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「世間のイメージを払しょく」。金正奎、初の日本代表入り発表前に緊張感明かす。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
早稲田大学時代。好人物と謳われる理由を「いつもニコニコしているからでは」と分析。(写真:アフロスポーツ)

昨秋のワールドカップイングランド大会では歴史的な3勝を挙げたラグビー日本代表。2019年の日本大会に向け、体制刷新後初のメンバーが21日、発表された。

イングランド組がゼロというラインアップにあって、注目株の1人とされるのは金正奎。早稲田大学からNTTコムに入社して3年目の24歳だ。

オープンサイドフランカーを務める。公式で「身長177センチ、体重93キロ」と、走り回って身体をぶつけ合うポジションのトップクラスプレーヤーにあっては小柄だが、低い姿勢でのプレーと聡明さには定評があった。各年代の代表に選ばれるなど将来が期待されており、今回は満を持してジャパン初選出に至った。

昨季は3月からの3か月間、ニュージーランドのワイカト協会傘下のユニバーシティーなるクラブチームへ留学した。確かな手応えを掴んで挑んだ日本最高峰のトップリーグでは、勝負どころでジャッカル(密集で相手の球を奪うプレー)を連発。リーグ戦のベストフィフティーンに輝いた。

リーダーシップにも定評があり、NTTコムでは昨季からゲームキャプテンを務め、今季から正規のキャプテンとなる。かねてから「チームが次に向かう矢印を示す」と、自らの哲学を明かしていた。

3月には20歳以下日本代表(U20日本代表)を主体としたジュニア・ジャパンのキャプテンとして、パシフィック・ラグビーカップに出場。環太平洋諸国の代表予備軍とゲームを重ねた。

代表入りが発表される前の14日、千葉県にある所属先のクラブハウスで単独取材に応じている。そこで語られたのは、国際試合に挑む自身の悲壮感だった。

以下、一問一答。

――改めて、パシフィック・ラグビーカップはいかがでしたか。

「凄くいい経験をさせてもらったというのが正直な感想です。あれだけ年下のメンバーと一緒にすることもなかなかない。リーダーシップの取り方、チームがどうしたら上手くいくか。それを考えた20日間でしたね」

――年の離れた選手を引っ張る難しさ、ですか。

「今回の遠征にはU20の強化という意味合いもあったので、自分たち(オーバーエイジ組)が前に出すぎるのもよくない、と。正直、(プレーなどの改善方法で)U20の子たちより自分たちの方がわかっている部分もあった。でも、それを出し過ぎてもだめだし、出さなさ過ぎてもだめ。そこを考えながらやっていたので、難しかったですね。遠慮はしていなかったですけど、本当に考えながら日々を送りました」

――繊細なやり取りが続いたのですね。

「例えばですけど、(リーダー同士のミーティングでは)U20の4~5人、自分、中村亮土(サントリー)などが混ざっていました。そこでは、まず外から皆のトークを見てあげて、感じたことがあったら言うようにした。ミーティングの場で(経験値の高い)自分たちが発言をしてしまうと、どうしてもそれが正解になってしまう。それは、今回のチームを1つにするためにはよくないことだと思っていた」

――U20の選手同士では出てこないU20の選手の意見が出てくれば…というイメージ。

「全員がリーダーシップを発揮するのが大事だと思っていました。色んな思いを持った選手が集まっているわけだし。(U20のリーダーが発言した時、全員の)表情を見たら、腑に落ちていない選手もたくさんいた。そういう選手の話を聞いてあげたり、選手の表情を見るのも大切だよと、(U20の中心選手に)はしっかり伝えてあげました。自分の意見が合っているのか、間違えているのか。そこに疑問を持たないとだめだと」

――そんな経験を経て、初の日本代表入り。まだ公式発表前ですが、いかがでしょうか。

「嬉しい反面、責任がある。ワールドカップであれだけ活躍をした、その次の日本代表。海外に行っている選手やサンウルブズの(主力の)メンバーは出てこないわけですし、世間の声では、日本代表3軍とか言われているみたいですけど、それでも、勝たなきゃいけない。責任を感じますね。世間が思っている考えは、払しょくしないといけない。勝たないといけない。勝つことが大前提です」

――緊張感がある反面、今度ぶつかるアジア諸国は「格下」と見なされがちです。

「正直、わからないです。僕はテストマッチ(国際間の真剣勝負)に出たこともないですし。ただ、勝つ難しさはわかっています。普通にやっているだけでは勝てない。短期間で勝つための準備をするには…と、各々が考えないといけない」

――正式なヘッドコーチが置かれないうえ、試合前の準備期間は短い。

「けどね、それを言い訳にしたくない。誰が監督だろうが、日本代表ですから。勝たないといけない。去年、あれだけ積み上げてきたものを崩すわけにもいかないです。まずは1戦1戦、です。先を見ていたら足元をすくわれる。やっぱり、弱くないので。韓国代表も、香港代表も。油断はできない。自分たちが追う立場になる可能性だってある」

――緊張感が伝わります。

「そうですね。(アジアネーションズカップは)チームとしては世界ランクランキングかかっているから、大切です。それに自分自身としても、またとないチャンス。日本代表はここで終わりじゃないですし、2019年(ワールドカップ日本大会)にも繋がっていく。このチャンスを活かせるか活かせないかで、今後のラグビー人生が大きく変わってくる。いま持っているものは全部、出したい」

――個人としても、勝負の年と認識されているわけですね。

「毎年勝負だと思っているんですけど、いまこう思っているということは、そうなのかもしれないですね」

――いままでも、ジャパンには入りたかった。イングランド大会のチームをどう観ていましたか。

「厳しい練習を乗り越えてきたのが、試合を観ただけでわかる。ラグビーを知らない人を感動させたのもすごいと思いました。ただ、それと同時に悔しかった。いまの自分の原動力には、その時の悔しさもある。あそこに呼ばれなかったということは、足りない部分が多いからだと思っています。サイズ、ブレイクダウンの仕事…。去年のシーズンは、その足りない部分を補おうと思って過ごせたので、そこはよかったです」

――成長のきっかけは、15年春のニュージーランド留学にありました。

「タックルの仕方、その前の初動、パス、ブレイクダウン…。基礎中の基礎を徹底してできた。それに、ハードな練習を繰り返しながら毎週試合をしていたので、身体もタフになった。

あとは、ラグビーの考え方を180度変えさせられました。

大学の時は賢いプレーヤーと言われていましたけど、僕自身はそんなことはないと思っていました。それに社会人1年目の時はリアルオープンサイドフランカーを目指して、どんなポイントにも寄ろうとして、どんなブレイクダウンにも頭を突っ込んでいた。でも、やっぱりそういうことをやっていても試合に出られなくて(先発は2試合のみ)。凄く悩んでいた時にニュージーランドへ行かせてもらって、現地のコーチに『それはスマートじゃない』『頭を使って考えながらプレーしよう』と言われた。行くところは行く、引くところは引く…というものを考えながら、試合で実践できた。それがあったから、いい曲線を描けた」

――小さな選手の代表に。その思いはありますか。

「自分がそう思って欲しいというわけではないですけど、やっぱり周りがそう思いたくなるようなプレーをしないといけない。こんなラグビー人気が盛り上がっているのに、子どもたちに『小さいからできない』なんて絶対に思って欲しくない」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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