メジャーリーグとADHD(注意欠陥・多動性障害)。診断につきまとう疑惑とは?
テニス界のスーパースター、マリア・シャラポワが全豪オープンのドーピング検査で禁止薬物の「メルドニウム」に陽性反応が出たことを明らかにした。シャラポワは10年間、治療用に服薬してきたという。
治療のために薬を飲むことと、パフォーマンスを向上させること。そして、どこからがドーピングなのかの線引きは極めて難しい。
メジャーリーグには、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の診断を受け、その治療のために服薬している選手たちが2014年には119人いた。メジャーリーガーの約10%にあたる。2015年時点では110人で全体の9.4%。米国ではADHDの診断を受けている成人は4.4%とされており、ADHDの診断を受けているメジャーリーガーは、一般成人の2倍以上の割合ということになる。
メジャーリーガーのなかには、ADHDの治療のためにアデラルという薬を服薬している選手がいるようだ。治療のためにアデラルを服薬することをメジャーリーグ機構に届け出ていない選手から、アデラルの陽性反応が出た場合は、禁止薬物規定違反となる。
実際にオリオールズのクリス・デービスがメジャーリーグ機構に申請していない状態でアデラルを服薬し、ドーピング検査で陽性反応が出たために2014年9月に出場停止処分を受けている。デービスはADHDの診断を受けてレンジャーズ時代には服薬の申請をしていたという。2015年はアデラルでなく、別の治療薬で免除申請を受けたようだ。
先に述べたように、メジャーリーグ機構がADHDと診断されて服薬している選手の人数を把握しているのも、機構が選手からの免除申請を受けて審査しているから。
このアデラルはどのような効き目があるのだろうか。CBSスポーツでは2014年9月の記事でニューヨーク州ライセンスを持つ心理士の「普段は持っていないエネルギーを与えるものです」という談話を紹介している。
より精力的に、より長い時間にわたって優れた仕事をする助けになるともいわれている。禁止薬物に入っていることからも選手のパフォーマンス向上と無関係ではない。それは、なぜ、メジャーリーグには一般成人の2倍の割合でADHDと診断される人が多いのかという疑問にもつながっていく。
スポーツ医学のトロント大のダグ・リチャーズ教授は「過剰診断されている疑いや、選手がADHDと偽って処方箋を得ている疑いもある」とトロントの地元紙ザ・スターにコメントしている。一方で、メジャーリーガーが一般成人よりもADHDと診断されている割合が高いのは、一般の人は診断を受けていないことが多いが、メジャーリーガーは積極的に受診し、診断を受けているためだという意見もある。
筆者は以前、フィリーズやレッドソックスなどで活躍し、今季はカブスとマイナー契約を結んだシェーン・ビクトリノ外野手にADHDについて取材したことがある。
ビクトリノは子ども時代にADHDと診断された。大人になると自然治癒すると思っていたのだが、マイナーリーグのコーチの話をよく聞くことができなかったことから、すすめられて診察を受けた結果、再びADHDと診断された。
子どものころは幼稚園をクビになったことがあり、感情をコントロールするのがとても難しかったそうだ。衝動的に道路に飛び出して交通事故に遭いそうになったこともあるという。
ADHDの啓蒙活動にも関わっているビクトリノは「僕の場合は大人になったからといって治るものではなかった。怖がらず、恥ずかしいことだと思わずに医者の診断を受けて欲しいと思っている。誰もが何かを持っているのだから」と筆者に話した。
ビクトリノの活躍は同じADHDという障害を持つ子どもたちにとって励みになったという報道もなされた。
ADHDのフリをして、薬についての免除申請を受けている選手がいるかもしれないことや、そういった選手に迎合している医師が存在するかもしれないという疑惑はある。過剰診断や偽装が実際にあるのかどうかは本人のみが知るところなのかもしれない。
仮に禁止薬物規定のすきまを狙いADHDのフリをしているメジャーリーガーがいるのならば、ADHDという特性とともに生きているファンをバカにしているといえるのではないか。