新型コロナの症状、経過、重症化のリスクと受診の目安
2020年12月現在、全国で新型コロナの流行が続いています。
どのような症状があれば新型コロナを疑い病院を受診すれば良いのでしょうか。
新型コロナの典型的な症状、経過、重症化のリスク、後遺症などについて現時点での知見をまとめました。
新型コロナウイルス感染症の典型的な症状
新型コロナの潜伏期間(感染する機会から何らかの症状を発症するまでの期間)には1〜14日と幅がありますが、多くの人がおよそ4〜5日で発症します。
新型コロナウイルス感染症の初期症状は風邪やインフルエンザと似ています。
風邪は、微熱を含む発熱、鼻水、鼻詰まり、ノドの痛み、咳などの症状がみられることが多く、またインフルエンザも風邪と似ていますが、風邪に比べると高熱が出ることが多く、頭痛や全身の関節痛・筋肉痛を伴うことがあります。
風邪はインフルエンザに比べるとゆっくりと発症し、微熱、鼻水、ノドの痛み、咳などが数日続き、インフルエンザは比較的急に発症し、高熱と咳、ノドの痛み、鼻水、頭痛、関節痛などが3〜5日続きます。
しかし、風邪やインフルエンザが新型コロナのように1週間以上続くことは比較的稀です(ただし咳や痰の症状だけが2週間程度残ることはよくあります)。
新型コロナと風邪、インフルエンザ、アレルギー性鼻炎・結膜炎の症状とを比べると、以下の図のようになります。
また、新型コロナでは典型的には
・発熱
・咳
・だるさ
・食欲低下
・息切れ
・痰
・筋肉痛
・嗅覚障害・味覚障害
などの症状の頻度が高いとされます。
特に「息切れ」「嗅覚障害・味覚障害」の症状は、風邪やインフルエンザでは稀な症状ですので、新型コロナの可能性を疑うきっかけになります。
新型コロナウイルス感染症の典型的な経過
新型コロナに特徴的なのは、症状の続く期間の長さです。
前述のように新型コロナウイルス感染症は風邪やインフルエンザによく似ていますが、症状が続く期間がそれらと比べて長いという特徴があります。
特に重症化する事例では、発症から1週間前後で肺炎の症状(咳・痰・呼吸困難など)が強くなってくることが分かっています。
流行早期の中国での4万人の感染者のデータによると、発症してから1週間程度は風邪のような軽微な症状が続き、約8割の方はそのまま治癒しますが、約2割弱と考えられる重症化する人はそこから徐々に肺炎の症状が悪化して入院に至ります。
2割のうち全体の約5%の症例で集中治療が必要になり、約2%の事例で致命的になりうるとされています。
嗅覚異常と味覚異常
3月以降、新型コロナ患者では嗅覚異常・味覚異常を訴える患者さんが多いことも分かってきました。
イタリアからの報告によると新型コロナ患者59人のうち、20人(33.9%)で嗅覚異常または味覚異常がみられたとのことです。
特に若年者、女性ではこれらの症状がみられる頻度が高いようです。
また新型コロナであった人とそうでなかった人が自己申告した症状のうち、嗅覚異常・味覚異常は最も新型コロナに特徴的な症状であったという報告もあります。
ただの風邪や副鼻腔炎、花粉症が原因で嗅覚異常・味覚障害が起きることもあるので必ずしも「嗅覚障害・味覚障害=新型コロナ」ではありませんが、前述のような発熱、咳などの症状に加えて嗅覚異常・味覚異常の症状があれば新型コロナの可能性は高くなるでしょう。
また、嗅覚障害・味覚障害のみの症状の方もいらっしゃいますが「2週間以内の海外渡航歴がある」「新型コロナ患者との接触歴がある」「特定のクラスターに曝露している」のいずれかを満たす方では、新型コロナの検査の対象になる可能性がありますので、かかりつけ医や発熱相談センターに相談しましょう。
新型コロナのその他の症状:吐き気、下痢、眼の充血など
他にも、新型コロナでは稀に
・結膜充血
・嘔気・下痢
・血痰
などの症状がみられることがあります。
この他にも、新型コロナ患者では凝固系の異常(血液が固まりやすくなる病態)が起こることが分かっており、これにより深部静脈血栓症や脳梗塞などが起こることがあります。日本国内でも新型コロナと診断された方が自宅待機中に突然亡くなられる事例が報告されていますが、血栓症が関与している可能性があります。
また新型コロナウイルスは心血管系にも影響を及ぼし、急性冠症候群(ACS)、心筋炎、不整脈(心房細動など)を引き起こすことがあります。
小児では川崎病(発熱、皮疹、眼球結膜充血、いちご舌など)のような症状がみられる事例が海外で報告されています。日本国内でも新型コロナと診断され退院した3週間後に川崎病と診断された事例が報告されています。
皮膚症状についても手足の指に赤紫色の結節が現れることがあるとされますが、現時点では新型コロナとの関連は明確ではありません。
無症状の感染者はどれくらいいるのか
新型コロナには一定の割合で感染しても無症状の人がいます。
どれくらいの人が感染しても無症状のままなのかまだ十分には分かっていませんが、これまでの報告からはおよそ3〜4割の人が感染しても無症状であったと報告されています。
特に若い人では感染しても無症状のことが多いのではないかと考えられています。
例えばアメリカの原子力空母セオドア・ルーズベルトで起こったクラスターでは、乗組員4,779人のうち、1271人が新型コロナに感染しました。
この1271人のPCR検査陽性者のうち、45%は無症状、32%が検査時には無症状でのちに症状を発症、そして23%が検査時に症状がありました。
新型コロナが重症化しやすい人は?
新型コロナウイルス感染症と診断された人のうち、重症化する人の割合や死亡する人の割合は年齢によって異なり、高齢者は高く、若者は低い傾向にあります。
重症化する割合や死亡する割合は以前と比べて低下しており、6月以降に診断された人の中では、
・重症化する人の割合は 約1.6%(50歳代以下で0.3%、60歳代以上で8.5%)、
・死亡する人の割合は 約1.0%(50歳代以下で0.06%、60歳代以上で5.7%)
となっています(厚生労働省 「新型コロナウイルス感染症の“いま”についての10の知識」より)。
これは、1月〜4月の頃に比べて、軽症や無症状の人にも検査が行われるようになり感染者全体の重症度が下がったこと、そしてデキサメタゾンなどの治療薬による効果が現れていること、などが要因と考えられます。
新型コロナウイルス感染症で重症化しやすいのは高齢者と持病のある方です。
30代くらいまでは亡くなる人はほとんどいませんが、40代以降から徐々に致死率が高くなり、80歳以上では23%という非常に高い致死率となっています。
日本国内のデータからも年齢が上がれば上がるほど致死率が高くなることが改めて数字として示されています。
アメリカCDCは、18歳~29歳を基準とした場合の、各年齢層の入院リスクと死亡リスクを比較しています。
これによると、18歳~29歳を1としたとき、85歳以上の入院リスクは13倍、死亡リスクは630倍にもなります。一方、全年齢層で最もリスクが低い5-17歳は18歳~29歳と比べて入院リスク・死亡リスクはそれぞれ9倍、16倍低くなっています。
高齢者では風邪やインフルエンザのような症状が続けば早めに病院を受診する方がメリットがあるでしょう。
また、持病の有る無しによっても重症度が変わってくることも分かってきています。
以下のような状態の人は、年齢に関係なく新型コロナに感染した際に重症化のリスクが高くなります。
がん:重症化リスク3.6倍
慢性腎臓病:入院リスク増加
COPD(慢性閉塞性肺疾患):重症化リスク5.7倍
固形臓器移植による免疫不全状態:致命率上昇
肥満(BMI30以上):入院リスクが2.1倍、死亡リスクが1.5倍
心不全、冠動脈疾患、心筋症などの重篤な心疾患:重症化リスク3.4倍
2型糖尿病:重症化リスク2.3倍
CDC. Coronavirus Disease 2019 (COVID-19). People with Certain Medical Conditionsより
また現在のところデータは限られていますが、以下の基礎疾患や習慣のある人は新型コロナに感染した際に重症化のリスクが高まる可能性があります。
喘息(中等症・重症):人工呼吸器装着期間の延長
脳血管疾患:重症化リスク1.8倍、死亡リスク2.4倍
高血圧症:重症化リスク2倍、死亡リスク2.2倍
血液移植・骨髄移植、原発性免疫不全、HIV、コルチコステロイドの使用、その他の免疫抑制薬の使用による免疫不全状態:潰瘍性大腸炎患者のうちステロイド使用者で死亡リスク6.9倍
喫煙:重症化リスク1.9倍
CDC. Coronavirus Disease 2019 (COVID-19). People with Certain Medical Conditionsより
これらの基礎疾患や習慣は、複数あるほど入院リスクや死亡リスクが高くなることが知られています。
アメリカのデータからは、肥満や糖尿病、高血圧などが3つ以上該当する人は、1つもない人と比べて入院リスクが5倍であったとのことです。
また、女性よりも男性の方が重症化リスクが高いことも分かっています。
加えて、国立感染症研究所 感染症疫学センターの解析によれば、これらの基礎疾患に加えて高尿酸血症も重症化リスクであると報告しています。
これらの重症化リスクに該当する持病をお持ちの方も、早めに受診することが望ましいでしょう。
後遺症がみられることも
新型コロナから回復した後も何らかの"後遺症"の症状が続く方がいることが分かっています。
海外からの報告では、特に倦怠感や呼吸苦、関節痛、胸痛などの症状が続いている方が多いようです。
その他、咳、嗅覚障害、目や口の乾燥、鼻炎、結膜充血、味覚障害、頭痛、痰、食欲不振、ノドの痛み、めまい、筋肉痛、下痢など様々な症状がみられるようです。
また、フランスからは、脱毛、記憶障害、睡眠障害、集中力低下といった急性期にはみられなかった症状も後遺症として報告されています。
日本人を主な対象とした国立国際医療研究センターによる調査でも、咳、痰、だるさ、呼吸苦、嗅覚障害、味覚障害といった症状が、発症60日後も10-20%、発症120日後も2-11%でみられました。
また脱毛も全体の24%でみられ、発症から1ヶ月後から出現し、4ヶ月後くらいまでみられることが分かりました。
今のところこれらの後遺症に対する治療法はなく、新型コロナに罹らないことが最大の予防法です。
再感染の報告も
海外では、一度新型コロナに感染した人がもう一度感染した事例が報告されています。
つまり、一度感染したからと言って生涯免疫ができるわけではなさそうです。
ただし、再感染がどれくらいの頻度で起こるのか、またどれくらいの割合で重症化しうるのかは現時点では分かっていません。
また重症化については、自己の免疫だけでなく、曝露したウイルス量に関連している可能性もありますので、重症度は免疫だけの問題ではないのかもしれません。
一度感染した人も「免疫があるから大丈夫」と油断せずに、新型コロナへの感染対策は続けるようにしましょう。
病院を受診する前に
自身が新型コロナかなと思ったら、まずはかかりつけ医か地域の医療機関に相談しましょう。
東京都では、かかりつけ医など相談する医療機関に迷う場合や、土日・夜間などかかりつけ医が休診のときには東京都発熱相談センターに相談することも可能です。
医療機関に受診が必要と判断されたら、マスクを着けて、なるべく公共の交通機関を使わずに病院を受診するようにしましょう。
各都道府県の帰国者・接触者相談センターは以下のページの「どこで受けられる?」の「各都道府県が設置している電話相談窓口(外部サイト)」をご確認ください。
周囲の流行状況を把握しておきましょう
新型コロナは時期や地域によって流行状況が大きく異なります。
つまり、発熱や咳のような症状が出現したとしても新型コロナである可能性は、住んでいる地域によって変わってきます。
例えば東京では第3波の流行が始まった11月上旬頃から徐々に症例が増加しはじめ、現在も1日当たりの新規感染者数は500例前後で推移しており、PCR検査の陽性率も6.5%と高い状況が続いています。
各地域における流行状況は、
・新規発生患者数
・新規発生患者数のうち接触歴不明の患者の割合
・PCR検査陽性率
を参考にしましょう。
新規症例報告数がほとんどなく、検査陽性率も低い地域にお住まいの方では、風邪症状が出たとしても、海外渡航歴や接触歴がなければ新型コロナの可能性は高くないでしょう。
時期や地域によって、自身が新型コロナに罹る可能性も変わってきますので、お住まいの地域の流行状況をしっかりと把握しておくことが大事です。
風邪やインフルエンザのような症状が出現した場合は、個々人が自身の感染リスクと重症化する可能性を考慮した上で、病院を受診するかどうか判断し、迷う場合にはかかりつけ医や発熱相談センターに電話で相談しましょう。
また、病院を受診しない場合も、手洗いや咳エチケットなどの予防対策は必要ですし、周囲の人(特に高齢者や持病のある人)にはうつさないような配慮が必要です。
新型コロナを広げないためには、手洗い、屋内でのマスク着用、3密回避など新型コロナに注意した生活を続けることが重要です。