中国の大学日本校の開校から考える日本の大学の状況と今後について
中国のいくつかの大学が日本校を開校させてきている。
天津中医薬大学中薬学院日本校、北京語言大学東京校、暨南大学日本学院、上海大学東京校、深セン大学東京校などである。深セン大学東京校は、2023年4月開校予定だ。
そのうち、天津中医薬大学は中国の体系化された伝統医学を教える大学、暨南大学は「華僑の最高学府」とも呼ばれる華僑向けの大学、北京語言大学は留学生用に作られた大学である。一般の総合大学は上海大学と深セン大学だけである。
なお、文部科学省は、そのHPによれば、「外国の学校教育制度における教育機関の一部と位置づけられている外国大学日本校を、当該国大使館等を通じ,対象に該当することの確認を得て、『外国の大学,大学院又は短期大学の課程を有するものとして当該外国の学校教育制度において位置づけられた教育施設』(通称、外国大学日本校)として指定」しており、「指定を受けることにより、課程修了者に対して我が国の大学院等への入学資格付与、修得した単位について我が国の大学等との単位互換等が認められ」るようにしている。
文科省は現時点で、天津中医薬大学中薬学院日本校、北京語言大学東京校、暨南大学日本学院、上海大学東京校を、「外国大学日本校」として指定している。
これらの大学は、中国国内では評価も高く、そのいくつかは国際ランキングでも、日本の私立大学でも上位にランクインしている(注1)。
欧米の大学も以前は多くの大学が日本校を設立した時期があったが、近年は、テンプル大学などの一部を除き、その多くは撤退している。その状況から考えると、中国の大学が、特に近年日本校を開校してきているのは興味深いトレンドだということができる。
このようなトレンド状況を踏まえて、近年の世界および日本の大学の状況について考えてみたい。
世界の大学の状況を知り、考える場合には、大学ランキングが参考になる(注2)。大学ランキングは複数あり、ランキングにより大学のランクが異なる実態、国際性や研究力を評価の軸にしているなど評価方法に問題があるという指摘や、日本の大学は発表論文のうちの多くが外国語(特に英語)でなく日本語であるために、世界ランキングが低く評価されているという意見などもある。
他方、グローバル化が急速に進展してきているなか、各国・地域において、研究や教育・組織の国際化や世界中から優秀な人材を集めることやその対応はますます重要になっている。その意味では、世界大学ランキングは、重要な視点として考慮されるべきものだろう。なお、中国の大学は、その視点から、世界大学ランキングのランキング向上を有効に行い、学生や人材の集積や国際的アピールに活用している。
また世界大学ランキングは、問題・課題・制約もあるが、日本の大学のランキングの現状は、長期的かつ複合的な要因の結果であり、その傾向や推移はやはり注目すべきものであるといえるだろう。
これらの点から、次のことがいえる(図表1および図表2を参照のこと)。
・日本の最高学府といわれる東京大学は、世界大学ランキングにおいて近年、特にこの10年弱は低落傾向にある。
・アメリカはランクイン大学数は、その数が下減少傾向にあるが、現在も最多で1位をキープしている。
・ドイツおよびオーストラリアはランクイン大学数は増加傾向にある。
・アジアのいくつかの国・地域は、日本を除き、ランクイン大学数が増加傾向にある。特に中国および韓国の大学数が増加している。
・清華大学(中国)は、この10年で絶えず上昇してきている。そして、2023年には、これまで上位校だった北京大学(17位)やシンガポール国立大学(19位)よりも順位を上げ、中国およびアジアで首位にランクされている。
このようにみると、日本の大学は、国際的にも評価が低下傾向にあることがわかる。他方で、アジアの他の国・地域は、特に中国が、大学ランキングにおいてその存在感を高めてきていることがわかるのである。
これまで、日本には中国から多数の留学生がきている。日本における外国人留学生は、コロナ禍の関係等もあり、近年やや減少しているが、それでも全体で25万人前後で、その半数近くは、中国からの留学生だ(注3)(注4)。日本の大学のなかには、中国人留学生で成り立っているところもあるほどだ。
他方、日本は、少子高齢化により、大学進学者が急激に減ってきている。そのために、日本の大学は今後、大学相互の学生獲得競争はますます激しくなると共に、経営上厳しいところも出てくることが予想される。また社会が大きく変貌するなか、日本の大学の動きや変化の遅さを勘案すると、日本の大学界全体も近い将来厳しい現実が予想される。
そのような状況において、世界における中国や中国の大学の存在感が高まると共に、中国語能力の国際的な需要も高まってきている。実際近年は、中国の大学等に留学する日本人も増えているように感じる。そのようななかで、上述したような中国の大学の日本校が開校されてきているわけだ。
現時点ではまだ的確な予測はできないが、多くの留学生が来ていると気楽に構えて、うかうかしている間に、日本の大学は、日本人の若者の多くを、国家間の微妙な関係等もあるが、中国の大学に学生としても取られてしまうこともありうるかもしれないといえるだろう。
上述のことからもわかるように、今、日本の大学のその存在感や真価が正に問われようとしていることがわかる。
筆者は、近年の中国の大学の日本校の開校から、改めてそんなことを認識した次第である。
(注1)たとえば、上海大学は、QS世界大学ランキング422位中国国内22位の中国教育部と上海市政府が共同で設立した中国屈指の国立大学であり、国家重点大学である。また深セン大学は、U.S.News大学ランキングで271位。
(注2)世界大学ランキングに関しては、次の資料等を参照のこと。
・『世界大学ランキングと知の序列化: 大学評価と国際競争を問う』 石川真由美、京都大学学術出版会、2016年
・『グローバル・ランキングと高等教育の再構築:世界クラスの大学をめざす熾烈な競争』 エレン・ヘイゼルコーン、学文社、2018年
・『世界大学ランキングと日本の大学:ワールドクラス・ユニバーシティへの道』 綿貫健治、学文社2016年
(注3)2021年5月1日の外国人留学生数は242,444人(前年比37,153人(13.3%減))で、そのうち中国出身者は、114,255人(47.1%)で、最多国・地域にランクインしている。これは、中国国内における教育事情なども関係しているようだ。その点については、次の資料などを参照のこと。
・「中国人日本留学の現状と社会背景〜なぜ12万人も日本に留学するのか〜」
生まれの偶然性、note、2020年9月13日
(注4)中国に拠点のある日本の大学は28校である。これに関しては、次の資料を参照のこと。
・「中国拠点のある日本の大学一覧」(科学技術振興機構・Science Portal China)