食品ロスを焼却・輸送せず、現場で電力や肥料に資源化 オランダのサーキュラーエコノミー(循環経済)とは
食品ロスは、世界の食料生産量の3分の1(13億トン)にも及んでいる。廃棄すると、害虫を引き寄せ、においを放出する。廃棄物が原因となって発生するメタンガスは、二酸化炭素の20〜25倍もの温室効果ガスを排出する。食品ロスやごみを減らすことは、気候変動への影響を最小限に抑え、環境を守るためにも急務である。
オランダのアムステルダムには、The Waste Transformersという組織の拠点がある。日本語に訳すと、ごみや廃棄物(waste)を変換する(transform)「廃棄物変換機」のような感じだろうか。
The Waste Transformersは、食品ロスを含む、ごみ(有機廃棄物)を、焼却も輸送もせず、その場でグリーンエネルギーや天然肥料、水に変換し、循環経済(サーキュラーエコノミー)を実現している。創業して間もなく、小さな企業だが、この仕組みで数々の賞を受賞している。
このたび、Marketing and Project Manager(マーケティング・プロジェクトマネジャー)、Coen Bakker(コーエン)さんが、オランダのアムステルダムで取材に応じてくれた。
食品ロスを含むごみ(有機性廃棄物)を、輸送も焼却もせずその場でグリーンエネルギーや天然肥料や水に変換
ーはじめまして。今日はありがとうございます。
Coen Bakker(以下、コーエン):はじめまして。よろしくお願いします。
ーThe Waste Transformersの設立当初の目標は、廃棄物を「ごみ」ではなく「資源」として活用し、経済的・社会的・環境的にリターンを得られるようなビジネスモデルを確立することだそうですね。
コーエン:はい、そうです。
コーエン:The Waste Transformersは、地元の事業者、たとえばホテル(hotel)や大学(university)、食品企業(food companies)、農場(farm)、港(port)、空港(airport)、病院(hospital)、卸売業者(wholesaler)、ショッピングモール(shopping mall)などが、現場にWaste Transformers(ごみ変換機)を設置するだけで、ごみや食品ロスを資源に変換できるような仕組みを生み出しています。
コーエン:ここでいう「資源」とは、グリーンエネルギー(green energy:再生可能エネルギー)や、天然肥料(compost)、水(water)などです。得られたエネルギーや肥料は販売することができ、それにより収入を得ることができます。
この「ごみ」とは、英語で言うorganic waste(有機性廃棄物)のこと。食品由来のごみに加えて、葉っぱや木、とうもろこしの茎なども含んでいる。オランダのアムステルダムにあるThe Waste Transformersでは、10店舗以上のレストランや、2つの劇場、醸造所などから食品ロスを含むごみを集め、グリーンエネルギーや肥料、水に変換し、地元に還元している。オランダの政府やアムステルダムの行政(市)、大学など、24団体以上が、The Waste Transformersのパートナーとなっている。
参考:
有機性廃棄物の種類と利用用途(九州地方環境事務所):What is organic waste?
1日600kg以上のごみ(食品ロス含む)を排出する事業者が主な対象
ーどれくらいの規模の廃棄物を出す事業者が対象でしょうか?
コーエン:だいたい1日あたり600kg以上の廃棄物を出している事業者が対象です。たとえばホテルや病院、空港、社員食堂などです。The Waste Transformersは、1日あたり600〜3,600kgの廃棄物を処理し、廃棄コストを削減できます。
600kg/日を処理するのに6メートル四方(駐車スペース2.5台分ぐらい)のスペースが必要
ーこのコンテナの設備を設置するには、だいたいどれくらいのスペースが必要なのでしょう?
コーエン:1日600kgの廃棄物を処理するのに必要なスペースは、だいたい、車2.5台を駐車できる広さ、すなわち6メートル四方くらいです。1日3,600kgでしたら車7台の駐車スペースくらいです。
1日600kgの廃棄物を集めるとすると、単純計算で、一年でおよそ300トンの廃棄物を回収し、資源化できることになる。
コーエン:廃棄物は、40%から70%の有機物を含んでいます。たいていの場合、水分を多く含んでおり、これを焼却するという、もったいない処理をしています。The Waste Transformerは、廃棄物を長距離輸送せず、その場でエネルギーに変換させ、グリーンエネルギーや天然肥料や水に変換させます。ごみはごみでなく、資源なのです。
世界の最貧国の一つ、シエラレオネ共和国の首都、フリータウンでごみや食品ロスを資源化
ー実際に設置して成功している事例はありますか?
コーエン:これは、西アフリカにある、シエラレオネ共和国(Republic of Sierra Leone)の首都、フリータウン(Free Town)に設置された装置です。フリータウンは、2010年時点で人口120万人。世界の最貧国の一つです。これは、私がドローンで撮影した埋め立て地の写真です。
コーエン:これまで、フリータウンの都市部では、数カ所ある埋立地のごみが、海に流れ出る、焼却することで煙が発生する、ハエが飛ぶ、人々が疾病にかかるなど、環境汚染が問題となっていました。
そこで、それらを解決するため、The Waste Transformersが、現地の企業であるマサダ・ウェイスト・マネジメント(Masada Waste Management)に廃棄物処理の技術を提供し、2社で合弁会社マサダ・ウェイスト・トランスフォーマー(Masada Waste Transformers)を設立しました。
コーエン:現在、フリータウンとその周辺に、40の装置を設置し、全ての廃棄物を埋立地に送り、グリーンエネルギーや肥料に変換しています。
コーエン:これまでフリータウンでは海外から高価な人口肥料を輸入していました。土壌にとっても、それはいい影響を与えません。食品ロスから作った肥料の方が、土壌にとってもよい影響を与えます。
The Waste Transformersの仕組みにより、廃棄による環境負荷を減らし、廃棄コストを減らすとともに、得られたエネルギーを販売することで、フリータウンの人々が収入を得ることができます。これまで数百名分の雇用を生み出しました。
ごみを資源化し、経済的・社会的・環境的メリットを得る
コーエン:写真にあるこのコンテナは、「アバディーン女性センター(Aberdeen Women Centre)」という、10代の妊婦などを含む女性を支える施設の隣に設置されています。病院での診療を受けられない、経済的に困窮している妊婦は、無料で診療を受けることができます。得られたグリーンエネルギーで、新生児が入浴するお湯をわかすこともできます。ごみを資源化することで、そこで暮らす人が、経済的・社会的・環境的に恩恵を受けることができる、というわけです。
食品ごみのうち、油分は何%くらいが適当?
筆者の知っている食品リサイクルセンターでは、家畜のえさに加工するにあたり、あまりに油分の多い食品は、受け入れをしていない。The Waste Transformersは、今のところ、家畜のえさは作っていない。資源化するにあたり、食品ロスの組成、特に油分には制限はあるのだろうか。
ー食品ごみを投入する場合、油の割合が多過ぎるとよくないでしょうか。だいたいどれくらいの割合がいいのでしょう?
コーエン:1日600kgの場合、油分が占める割合は、上限10%までが望ましいと思われます。油が多過ぎると、その分、それを処理するための水もたくさん必要になります。
24時間365日のオンライン監視システム
ーこの、ごみから資源にする仕組みは、どのように管理しているのでしょう?
コーエン:設備はインターネットで接続され、オンラインで24時間365日、監視することができます。南アフリカで起こっていることを、オランダで見ることができます。
コーエン:投入した廃棄物の量や、エネルギー消費、発電量などがデータ管理されています。
南アフリカの1,000万トンの食品ロスを資源化
シエラレオネでは、ごみを資源化する取り組みが成功しているという。
The Waste Transformersの女性創業者でCEOのラウラ(Lara van Druten)さん。彼女の出身地である南アフリカでは、毎年、1,000万トンの食品ロスが発生している。「N1 シティモール(N1 City Mall)」は、ショッピングモールの裏にあるごみ収集場に、The Waste Transformers(ごみ変換機)を設置した。
ショッピングモールに出店している各テナントは、食べ残しなどのごみを、指定の場所へ廃棄する。
プラスチックや缶などの容器包装は、手で取り除く。これらは毎週、収集される。コンテナに入れられた食品は21日間かけて中で処理される。
毎日、回収箱が入れ替えされるため、飲食店のキッチンのにおいの問題などは軽減されるという。また、ショッピングモールで使う電力は無料。しかも、農場などに販売して収入を得ることもできる。
コーエン:南アフリカでは、この2〜3年以内に、新たな法律が施行される動きがあります。生ごみなどの有機廃棄物を埋め立てることは禁止されます。そのため、現地の企業は、近いうちにごみを処理する方法を見つけなければなりません。
南アメリカのビーチにたまった海藻を処理してエネルギー化を目指す
ーオランダや西アフリカ、南アフリカなどで、ごみや食品ロスを資源化する取り組みが進んでいるんですね。ほかの国でも何か事例はありますか?
コーエン:南アメリカでは、ビーチ(海辺)に海藻がたまってしまっていて、現地の5つ星のホテルは、このビーチを綺麗にしようとしています。まだ現地では実践されていませんが、ビーチにたまった海藻を集めて、The Waste Transformersの装置を使い、エネルギーや肥料などに資源化する実証実験をこちらで行っています。
オランダ・アムステルダムでは2021年完成予定で1350世帯が暮らす建物に導入予定
コーエン:The Waste Transformersと、世界的に著名な建築家、Rem Koolhaasの会社(OMA Architects)は、コンソーシアムを組んで、アムステルダムのバイルメルバイエ(Bijlmerbajes)の、再開発プロジェクトを担当しています。この建物は、元刑務所だったんです。
ーそうでしたか。
コーエン:この建物の中に、The Waste Transformersの装置を設置します。1350世帯が入居する建物には、レストランやホテル、ジムなども入ります。そこで排出される、食品ロスを含めたごみ(有機廃棄物)を建物内で処理し、エネルギーなどに資源化することが可能となります。
参考:
The Waste Transformersは、起業家が、この取り組みを自身のビジネスとして創業し、運営を続けられるよう、ツールや支援を提供する「Business in a Box」というサービスも提供している。
The Waste Transformersの公式サイトによれば、The Waste Transformersの装置を設置した場合、投資コストは3年から5年で回収できるとしている。
日本で導入される可能性
コーエン:The Waste Transformersの仕組みは、日本でも活用されると思いますか?
ーそうですね・・・環境省のデータによれば、日本は年間およそ2兆円の税金を、食品ロスを含めた全てのごみ処理に使っています。
コーエン:そんなに!日本はたくさんの食品を海外から輸入しているでしょう?大量の食品を輸入して、大量に捨てる。なんてことだ。なぜそんなに食べ物を捨てるのですか?
ーいろいろ理由はありますが、食品事業者の場合、食品安全や経営上のリスクを考慮し、活用せずに捨てることも多いです。いくつかの企業はフードバンクへ寄付したりしていますが、米国のように免責制度(善きサマリア人の法)がないため、万が一を考えると、なかなか踏み出せないのです。ただ、日本でも2019年5月に食品ロス削減推進法が成立しました。私も、食品ロスを減らすためのヒントやその重要性を書いた本を出版しました。これからも活動を続けていきたいと思います。
取材を終えて
もともとコーエンさんと知り合ったのは、Linkedin(リンクトイン)というサービスを通じて連絡を下さったのがきっかけだった。英語に翻訳された筆者の取材記事をコーエンさんが読み、興味を持ったという。
以前、オランダの農業を視察した食品企業社長の講演を聴いたことがあった。オランダは、九州と同じくらいの国土面積で、世界2位の農産物輸出を誇るということで、農業分野の方が多く視察している。講師は「オランダは効率的で合理的な農業経営をしており、とにかく得られたものは全て売る」と話していた。
ヨーロッパ全体で感じるのが、ごみを単なるごみとせず、資源だと認識して、有機性廃棄物を分別して回収し、資源化していることだ。そして、自国のことだけではなく、途上国の自立支援や発展、環境保全を考えている。その姿勢にも感銘を受けた。
コーエンさんは、日本でThe Waste Transformersのシステムが導入されることを楽しみにしている。
謝辞
取材にあたり、事前に組織の概要を調べて下さった本多将大さんに感謝申し上げます。