佐藤寿人に学ぶゴールのビジョン。同タイプのストライカーがいそうでいない理由。
ジェフユナイテッド市原・千葉に所属する佐藤寿人はフクアリで行われたJ2の松本山雅戦で今シーズンの初得点を記録しました。
ここまでJ1とJ2を合わせて200以上のゴールを積み重ねてきたストライカーは38歳。この日は前節からスタメン9人が入れ替わった編成で、今月19歳になったばかりの櫻川ソロモンと2トップを組んだ佐藤は立ち上がりの7分にゴール。さらにセットプレーから2得点を加えた千葉が3ー0で勝利しました。
2ー0となったハーフタイムに交代した佐藤は「少ない時間でも監督がチャンスを与えてくれている。もちろん、もっと出たい欲はありますけど、チームが勝つことが大事」と語ります。
その佐藤のゴールは「佐藤寿人のゴール」と書いただけで、彼のプレーを知るサッカーファンはほとんど同じ絵を描けるであろう象徴的なゴールでした。サイドの選手が出したクロスにディフェンスとGKの間で合わせるという形です。
このシーンでは左から右に展開されたところで、名古屋の同僚でもあった矢田旭がマーカーをかわしながら左足のインスイングでクロスを送り込むと、3バックのうち左の常田克人が釣り出された状況で、ニアをカバーしたボランチの藤田息吹と3バック中央の森下怜哉のわずかなギャップに飛び込み、キャッチに行こうとしたGK村山智彦の手前で合わせてゴールネットを揺らしました。
まるでボールとゴールを同時にかっさらったようなフィニッシュ。流れを見れば実にシンプルですが、そこには佐藤寿人ならではのビジョンが凝縮されていました。森下は振り返ります。
「簡単に僕がクリアしないといけないところでムラさん(GKの村山)からの声があったので、判断を誤った」
確かに藤田の前を抜けてきたボールを森下が、佐藤が入ってくる前に触ろうと思えば触れるボールの軌道でした。この言葉をそのまま解釈すると、このゴールは松本山雅のディフェンス側に問題があるということですが、その問題を引き起こしたのがあ佐藤寿人とアシストした矢田旭の狙いでした。
中央を起点にして、サイドから崩すというイメージはチーム全体で共有していたようですが、その中で佐藤は「ディフェンスの選手とGKの微妙なところ」を狙っていたと言います。そして佐藤のイメージを知る矢田も狙い通りの正確なクロスで松本山雅のディフェンスにとって難しいシチュエーションを引き起こしました。
DFとGKの間に入ってくるボールに対してはディフェンス側はどちらが処理するのか、その場で判断する必要があります。基本的にはGKの方が視野を確保できているので、そのコーチングが優先されるケースが多いのですが、このシーンではGKの村山も佐藤が視野外から入ってくることを情報整理して伝えられなかったのかもしれません。
実際に村山は前に出るのではなく、その場でキャッチの構えを見せて、ボールを迎えようとしたところで手前のエアポケットに入り込まれています。そのエアポケットは非常に小さい。しかし、小さいからこそディフェンスも一瞬の隙を見せてしまったと言えます。
「ゴールを奪う時には1つのアイデア、トライがああいうシーンとして生まれてくる。ユン・ジョンファン監督もそういうことを全体として話してくれていた」
そこには確かに佐藤寿人のビジョンが表れていましたが、チャンスを虎視淡々と待つだけではなく、仲間と共有、協力しながらゴールのシチュエーションを引き出せるところに日本サッカー史を代表するストライカーの真髄が見て取れます。
サイズは170cm65kgと小柄な部類であり、身体能力もずば抜けている訳ではない。ましてや爆発的なスピードや巧妙な足技を駆使する訳でもなければ、弾丸シュートを放つ訳でもありません。
それでも味方とビジョンを共有しながら、相手のディフェンスに判断の迷いを引き起こし、わずかな隙を逃さずに仕留める。そうしたスタイルは日本人FWに多くいそうで、実はあまりいません。
1つの要因は育成年代においてFWの選手は身体能力やサイズ、テクニック、スピード、キック力など基本的なベースの部分で優位に立っている選手が多く、ずる賢さを早い段階からあまり必要としていないからかもしれません。
佐藤寿人がフクアリでゴールを決めたのと時を同じくして、ルヴァン杯でガンバ大阪の17歳が2得点を決めました。唐山翔自。すでに178cmある唐山の風貌は佐藤寿人と全く異なりますが、ゴール前のポジショニングや動き出しに似たところがあります。
ガンバ大阪だけに、大黒将志の姿も重なりますが、”いそうでいないタイプ”のストライカーに注目していくと、本来もっと日本人FWが身に着けるべきストライカーのビジョンが見えてくるかもしれません。