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妊娠と新型コロナ 重症化のリスクや母子感染について

忽那賢志感染症専門医
(写真:アフロ)

妊娠中は特定の感染症にかかると重症化しやすくなったり、かかるとお腹の赤ちゃんに影響が出ることがあります。

新型コロナウイルス感染症は妊娠に悪影響を与えるのでしょうか。

現時点でのエビデンスと注意すべきポイントについてまとめました。

妊婦中に新型コロナに感染すると重症化しやすい

妊娠中に呼吸器感染症(例えばインフルエンザ)に罹患すると重症化しやすいとされています。

4月の時点では、妊娠中に新型コロナに罹患した場合も重症化した事例はほとんどなかったため、妊娠は重症化のリスクファクターではないのではないかと考えられていました。

しかし、その後の感染者の増加に伴い、より大規模な報告が出てきました。

アメリカで新型コロナに罹った約90000人の15歳から44歳までの女性を解析した報告では、8200人の妊娠している女性と、88000人の妊娠していない女性が比較検討されました。

これによると、

妊娠している女性は、妊娠していない女性と比べて、

・5.4倍 入院しやすい

・1.5倍 集中治療が必要となる

・1.7倍 人工呼吸器が必要となる

・死亡率は変わらなかった

という結果でした。

5倍入院しやすい、というのは「妊婦さんは大事を取って入院しておきましょう」という判断が関与していそうですが、集中治療や人工呼吸器の使用については実際に妊娠と関連していそうです。

妊娠中に新型コロナに感染することで重症化しやすくなる可能性があり、妊婦さんはより感染に注意した方が良いと言えそうです。

分娩の方法と重症化リスク

イタリアからの報告では、帝王切開での分娩が母体の重症化につながる可能性が示唆されています。

82人の妊婦のうち41例(53%)が経膣分娩、37例(47%)が帝王切開分娩で、出産しました。

経膣分娩で分娩後に集中治療室に入った妊婦はいなかったのに対し、帝王切開分娩では5人(13.5%)が集中治療室への入院を必要とし、また経膣分娩の妊婦2人(4.9%)と、帝王切開分娩の妊婦8人(21.6%)が出産後に臨床的に悪化したとのことです。

ただし、この報告では症例数が少ないことから、アメリカ産婦人科学会は現時点では新型コロナに罹患しているからといって分娩の方法を変える必要はないとしています。

また、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会の3学会による「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応(第三版) 」でも、現時点では

新型コロナウイルスに感染した方の産科的管理は通常に準じますが,対応医 療機関における院内感染対策には十分留意してください. なお、感染拡大に 応じ、施設によって原則帝王切開とすることもやむを得ないと考えます。

出典:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応(第三版)

という声明が出ています。

新型コロナ流行期は死産が増える

ロンドンの大学病院で、新型コロナ流行前の1681人の出生と新型コロナ流行期の出生1718人を比較した研究があります。

これによると、死産の発生率は新型コロナ流行期の方が、流行前よりも死産が増えていたとのことです。

これらの妊婦は新型コロナに感染していたというわけではなく(妊婦の新型コロナ症例の多くが無症状という報告もあり、感染していた可能性もあります)、イギリスでの大規模な新型コロナの流行によって、妊婦の受診行動が変わった(病院に行って感染したくない、医療機関の負担を増やしたくない、など)ことや、医療機関における負荷の増加(スタッフの不足、超音波検査やスクリーニング検査体制の不足など)によるものの可能性が考えられています。

新型コロナが大流行し医療崩壊が起こると、新型コロナ患者だけでなく、それ以外の医療を必要とする人にも影響が出るということがよく分かります。

母子感染は起こるのか

これまでに新型コロナの母子感染が起こるはどうかははっきり分かっていません。

などから、母子感染が起こる可能性が示唆されています。

また最近、フランスで母子感染が強く疑われる事例が報告されています。

この報告では、新型コロナに罹患した妊娠35週の29歳女性が胎児徐脈のため帝王切開となっていますが、出生した男児の血液、気管支洗浄から新型コロナウイルスが検出され、また帝王切開時の羊水、胎盤からも新型コロナウイルスが検出されました。

母体の血液からも新型コロナウイルスが検出されており、母体の血液から経胎盤感染に至ったのではないかと考えられます。

このようなウイルス血症を伴うような重症の母体からは母子感染が起こり得るのかもしれません。

また、母乳からも新型コロナウイルスが検出された事例が報告されていますが、母乳を介した感染が起こり得るかどうかはまだ分かっていません。

妊娠中の新型コロナウイルス感染症に関する注意点

以上を踏まえて、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は新型コロナウイルス感染症に関して、妊婦さんに以下のことを推奨しています。

新型コロナに感染するリスクを減らすために

・分娩前の受診の予約をスキップしないようにしましょう

・人との交流をできるだけ減らしましょう

・人と接する際には、新型コロナに感染しないようにしっかりと感染予防策をとりましょう

・少なくとも30日分の薬を確保しておきましょう

・新型コロナが流行している間、健康を維持し、自分自身のケアをする方法について、かかりつけの医療機関に相談しましょう

・医療上の緊急事態が発生した場合は、すぐに医療機関を受診してください

妊娠中のワクチン

・定期的なワクチン接種はあなたの健康を守るために重要な役割を果たします。

・インフルエンザワクチンやTdapワクチンなど、妊娠中にいくつかのワクチンを受けることは、あなたと赤ちゃんを守るのに役立ちます。

・妊娠している場合も、推奨されているワクチンを継続して受ける必要があります。

新型コロナウイルス感染症と診断された場合の母乳育児

・母乳は多くの病気に対する抵抗力を生み、ほとんどの乳児にとって最良の栄養源です。

・家族や医療従事者と、母乳育児を行うのか、どのように続けるかを決めましょう。

・新型コロナに感染した母親から母乳を介して赤ちゃんにウイルスを感染させるかどうかはまだ良く分かっていませんが、今ある限られたデータからは、その可能性は低いと考えられます。

・新型コロナに感染した母から子どもに母乳をあげる場合、

 ・専用の搾乳機を使用してください(共用しないこと)

 ・授乳中は布製のフェイスカバーを着用し、搾乳機に触れる前、および授乳する前に、石鹸と水で少なくとも20秒間手を洗ってください

 ・可能であれば、新型コロナに罹患しておらず、重症化のリスクが高くない、健康な同居者が代わりに乳児に母乳を与えた方が良いでしょう

妊婦さんだけでなく、妊婦さんの周りで生活している人も、新型コロナに感染しないように気を付けましょう。

感染予防のためにはこまめな手洗い、咳エチケット、三密を避けるなどが大事です。

※ 本投稿は奈良県立医科大学附属病院 産婦人科講師、日本産科婦人科学会専門医・指導医の成瀬 勝彦先生に監修いただきました

手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)
手洗い啓発ポスター(羽海野チカ先生作成)
感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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