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豊昇龍が伯桜鵬、北勝富士を破り初優勝&大関昇進へ 荒れる名古屋場所を制し涙と笑顔

飯塚さきスポーツライター
表彰式で初めての賜杯を抱く関脇・豊昇龍(写真:日刊スポーツ/アフロ)

厳しい目が、涙に濡れた。そして、最後はさわやかな笑顔が咲いた。若き関脇・豊昇龍。自身初優勝と事実上の大関昇進を決め、名古屋の土俵を締めくくった。

伯桜鵬と北勝富士を撃破した豊昇龍の実力

大相撲名古屋場所千秋楽。3敗でトップを走るのは、大関取りの豊昇龍と、場所中に31歳の誕生日を迎えた前頭9枚目の北勝富士、そして19歳の「令和の怪物」こと新入幕の伯桜鵬だ。北勝富士は、途中まで優勝争いトップに立っていた錦木と対戦。その圧力たるや凄まじいもので、腰の重い錦木をおっつけながら押していくと、あっという間に錦木のひざがついてしまった。

豊昇龍と伯桜鵬は直接対決。伯桜鵬は、新入幕でこの戦いの場に立っているだけで信じられないくらいだが、それに満足せず「勝ちに行く」姿勢にもまた、唸らされた。

ただ、豊昇龍が関脇の力を見せつけた。立ち合いで受け止めると、右の上手をガッチリつかむ。伯桜鵬が左に動いたところを、脚を掛けながら右から思い切り投げた。まさに圧倒。一瞬の勝負だった。負けた伯桜鵬は悔しさがにじむが、大きな経験をした。来月の誕生日でようやく二十歳。若き逸材の今後が本当に楽しみである。

豊昇龍と北勝富士との優勝決定戦で、今場所のボルテージは最高潮。本割では北勝富士が勝っているが、どちらが勝ってもおかしくない一番だった。

立ち合い。豊昇龍は張って捕まえにいこうとし、北勝富士はそれをさせずに前に出ようとするが、北勝富士が思わず引いてしまった。そこをすかさず前に出ていった豊昇龍が押し出しで勝利!初優勝と大関昇進をつかんだ瞬間、最後に振り切った左腕が、気迫と執念を物語る。優勝インタビューで「我慢していたんですけど止まらなかったです」と振り返った、その目には涙があふれていた。

いつも「また来たの~?」と言って、ケタケタと笑いながら筆者の取材に応じてくれる24歳の青年が、大舞台で夢をつかんだ。普段は「まったく、子どもだなあ」と言っている筆者のほうが、優勝決定の瞬間は、思わず子どものように声を上げて泣いてしまった。

三賞受賞者は史上最多 多くの力士に脚光

ドラマあふれる優勝争いのほかに特筆すべきは、三賞受賞者の多さ。殊勲賞には歴代スロー記録での三賞受賞となった錦木、技能賞には歴代最速の受賞となった新入幕の伯桜鵬の名が挙がった。大量受賞となったのは敢闘賞だ。北勝富士と伯桜鵬は無条件での受賞。「今日勝てば」の条件付きでは、豊昇龍と小結・琴ノ若に加えて、新入幕の豪ノ山と湘南乃海が選出された。

新入幕の二人はそろって千秋楽を見事白星で飾り、伯桜鵬と並んで敢闘賞に輝いた。特に、同じ突き押しのベテラン力士・玉鷲に対して、自分の相撲を貫き、前に出続けた豪ノ山は、まさに「敢闘相撲」。湘南乃海と共に、今後の活躍も非常に楽しみな力士である。

続く琴ノ若も竜電を撃破し11勝。そして、豊昇龍が伯桜鵬を破ったのは先述の通りである。三賞受賞者は史上最多の延べ8名。いつもなるべく多くの力士たちの健闘を称えてほしいと感じている筆者は、驚きと喜びで小躍りしそうである。

新入幕ら若い力が台頭するなか、最後は大関取りの関脇が土俵を締める結果となった今回の名古屋場所。活躍した力士が多く、非常に盛り上がった場所だったといえよう。8月は各地夏巡業も控えており、近くで勇姿を見られる機会。ぜひ足を運んでいただきたい。筆者も、活躍したさまざまな力士たちのインタビューを届けられるよう、準備に勤しむ。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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