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北海道在住の方へ 九州からお取り寄せした10000円以上の冷凍おせちが冷蔵で届いたら全部捨てますか?

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

2018年12月末、ある食品業界の方からメールが届いた。北海道在住者が注文した九州の会社のおせち料理が、途中で宅配会社の温度設定ミスで、冷凍だったのを冷蔵で運んでしまった。そのため、注文数1268個、販売総額1880万円にのぼるおせち料理を配達できなかったという。

頂いたメールには

「おせちは冷凍で届きますが、常温で24時間かけて解凍するんですよ。冷蔵で配送されただけで、配達されないなんて・・・。たぶん廃棄ですよね。ほんと残念です」

出典:2018年12月末に頂いたメールの一部

とあった。この方は食品業界が長く、品質管理にも詳しい。食べ物に対する情熱と思い入れが深い方なので、憤りは相当だったと思われる。

知らせて頂いた時にはwifiが繋がりづらい場所にいたので、年明けに、改めて、一連の報道に目を通した。

温度設定を誤ったのはミスだけど・・・

日本最大級のビジネスデータベースサービス、G-Search(ジーサーチ)で調べたところ、国内主要150紙誌のうち、約50件、この件に関して報道されていた。

九州から埼玉県までは、冷凍で運ばれたそうだ。だが、12月27日に埼玉県から北海道に向けて運んだ車輌の温度設定が、冷凍であるべきところ、冷蔵になってしまったという。宅配会社のミスである。だが、温度設定を人間の手で行なっていたのであれば、ミスを完璧に防ぐことは難しいだろう。

Twitter上では、宅配会社のミスを責める声が散見された。宅配会社の公式サイトを確認したが、お詫びのプレスリリースなどは出されていなかった。おそらく、プレスリリースは出さないが、おせちの会社との契約に基づき、補償すると思われる。

ミスさえしなければ・・・。でも、誰が責められるだろう。ただでさえ忙殺される年末年始の時期。許容量を上回る発送依頼が来ているさなか、「自分が社員なら100%ミスしません」と断言できる人は、いるのだろうか。

起きてしまったことは仕方がないので、再発防止のためには、誰かを悪者にして責めるのではなく、二社間の話し合いの上、これまで温度設定を一人で確認していたのなら複数名で確認するなど、ミスを防止する「仕組み」を改善していくことだろう。

常温保存なら10日程度は大丈夫そうだが・・・

そもそも、おせち料理は、常温保存できるものではなかっただろうか。かつて正月三が日、お店が全て閉まっている時でも、食べ続けられるようにということで。

ただ、どうやら、濃い味付けだったおせちは、昨今の健康志向により薄味になり、かつてよりも保存性が劣るようだ。だから冷蔵保存をした方がいいのだろう。

今回の件が、誤って「常温」保存になってしまっていたのなら、まだわかる。でも、「冷蔵」ならいいのではないだろうか。12月27日に、冷凍から冷蔵になり、徐々に解凍されて、12月28日か12月29日を迎える。そこから三が日まで数えても6日間・・・。厳しいか・・・。

九州のおせちの会社の立場に立てば、「念のため」配達を取りやめた、というのも十分理解できる。「万が一」食中毒でも起きれば、その責任を取るのは、宅配会社ではなく、おせちの製造会社だから。

今回、配達されなかった2品の内容を調べてみた。1つは35品入りの2〜3人前で、11,500円。もう1つは45品入りの4〜5人前で、15,800円(両方とも税込、送料無料)。

かつてより薄味になったとは言え、昆布巻きや田作り、黒豆、栗の甘露煮、きんとんなど、日持ちしそうな品々が並んでいる。

この中で、早く品質が劣化しそうなものは、焼きかまぼこか。

全国かまぼこ連合会の公式サイトを調べてみた。もちろん、かまぼこの種類によって、日持ちは異なるが、簡易包装の冷蔵保存で「7日間」と書いてある。「季節や流通の管理段階による」とは書いてあるが、今回の場合、夏ではなく、冬で、冷蔵車輌で、本州から北海道へ向かっている。じゃあ、大丈夫だったのでは・・・。

かまぼこの賞味期間(全国かまぼこ連合会公式サイトより)
かまぼこの賞味期間(全国かまぼこ連合会公式サイトより)

第三者は、無責任に、なんとでも言える。でも、全ての責任を負う立場となれば、話は違う。免疫力の劣る子どもや高齢者もおせちを食べる対象と考えれば、リスクを回避しようと行動するのは当然のことだろう。

食品ロス削減のことを言うと「井出留美は食品安全を軽視している」と匿名でインターネットに書き込む企業勤務の男性も、今回の件、全部廃棄しなければお許しにならないだろう。

美味しいものがたくさんある北海道からわざわざ注文する必要はあったのか?

ところで北海道と言えば、食の宝庫である。百貨店の催事では、47都道府県中、ダントツの人気を誇る。そんな北海道から、わざわざ九州までお取り寄せを頼む必要があったのだろうか。

Twitterで依頼者の意見を見ると、一部はもう削除されてしまっているようで見られないが、「今回のことがあっても、美味しいから、今年も9月からおせちを注文する」「さすがインターネットサイトのランキングで何年も連続で受賞するだけある」などと評価する声が見られた。

美味しいものを食べたい欲求は誰にもある。年に一回の楽しみ。

こんな風に、海外も含めて遠くから食べ物を取り寄せるから、日本のフード・マイレージ(食料の総輸送距離)や環境負荷は、世界でダントツに高くなるのだろう。

輸入食料に係るフード・マイレージの比較(品目別)(中田哲也氏、当時、北陸農政局企画調整室長の資料より引用)
輸入食料に係るフード・マイレージの比較(品目別)(中田哲也氏、当時、北陸農政局企画調整室長の資料より引用)

インターネットでおせちを注文したことは一度もないが、いち消費者として、美味しいものを取り寄せようと頼んだ人の気持ちは理解できる。

宅配会社、おせちの会社、消費者・・・どの立場を考えても理解できるのに、なぜもやもやするのだろう

他人(ひと)ごとだったらなんとでも批判できるが、「もし自分がこの人の立場だったら」と仮定すると、宅配会社も、おせちの会社も、消費者も、どの立場も理解はできる。

では、なぜ、もやもやするのだろう。

もう済んだことなのに。

もし被災してこのおせちしか無かったとしたら、はたして処分したのだろうか?

仮に北海道が年末年始に自然災害を受け、仮に、食べ物が、このおせちしかなかったとしたら・・・。

「冷凍」の温度設定が「冷蔵」になったくらいで、全てキャンセルしただろうか。

このおせちしか食べ物がない、という状況は非常に考えづらい。が、もし、このおせちしかなければ、「冷凍」が「冷蔵」になったくらいで、全部捨てはしないだろう。消費者も、ミスを寛容したかもしれない。

いやいや、消費者は、最初からミスを非難したわけではない。自分の意思を働かせる以前に、会社が「今回は冷凍を冷蔵に間違えたので配達できない」と結論を下してしまったのだから。

おせちの会社が、宅配会社のミスの事情を顧客に説明したら、北海道在住で注文した人の一部は、おそらく、「いいですよ」と言って、受け入れてくれたのではないだろうか。

真夏ではなく、冬の時期なわけだし、刺身などではなく、基本的に火を通した「おせち」だし。

「一律全捨て」と食べ物への敬意の無さが「もやもや」の原因?

この件の報道は、もう、一般の人には終わったことだろう。

次から次へと新しいニュースが入ってくるから、過去のものはスルーされていく。

でも、1268個のおせち、販売総額1880万円に入っていた、エビやカモ、牛などの命は、活かされずに、廃棄されてしまった。

人に食べられるために命を捧げたのに。

35品目や45品目に使われている食材は、全部国産ではないだろう。世界各国からお金をかけて食材を集めたものだろう。

注文した人の状況はそれぞれ違うだろうに、一律、「全部キャンセル」と決めて、実行してしまった。冷蔵でもOKと言ってくれる消費者もいたかもしれないのに。1268人も顧客がいれば、ただでさえ忙しい年末に対応できないから仕方ないのかもしれない。

が、そもそも大量に売ろうとするから、こんな事態に、きめ細やかに対応できないのではないか。

元食品メーカー勤務者として、状況を理解することはできる。でも、売れる時に「一気に大量に売ること」は企業の成長のために必須で仕方がないことなのか。

消費者の都合ではなく、企業の都合が優先なのか。

海外も含めて遠くから運んできた大量の命が無駄に捨てられ、企業が注文した消費者の意見を聞くことなく、一律「全捨て」にする。そこにどれだけの人の手やエネルギーが費やされたかも関係なく・・・。そして、そんな報道も無駄もスルーされ、忘れられていく。それでいいのだろうか。

北海道在住で九州のおせちを頼んだ人に聞いてみたい。九州から埼玉まで「冷凍」で運ばれた10000円以上のおせち、埼玉県から「冷蔵」で届いたら、全部捨てますか?

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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