関空を襲った台風21号は、小さな割には気圧が低くて風の強い台風
関西国際空港は、大阪湾内の海上空港で、平成6年(1994年)9月4日に開港しました。その、ちょうど24年後の平成30年9月4日、台風21号が直撃し、高潮によって機能が全面停止するという大きな被害が発生しました。
今年4個目の上陸
非常に強い台風21号が8月4日正午頃、徳島県南部に上陸しました。台風の進路は、昭和36年(1961年)の第2室戸台風に似ていました。
今年の台風上陸は台風12号、15号、20号に続く4個目ですが、非常に強い台風の上陸となると、平成5年(1993年)9月3日に鹿児島県薩南半島南部に上陸した台風13号以来、25年ぶりということになります(図1)。
台風21号は、徳島県南部に上陸後、紀伊水道を通って大阪湾に入り、大阪湾に記録的な高潮を発生させました(図2)。
大阪港の過去最高潮位は、昭和36年(1961年)の第2室戸台風の時の2メートル93センチでしたが、台風21号はこれを更新し、3メートル25センチを観測しています。
大阪管区気象台では、前日、9月3日の5時57分と17時3分の「台風21号に関する近畿地方気象情報」の中で、高潮について次のように予想しています。
9月3日5時57分の情報
高潮の予想
近畿地方では、4日は高潮のおそれがあります。特に近畿中部では4日午後は厳重な警戒が必要です。
9月3日17時3分の情報
高潮の予想
近畿地方では、4日は高潮のおそれがあります。特に近畿中部では、台風の接近に伴い潮位が急激に上昇し、過去最高潮位に匹敵する記録的な高潮となるおそれがあります。
つまり、気象台では、9月3日の夕方には、台風21号の高潮は、高潮警報基準を超え、過去最高潮位に匹敵する高潮を予想していたものの、さすがに過去最高潮位をはるかに超えるという高潮までは考えていなかったことになります。
満潮と干潮は1日に2回ずつ発生することが多いのですが、9月4日はたまたま1日に1回ずつの日でした。
8時9分の干潮のあと、潮位が大きく上昇したあと、17時10分の満潮に向かって徐々に潮位が上昇してゆく日であったことが、満潮時刻の4~5時間前でも記録的な高潮につながりました。
台風21号の特徴
台風が上陸した頃の台風情報(9月4日12時の台風情報)は次のようになっています。
非常に強い台風
阿南市付近(北緯33.8度、東経134.6度)
進行方向 北北東 時速55キロ
中心気圧 950ヘクトパスカル
最大風速 毎秒45メートル
最大瞬間風速 毎秒60メートル
暴風域 南東側190キロメートル、北西側90キロメートル
強風域 南東側560キロメートル、北西側220キロメートル
台風の大きさは、平成3年(1991年)から、一般利用者に危険でないと安心感を与えないようにという理由で、気象庁では「ごく小さい」、「小型」、「中型」という表現をしなくなっています(表1)。
同様に、台風の強さも、平成3年(1991年)から、気象庁では「弱い」、「並みの強さ」という表現をしなくなっています(表2)。
台風21号が徳島県南部に上陸した頃の台風の大きさと強さは、「中型」で「非常に強い」ということになります。
第2室戸台風の上陸時の気圧は925ヘクトパスカルと、台風21号より低いのですが、気圧の傾き(中心に向かって、どのくらいの割合で気圧が低くなるか)は、台風21号より大きくはありません。気圧の傾きが大きくなると、強い風が吹きますので、並みの強さでも、第2室戸台風以上の風が吹き、その風による吹き寄せ効果で、第2室戸台風以上の高潮が発生したのです。
第2室戸台風は、台風21号より気圧の傾きがやや小さかったものの、大型であったために、中心付近の気圧は台風21号より低くなっています。
関西国際空港と台風
関西国際空港では、13時30分から気象観測がストップしています。これより、少し前に雨量観測が欠測となっていますが、これは、滑走路脇の雨量計に波しぶきが入って正確な観測ができなくなったための予防的措置と思います。
そして、13時30分に風速41メートル、気圧956ヘクトパスカルなどを観測した直後から全ての項目で欠測となっているのは、高潮により配電盤が海水をかぶって故障するといった重大な被害が発生したためではないかと思われます。
関西国際空港の気圧変化と、台風21号がすぐ近くを通過した高知県・室戸岬の観測を比べると、気圧の下がり方がほぼ同じで、気圧の傾きが似ています。つまり風速も室戸岬で観測されたものと似ていたと考えることができるでしょう(図3)。
室戸岬では11時53分に最大風速48.2メートルと最大瞬間風速55.3メートルを観測していますので、関西国際空港も、これと同程度の風が吹いていたのではないかと思われます。
関西国際空港は、高潮で滑走路や駐機場に浸水したことに加え、台風21号の風で流されたタンカーが連絡橋に激突、連絡橋が大きな損傷を受けたことから、元通りに復旧する見通しがたたなくなっています。
関西国際空港が高潮被害を受けたのは、平成30年の台風21号が初めてではありません。
平成16年(2004年)8月末の台風16号による高波が護岸を超え、滑走路近くの道路まで波に洗われています。数十ヶ所で陥没したり、アスファルトがめくれています。
このため、大阪湾で記録が残る第2室戸台風の潮位でも大丈夫なように、護岸のかさ上げ工事を行っています。
ただ、平成16年の台風16号は、九州に上陸した台風で、大阪湾に直接襲来した台風ではありません(図4)。
また、関西国際空港は開港以来、想定とは言え、少しずつ沈下が進んで、開港以来10メートル以上も沈下している空港です。
平成16年(2004年)の被害を受けての工事が、今でも有効であったかどうかについては、これから検証がすすむと思われます。
タイトル画像の出典:ウェザーマップ提供。
図1、図2、図4の出典:期使用長ホームページ。
図3の出典:気象庁観測資料をもとに著者作成。
表1、表2の出典:饒村曜(平成26年(2014年))、気象予報士完全合格教本、新星出版社