引退間近か?TVと劇場で今盛り上がる伝説のスター、アラン・ドロン特集の意味とは?
アラン・ドロンが81歳を迎えた今年5月、2度目の引退宣言をぶち上げて映画ファンの間に衝撃が走った。1度目は簡単に撤回したものの、今回は本当らしい。本人は引退の理由を「ボクシングの興行を手がけた時、あまりにも長く戦って後悔している男たちを見て、自分はそうなりたくないと思ったから」と説明している。確かに、デビュー以来実に60年間、映画界を一気に駆け抜けてきたのだから、やるべきことはやり尽くしたという思いがあるのかも知れない。最後の作品として準備されているのはジュリエット・ビノシュ共演で、監督は偶然にも前回引退を発表した時の作品「ハーフ・ア・チャンス」(98)と同じくパトリス・ルコント。これで行くと、2度目の引退撤回もあり得る気がする。
かつて"アラン・ドロンの時代があった
かつて1960~70年代にかけて、特に日本の洋画界では"アラン・ドロンの時代"が確実に存在していた。「太陽がいっぱい」「若者のすべて」(共に60)、「太陽はひとりぼっち」(62)、「地下室のメロディ-」(63)と続く60年代前半のフィルモグラフィは、絶世の美形俳優の眩しさを湛え、続く「冒険者たち」(67)は後に青春映画のバイブルとなり、「サムライ」(67)ではフィルムノワールの真髄に到達。この時期のドロンは俳優として進境著しく、美しいフォルムに内面的な表現が加わり、人気は絶頂に達する。1970年代は「ボルサリーノ」(70)を皮切りにトータルで30本の映画を製作しているので、日本では毎年ほぼ3本のペースでドロン主演作が公開されていたことになる。
人気投票では常にトップに君臨していた!
劇場だけではない。洋画雑誌のグラビアでは毎号ドロン特集が組まれ、読者の人気投票では女優ではオードリー・ヘプバーン、男優はドロンとスティーヴ・マックイーンがトップの座を奪い合っていた。その他に人気スターと言えば、ソフィア・ローレン、クラウディア・カルディナーレ、やや遅れてカトリーヌ・ドヌーブ、アンソニー・パーキンス、ポール・ニューマン等に混じって、ジュリアーノ・ジェンマ、フランコ・ネロ等、マカロニ・ウェスタン(イタリア製西部劇)の看板スターも台頭する。当時はヨーロッパ映画から数多くのスターが生まれ、個性と人気を競い合っていた。人気の上位をハリウッドスターが独占する現在の洋画界とは違い、ファンに多くの選択肢が与えられていたのだ。
60年間は闘いの歴史だったとも言える
そんな幸せな時代に君臨したのがドロンだった。家庭に恵まれず、14歳で働きに出た彼がインドシナ戦争に従軍し、その後放浪の旅から帰還した直後、冗談半分でカンヌ映画祭を訪れたのが映画デビューのきっかけだった。そこでスカウトされたドロンはフランス映画でデビューを飾り、やがて、ルネ・クレマンやルキノ・ヴィスコンティ等、巨匠の下で青春スターとして開花して行く。しかし、見た目より実力を重んじるある意味芸術至上主義の母国フランスでは、その美しすぎるルックスが仇となり、人気絶頂期ですらライバル、ジャン=ポール・ベルモンドの後塵を拝することに。当時、ドロンはこう言い放っている。「フランスはベルモンドにくれてやる。俺には世界があるから」と。その悔しさが、やがて犯罪映画に活路を見出し、寡黙な中にそこはかとない人間味を秘めた演技で独自のスタンスを手に入れることにつながった。思えば、ドロンの60年は彼が見たボクサーと同じく、ボコボコにされても立ち上がる闘いと不屈の日々だったのだ。
ドロンが言った"世界"とは、恐らくヴィスコンティのイタリアと、絶大な人気があったここ日本だったと思う。1963年の第3回フランス映画祭で初来日を果てして以降、度々来日してファンに取り囲まれたドロンだが、ターバンのTVCMがブームを巻き起こしたことも。ドロンとのディナーがブッキングされたヨーロッパ・ツアーも度々企画され、熱狂的なドロン・ファンが多数参加した。
スターチャンネルとBunkamuraル・シネマでドロンに会える
映画専門チャンネルのスターチャンネルでは、デビュー60周年を祝して"アラン・ドロンがいっぱい"と題されたスベシャル番組を組み、今年1月から年末まで、毎週1本、実に53週に渡ってドロン作品を一挙放送。その反響を受けて、さる6月25日にはフランス映画祭2017に合わせて「チェイサー」(77)の上映とトークイベントを開催した。また、共催として明日、7月1日から14日まで、東京、渋谷のBunkamuraル・シネマでは"アラン・ドロンに魅せられて"と題する特集上映を企画。TVと劇場でドロン回顧の気運が盛り上がっている。
思えば、アラン・ドロンの時代とはハリウッド映画とヨーロッパ映画が同じく日本でビジネスとして成立していた時代であり、同時に、映画自体が娯楽の王様だった時代でもあった。そんな映画ファンにとって至福の時間を一瞬でも取り戻すために、もう一度ドロン映画に足を運んでみてはいかがだろうか?
アラン・ドロンがいっぱい
http://www.star-ch.jp/alaindelon/
アラン・ドロンに魅せられて
http://www.bunkamura.co.jp/cinema/
写真:AP/アフロ
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