にあり、会社側の責任を問うべきだ。
ユニオンを通じて交渉することにより金銭的な補償を勝ち取ることができた事例は多い。
病気で休むことができないなど、ご自身の働き方に不安や疑問を抱いている方は是非一度、外部の労働相談窓口に相談してみてほしい。
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