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アメリカ南部「くさび形竜巻」で壊滅的な被害

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
竜巻で壊滅したテキサス州カントンのイベントホール(写真:ロイター/アフロ)

春はアメリカの竜巻シーズンで、特に4月〜5月にかけ、その多くが南部で発生します。

今年も魔の季節が始まっており、現地時間29日(土)には南部テキサス州のカントンの町を巨大な竜巻が直撃しました。

(29日テキサス州を襲った竜巻)

現地では、何もかもが吹き飛ばされ土台だけ残った家屋や、木に突き刺さった車など、目を疑うような壊滅的な光景が広がっています。死者は5名、けが人は50名にものぼるもようです。

被害は竜巻だけではありません。周辺のミズーリ州などでは、200ミリを超える大雨による洪水や倒木などで少なくとも8名が亡くなりました。犠牲者の中には、川の増水によって流された複数の子供も含まれています。

竜巻とはなにか

竜巻とは、「発達した雲から伸びる、漏斗状の激しい空気の渦巻き」のことで、アメリカでは「トルネード」と呼ばれています。世界最速の風を作り出す自然現象で、世界記録は秒速142m(1999年米オクラホマ州)とも言われます。

竜巻の形。出典:「竜巻のふしぎ」(共立出版)
竜巻の形。出典:「竜巻のふしぎ」(共立出版)

竜巻の形は多様で、大きく分けると上のイラストのようになっています。

ヒョロヒョロとロープのように伸びたものもありますが、反対に今回の竜巻のように極太のものも存在します。このような竜巻の幅が高さよりも大きいものを、アメリカでは一般的に「wedge(くさび)形」と呼んでいます。ちなみに、史上最大のくさび形竜巻は、直径が4.2キロ(2013年米・オクラホマ州)にも及びました。

記録的に多い今年の竜巻

アメリカでは一年間で平均1,200個の竜巻が発生します。世界全体では年間1,500個とも言われているので、その約4分の3がアメリカ一国で起きている計算になります。

アメリカで起きる竜巻の主な原因は暖気と寒気の衝突なので、春に発生数のピークを迎えます。逆に冬の空気に包まれる1月から3月は、通常あまり多く発生しません。

しかし今年はその3ヶ月間で、なんと400個以上の竜巻が観測されました。これは平年のおよそ3倍のペースで記録的な多さで、その原因としては昨冬の異例の暖かさと、それに伴うメキシコ湾の高い海水温などが挙げられます。

さらに、1月から3月の間に発生した、損害額が10億ドル以上の激甚災害の数は5件にも及び、統計を取り始めた1980年以来最多記録となりました。

日本の竜巻

竜巻は対岸の火事ではありません。日本ではアメリカに比べると規模が小さいものが多いとはいえ、陸上で年間25個の竜巻が発生しています。日本の面積がアメリカの25分の1であることを考慮すると、竜巻に遭遇する確率はアメリカの半分もあるといえるのです。

国内の最大規模の竜巻は、2012年のゴールデンウィーク最終日5月6日に茨城県つくば市で発生しています。大変悲しいことに、コンクリート製の土台ごとひっくり返った家屋から一人の中学生の遺体が発見されました。

竜巻の破壊力は局地的とはいえ、自然災害の中で最大級であることを露呈した出来事となったのです。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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