熱中症による死亡者の発生場所の動向をさぐる(2023年公開版)
毎年熱中症により多数の方が亡くなられるが、亡くなった場所は熱中症の実情を知る一つの鍵となる。その実情を厚生労働省の統計調査「人口動態調査」の公開値から確認する。
熱中症の発症リスクは、若年層から就業者層までは屋外が多く、高齢層になると屋内が多くなる(【熱中症による救急搬送者の内情(最新)】)。今回は人口動態統計における「熱中症による死亡者」の定義に従った死亡者が、どのような場所でその死因が発生したのかを確認する。
まずは直近分となる2022年分だが、単年分では値が少なめで、各年の気候状況によるぶれが生じやすいため、該当年に加え過去2年分の値を合わせた平均値を用いる。また対象となる場所は「家(庭)」「居住施設」「学校、施設および公共の地域」「スポーツ施設および競技施設」「街路およびハイウェイ」「商業およびサービス施設」「工業用地域および建築現場」「農場」「その他の明示された場所」「詳細不明の場所」で区分されている。「家(庭)」なら自宅内や草刈りをする庭先などがよい例。部活動ならば「学校、施設および公共の地域」や「スポーツ施設および競技施設」、就業中ならば「街路およびハイウェイ」「商業およびサービス施設」「工業用地域および建築現場」、あるいは農家ならば「農場」が主な発生場所となる。
熱中症による死亡者の8割台が65歳以上の高齢者で占められている(グラフ化は略)。その中でも多くが自宅内、あるいは詳細不明の場所であることが分かる。この「詳細不明の場所」について詳しい説明はない(具体例の記載がない)が、熱中症で死亡したこと自体はカウントされていることから、見方を変えれば発見時に詳しい状況が確認できない状態にある、あるいは死亡診断書を記載した医師が状況を把握しきれず、判断が難しいとして、「詳細不明の場所」に割り振った可能性は高い。さらに年齢が上になるに連れて生じている「詳細不明の場所」の増加傾向が、「家(庭)」とほぼ同じ傾向にあることから、多分に「詳細不明の場所」は「家(庭)」と近い状況による発生と見ても、的外れなものではないだろう。
報道では高齢者の農作業時における熱中症発症の事例がよく伝えられる。実際、「農場」の値も歳を重ねるに連れて増えているのが確認できる。「詳細不明の場所」のうち多少は実質的に「農場」の場合もあるだろう。しかし一方で、高齢者における「家(庭)」での熱中症による死亡者がいかに多いかが改めて分かる次第である。
これを男女別に見たのが次のグラフ。高齢層は人口そのものにおいて女性の方が多いため、熱中症による死亡者も女性が多くなる傾向がある。
やはり高齢層における「家(庭)」での死亡者数が目立つ形となっている。男性の方が「詳細不明の場所」の全体に占める割合が大きく、その他の場所でも数がそれなりに見受けられるのは、行動傾向の違いによるところだろう。また80歳以上の「農場」で、男女を問わず高い値が出ており、(おそらくは地方農村部で)80歳以上の人において農作業時の熱中症による死亡が多い実態がつかみ取れる。特に男性に限った話ではないようだ。
余談となるが、昔と比べて現在は熱中症による死亡者数そのものが増えている件に関して、今回の区切りと同じように、年齢階層と発生場所別に試算をした結果が次のグラフ。
熱中症による死亡者は、(人口そのものの増加率以上に)高齢者で増えている。その増加が主に「家(庭)」や「商業およびサービス施設」で生じていることが分かる。ちなみに「商業およびサービス施設」とは具体的には「小売店、デパート、商店街、ガソリンスタンド、銀行、ホテル、旅館など」を指している。もっともこれは純粋に倍率のみで、数そのものは一人二人であることから、さほど気にするものでもない。むしろ「農場」や「家(庭)」、そして「詳細不明の場所」の増加に注意を払うべきかもしれない。
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