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独占インタビュー「日本代表GKを支え続ける男」

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 カタールW杯に出場する日本代表選手26名が発表になった。Aキャップ11を数え、198cmの高さを誇るGKのシュミット・ダニエルも順当に選出された。

写真:西村尚己/アフロスポーツ

 中央大学に入学した2010年4月以来、シュミットとの時間を共有する木村陽一郎にとっても、その喜びは格別だった。と同時に、これからが本当の戦いだ、という思いもある。

 大学入学と同時にサッカー部でチームメイトとなり、現在は日本代表GKの個人事務所のマネージャーとして親友と寄り添う木村は、中央大学の背番号9としてゴールを狙うストライカーだった。大学卒業後も地域リーグに属するいくつかのチームを渡り歩き、現在も休日はピッチに立っている。従業員4名を雇用する保険代理店の社長が本業だ。186cmのがっしりとした体型にパワフルな語り口が、やり手であることを伝えてくる。

写真:木村氏提供
写真:木村氏提供

 木村はシュミットを“ダン”と呼ぶ。

 「僕らの頃の中大は、サッカー推薦で10名を採っていました。入学後、それぞれ思い出の試合を語るような機会があったんです。ダンを除いた全員が、高校時代の全国大会の話をしているというのに、彼だけは宮城県のベスト8で勝った試合を挙げて……おいおい、どんなレベルだよ、と最初は感じたものです(笑)。

 でも、ダンは1年生からAチームに入り、川崎フロンターレの特別指定選手としてブラジル人コーチの指導を受け、グングン力をつけていきました。それはもう、驚くほどの成長ぶりでしたね。自分は2年生でAに上がったんですが、一緒にプレーすると本当に頼もしかったです。僕は文学部、ダンは法学部でしたが、同じ寮で生活していましたし、現在、ベガルタ仙台の皆川佑介、ロアッソ熊本の田辺圭佑の4人でいつも一緒にいた記憶があります」

写真:木村氏提供 中央が木村氏、右端がシュミット
写真:木村氏提供 中央が木村氏、右端がシュミット

 木村もまたJリーガーを目指したが叶わず、Vonds市原、東京ユナイテッド、三菱養和SCの社会人チームなどでプレーしながら、保険の営業マンとして己を磨いていく。

 「仲間のJリーガーに負けないよう稼ぐ! と目標を立てました。単なる営業にはならず、自分がどんな人間なのか全てをお客様に知って頂くことを課しています。それが信頼に繋がるんです。また、どんな方に対しても、レスポンスを30分以内にすることを心掛けています。

 あらゆる仕事でそうでしょうが、相手に対して誠心誠意努めることが大事ですよね。全力でやらないと。お客様から『ありがとう』と言われると、やはり嬉しいものです」

写真:木村氏提供
写真:木村氏提供

 新卒でベガルタ仙台に入団したシュミットを応援しながら、公私ともに支えてきた。

 「すぐにレギュラーを獲るんじゃないかと思っていましたが、なかなか能力を発揮できませんでした。J2のロアッソ熊本、松本山雅で実績を積みながら本物になっていきましたね。大学時代のダンも力はあったのですが、1年先輩にヴァンフォーレ甲府に入った岡西宏祐さんがいたため、4年生になるまで正GKにはなれなかったんです。それでも、常に謙虚に自分の課題と向かい合い、努力を重ねました。色んな壁に当たって、その都度、乗り越えてきた男ですよ」

写真:ムツ・カワモリ/アフロ

 シュミットが日本代表に初招集された2018年、木村もフルコミの保険営業マンとして独立した。そしてシュミットの個人事務所を手伝うようになる。

 「友のために力になりたいと思いました。自分がワールドカップに出ることはもうありませんが、ダンが夢の舞台に立つためなら出来ることは何でもやる気持ちです。

 彼が代表でプレーする姿を初めて生で目にしたのは、今年6月22日のチュニジア戦でした。あのキリンチャレンジカップでは、間違いなく2試合出場すると信じていました。いつものダンとは目付きが違っていて、気魄を感じましたね。サッカーって自分が活躍するからこそ楽しいものだとずっと思っていましたが、入場してくるダンを見て、他者を見てもこんなに感動するんだということを、初めて知りました」

写真:木村氏提供
写真:木村氏提供

 シュミットが株を上げた9月27日のエクアドル戦は、両親とハイタッチしながらTV観戦した。

 「親とハイタッチなんて初めてだった気がします。あの日のダンのパフォーマンスは、本当に良かったですよね。PKを止めたシーンなんて涙が出ましたよ。

 世間が何と言おうと、僕はダンが日本ナンバーワンのGKだと思っています。僕らには2つ夢があって、一つはダンがワールドカップに出場すること。もう一つは、チャンピオンズリーグでプレーすることなんです。彼は30歳になって、プレーの幅が広がり、まだまだ伸びています。もっともっと上を目指してほしいですね。自分はこれからも、陰ながらダンを支えていければと考えています」

写真:ムツ・カワモリ/アフロ

 カタールW杯でのシュミットのプレーに期待大だ。そして、2つ目の夢も手繰り寄せろ!

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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