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トウモロコシ価格に迫る高温乾燥の脅威

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

シカゴのトウモロコシ先物価格が急伸している。南米産の収穫期と前後して、3月27日には1Bu=354.25セントまで下落していたが、4月以降は緩やか上昇トレンドを形成し、6月入りしてからは一気に380セント台まで値位置を切り上げている。これは中心限月ベースで昨年6月30日以来となる約11カ月半ぶりの高値を更新したことを意味する。

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背景にあるのは、今季のトウモロコシ生産を取り巻く気象環境が厳しい状態にあることだ。米国産トウモロコシは4月上旬から作付け作業が本格化するが、今季は4月下旬から5月上旬にかけて多雨・低温傾向が報告され、作付け作業に遅れが生じた。最終的にはその後の乾燥した天候で帳尻を合わせ、6月入りと前後してほぼ作付け作業は終了している。直近の6月4日時点の作付け進捗率は96%(前年同期97%、平年97%)、発芽進捗率も86%(前年同期88%、平年87%)となっており、表面的な生産進捗率の数値では大きな問題は確認できない。

しかし、天候不順による作付けの遅れは作柄環境に影響を及ぼしており、5段階評価で上から二番目となる「良」以上の作柄比率は68%と、前年同期の75%を大きく下回っている。逆に不作のイメージを抱かせるまでの状況にはないが、少なくとも大豊作をイメージさせる作柄環境にはなっていない。

そこに新たに浮上してきた脅威が、ホット・アンド・ドライ(高温乾燥)リスクである。これまでは専ら多雨・低温が警戒されていたが、6月入りと前後して米穀倉地帯北部を中心にホット・アンド・ドライの発生を報告する声が急激な広がりを見せている。具体的には、ノースダコタ州、サウスダコタ州、ミネソタ州、モンタナ州などになるが、農地の気温は早くも30度を超えており、一部地域で干ばつ傾向も報告され始めていることが、トウモロコシ市場の危機感を高めている。土壌水分が急速に失われており、ノースダコタとサウスダコタの両州では、表層土の水分不足が報告される比率が54%にも達している。

米農地のトウモロコシは、まだ発芽から生育が始まったばかりの段階であり、生育を進める上で重要な時期に差し掛かっている。一般的に、天候相場のクライマックスは夏の受粉期になるが、春から初夏の段階で早くもホット・アンド・ドライ傾向が強くなっていることが、トウモロコシ市場の危機感を増幅している。

これまで豊作続きで300セント台中盤をコアとした安値低迷が長期化していたトウモロコシ価格に新たな不確実性が持たされている。米国産トウモロコシは主に家畜向けの飼料やエタノール生産、コーンシロップや食用油生産で消費されており、食肉や食用油価格などの潜在的な上昇圧力として今後の展開が注目される。天候相場は瞬時に地合が変わる可能性もあるが、今季の産地気象環境はトウモロコシ生産に楽観よりも悲観を多くもたらしており、それがトウモロコシ価格を上向きに刺激している。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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