休校やオンライン授業を想定した準備、小中学校はできているか?
ちょうど1年前のいまごろは、全国で一斉休校となっていました。新型コロナウイルスは相変わらずやっかいで、あの頃よりも国内の感染者数(検査陽性者数)は比べものにならないくらい増えています(そもそも検査数も全然ちがいますが)。
昨日(4/19)、政府の分科会の尾身会長は、変異ウイルスは子どもに感染しやすいとの指摘もあり、学校に感染が広がれば、休校にする判断もあり得るとの考えを示しました(FNNオンライン)。同日、大阪市の松井一郎市長は政府の緊急事態宣言が発令された場合、大阪市立の小学校と中学校を原則オンライン授業に切り替える方針であると話しました(産経新聞)。
今後の状況次第ですし、休校やオンライン授業にはマイナス影響もあるので、さまざまな要素と選択肢(分散登校なども含め)を考慮していく必要があります。ですが、問題のひとつは、はたして学校側はオンライン授業等ができる体制になっているか、ということです。
「備えあれば、憂いなし」とは昔からよく言われることですが、学校や教育委員会に「備え」はできているでしょうか?
※なお、文科省は休校は慎重に判断してほしいという考えです(NHKニュースなど)。
■国の税金でコンピュータを買ったのに、4割の学校は子どもに配布していない!?
国がGIGAスクール構想と呼ばれる政策のもと、小中学校にコンピュータ端末の整備を急ピッチで進めています。昨年度末(この3月)までに約98%の自治体で納品完了予定ということでした(文科省調査)から、ほとんどの小中学校には端末は届いています。
これが1年前とは決定的に異なるところです。高校については、都道府県ごとに対応に差がある状況が続いているようです。
ただし、わたしが3月に関わったある小学校と中学校では、納品されても、箱から開けてもいない状態でした。
こうした学校はほかにもあるようです。教育新聞社がこの4月上旬に実施した教員向け調査によると、1人1台端末を「授業で日常的に活用している」と答えた教員は19.3%、「端末が届き、授業で時々活用している」11.8%となった一方で、「端末が届いたが、児童生徒に配布していない」37.3%でした(教育新聞4月7日、8日記事、回答数は357)。
4月で学年もクラスも新しくなりますから、4月以降に配布して活用しようという学校もある程度あるのだと思います。しかも、4月は一年のなかでも最も学校は忙しく、バタバタです。
そうした事情も考慮する必要はありますが、とはいえ、コロナの脅威が迫っているなか、「のんびりし過ぎじゃないか」と思うのは、おそらく、わたしだけではないと思います。忙しい現実もなんとかしたいですが、忙しいのを言い訳にして、重要な準備を先送りにするのも、どうかと思います。
■”自主休校”を続けざるを得ない子たちへも冷たい学校
実は、この1年あまり“自主休校”が続いている子たちもいます。本人や家族にぜんそくや心臓疾患などの事情があり、新型コロナに感染すると重症化するおそれがある子どもたちです。
NHKが東京23区と全国の政令市に聞き取りを行ったところ、“自主休校”の子どもたちは、少なくとも7千人以上いて、把握していない自治体も約4割あります。また、こうした児童生徒にオンライン授業を行うことが「できる」と回答した自治体は約2割、「課題がありできない」と回答したのは約4割でした。できない自治体では、学習プリントを渡すといった対応が続いており、授業を受けることはできていません。
他方、オンライン授業ができている自治体では、たとえば、教壇近くにタブレットを置いて撮影し、児童生徒の家庭へ授業をライブ中継する例などがあります。普通の授業とは別に動画をつくるとなると、先生たちの負担もたいへんですが、こうした方法ならば、負担増をある程度押さえつつ、実施できるかたちかと思います。
※セッティングやトラブル対応のため、ICT支援員等の方もいたほうがよいとは思います(教員任せにし過ぎるのも問題です)。
■家庭への持ち帰りを禁止する学校も多い
また、先ほどの教育新聞社の調査によると、コンピュータ端末の持ち帰りについては、「許可する・する予定」が44.5%で、「許可していない・しない予定」が38.7%と分かれています。
持ち帰りを認めないとした回答者にその理由を尋ねたところ(複数回答)、「使用ルールが確立していないから」(59.4%)と「紛失・破損の恐れがあるから」(57.2%)の2項目が過半数を占めています。
子どもが扱うものですから、さまざまなトラブルが想定され、それが怖いのはよく理解できます。しかし、だからといって、あれもダメ、これもダメという姿勢では、結局十分に使えないままになる可能性が濃厚です。しかも、突然休校や学級閉鎖をする事態になる可能性もあるのに、家庭でもつないで練習しておかなくて、対応できるのでしょうか?
「使用ルールが確立していないから」なんて言い訳、1年近くあって、何をどうしていたのでしょうか?紛失・破損については然るべき誓約を家庭と交わすなりしたらよいでしょう。あるいは保険に入るなど、いくらでも対応策はあるはずです。これは学校の対応不足もありますが、教育委員会の対応としても問われることです。
「紛失・破損の恐れがあるから、教科書の持ち帰りは禁止します」という学校はありますか?
■いま休校になったら、どうなる?
この記事執筆時点では、日本では新型コロナの影響で児童生徒に重症者が多く出るような事態にはなっていません。これには、ウイルスの性質に加えて、感染症対策についての学校の尽力も大きいだろうとは思いますし、頭が下がります。
ですが、変異ウイルスが今後どうなっていくかという問題もありますし、仮に重症化リスクが高くなるなら、登校させたくないという保護者も今以上に多くなるでしょう。それに、感染症以外の災害(大地震など)もありますから、いつまた休校等になってもおかしくはありません。実際、世界各国を見渡すと、この1年あまりずっと休校が続いている国・地域だってたくさんあるのです。
約1年前の休校中は、教育関係者(教職員、教育委員会職員ら)は何を感じたでしょうか?
「児童生徒と会えないのはお互いにつらいな。なんとかつながりたいな。」そういう思いの人も多かったと思います。
一部の自治体や私立学校では、Zoomなどを使った交流(朝の会や健康観察など)や双方向性のある授業などを行いましたが、多くの公立小中学校が続けたのは「プリント爆弾」(大量の宿題プリントを配布して、前後でたいしたフォローもない状態)でした。
またそれを繰り返したいと言うのでしょうか?
※もちろん、一概に紙の教材や課題が悪いと決め付けることはできません。さまざまな学力や特性のある児童生徒があるのに、一律の内容の宿題、家庭学習課題で、しかも事前、事後のフォローアップがほとんどない状態だったことは、問題が多かったと私は捉えています。
休校やオンライン授業への切り替えにかなりの備えができている学校も一定数ある一方で、相変わらず、受け身的で、この1年どうしていたのかと問われるような学校、教育委員会があるのも確かだと思います。過去にタイムスリップはできませんが、過去を振り返り、反省し、いまできることを考えて、動き出すことはできます。
まずは、各学校、教育委員会は、オンライン授業を行うときの障壁や課題をリストアップし、つぶせるものはつぶしていくことが必要です。たとえば、個人情報保護がボトルネックのひとつなら、保護者の同意を得るとか、審議会の手続きをさっさと進めるなど。また、家庭にネット環境がないところには別途対応を考えることが必要です(たとえば、ポケットWi-Fiを貸し出したり、密を避けるかたちで学校や公共施設でもオンライン授業が受けられるようにしたりするなど)。
約1年前の突然の一斉休校の要請はほとんどの自治体、学校にとって「想定外」でした。今回は「想定外」とは言っていられないと思います。
※この原稿は、教育新聞への寄稿(4/15)と妹尾の近刊『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』をもとに、一部加筆して作成しました。
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