「グーニーズ」のGはグレムリン、Oはオーメン…Sはスーパーマン? 技あり予告で「BTTF」と同日公開
1985年の12月。
一年で最も注目される「お正月映画」が次々と公開され、この年のメインは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(以下、BTTF)『グーニーズ』『サンタクロース』『コーラスライン』『ポリス・ストーリー/香港国際警察』『コクーン』……と、なかなか華やかなラインナップだった。
その中でも最大の本命は12/7公開の『BTTF』。予想どおり週末2日間で1億円近い興行収入で好ダッシュを果たした。同じく12/7公開で対抗馬と目された『グーニーズ』は2日間で7000万円超えと、こちらも上々の滑り出し。しかし、その後の数字の落ち具合に差が出て、お正月映画は『BTTF』が圧倒的な勝利を収めるわけだが、結局、1987年度の年間ヒットランキングで、1位『BTTF』、2位『ロッキー4/炎の友情』に続き、『グーニーズ』は見事に3位となるのである。
『BTTF』に比べて、やや子供向けの印象も濃厚な『グーニーズ』。当時の予告編では、そのタイトルを使って、こんな紹介がなされていた。
G:グレムリン
O:オーメン
O:レイダース/失われたアーク《聖櫃》
N:未知との遭遇
I:インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説
E:E.T.
S:スーパーマン
これだけの大ヒット作を手がけたスタッフの最新作ってこと! その頭文字などをとって『グーニーズ』に当てはめたわけだが、こじつけなのは『レイダース』(原題のLOSTのOから? 理由をご存じな人いたら、教えてください!)、『未知との遭遇』(やはり原題のENCOUNTERのENがNの音だから?)だが、そんな無理矢理な予告編も80年代っぽくて、今となっては愛おしい。
当時、「スティーヴン・スピルバーグ印」の映画は日本でも大ヒットが保証済み。『ジョーズ』『未知との遭遇』『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(←これは日本ではイマイチ)『E.T.』『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』と監督作のほとんどはハズレなし。その「スピルバーグの映画」と大々的に宣伝されたのが『BTTF』と『グーニーズ』で、地方では2作を同時上映する映画館もあったほど。当時としては、常識のこのパターンだが、いま考えると、この2作を一度に、しかも一本分の料金で楽しめたとは、なんという贅沢!
ともあれ、『BTTF』はスピルバーグが製作総指揮。宣伝コピーは「スピルバーグがまたやった!」で、監督のロバート・ゼメキスは置いてきぼりの感。一方の『グーニーズ』は、スピルバーグの原案を基に、彼のオファーで『グレムリン』の脚本を書いて映画界デビューを果たしたクリス・コロンバスが脚本を執筆。その脚本を読んで、スピルバーグが『オーメン』や『スーパーマン』を大ヒットさせたリチャード・ドナーに電話をかけて監督を依頼した。
『BTTF』も『グーニーズ』も、スピルバーグのプロデュース作品。しかし公開当時は、両方とも「スピルバーグの新作」という部分が強調され、彼の監督作だと思い込んでいた人も多かった。
ちなみに『グーニーズ』とは、主人公たちのチーム名で、彼らの住む地域が「Goon Docks」で、そこの仲間たちという意味だとされている。
ただ前述の予告編のタイトル文字のこじつけ、じつは理にかなっていたりもする。
『グーニーズ』の中では、警官が電話で「今度は水につけると増える生物が出たのか?」と『グレムリン』をパロってるし、『スーパーマン』のTシャツも登場。『E.T.』を連想させる自転車のシーンもある。もちろん秘宝を探す物語は『レイダース』。その続編の『インディ・ジョーンズ』のキャスト、キー・ホイ・クァンは『グーニーズ』でも活躍……と、作り手たちの自作オマージュがたっぷり出てくるのだ。
その他にも『ロッキー』、『メル・ブルックス/新サイコ』からの引用、『お熱いのがお好き』や、エロール・フリンの海賊映画といった名作の映像など、映画ファンにアピールするサービス精神も旺盛。
そんな感じで、出演者も、スタッフたちも心から楽しんで、遊んでいるように完成させた「印象」が作品全体に漂っている。プロデューサーのスピルバーグも、現場でワンシーンだけ演出したというし、撮影の期間中、スピルバーグとドナー監督の計らいで、キャストたちはLAのドジャースタジアムでのマイケル・ジャクソンのコンサートを観せてもらったりと(マイケルが『グーニーズ』の現場を訪問した縁もあった)、舞台裏のエピソードには事欠かない。どこから観ても傑作な『BTTF』とは違って、ユルさも含め、憎めない作風が、35年経った今も愛され続けている理由かもしれない。
1985年の日本公開前には、リチャード・ドナー監督と、キー・ホイ・クァンら3人のグーニーズが来日。このとき、14歳だったキー・ホイ・クァンは「演技も好きだけど、最終的には監督やプロデューサーになりたいので、そのための勉強をしたい」と語っており、その後、南カリフォルアニア大学の映画学部へ進学。『X-MEN』やジェット・リーの主演作『ザ・ワン』で武術指導のアシスタントを務めた。
グーニーズ7人の中に、アジア系が一人いるというのは、現在のハリウッドが意識しまくってる多様性キャストであり、当時はそこまで考えていなかったとしても、未来を先取りしていたようでもある。だからこそ、いま観ても古臭さは感じない。ツッコミどころや、ハリボテのようなセットも、ノスタルジックな愛おしさへと、いい方向に転換される。時代を忘れて、楽しませてくれる映画の本質が宿っているのが、『グーニーズ』なのではないか。
『グーニーズ』記者会見 参考文献:キネマ旬報1986年1月下旬号