義勇兵として戦争に参加した場合、敵を攻撃することは合法なのか
前回、このような記事を書きました。
ここではそもそもウクライナ義勇兵に応募することが私戦予備・陰謀罪に当たるのかという話に触れたのですが、結論としてはよくわからんというものです。
この記事への反応として、「実際にウクライナ義勇兵として戦争に参加し、ロシアの兵隊を殺傷したらどうなるのか」というものが多く寄せられたため、それについても触れようと思います。
戦争のルール
そもそもの大前提として、戦争にもルールがあります。
戦争に関するルールは大きく分けて2つあり、武力行使自体の適法性に関するルールとしての国際法(jus ad bellum)と、武力行使を行うにあたって守るべきルールとしての国際人道法(jus in bello)にわかれます。
その上で、戦闘の手段・方法を規制するハーグ法と戦闘により生じる犠牲者を保護・救済するためのジュネーヴ法があります。もっともジュネーヴ諸条約第1追加議定書のように双方の要素を持った条約もあります。
戦闘員か文民か
国際人道法では、武力紛争において、戦闘員資格を有する戦闘員と、有しない非戦闘員(文民)とに区別します。戦闘員としての地位を有している者は一定のルールの範囲内で合法的に敵を攻撃することができ、捕虜としての取り扱いを受けることできます。
他方で、文民は攻撃の対象とならないのですが、攻撃に参加することは認められず、攻撃に参加した場合には保護の権利を失うことになります(ハーグ陸戦規則46条、ジュネーヴ第4条約27条、ジュネーヴ諸条約第1追加議定書50条)。なお文民の定義についてはジュネーヴ諸条約第1追加議定書50条参照。
では、誰が戦闘員資格を有するかという問題ですが、紛争当事者の軍隊の構成員は当然に戦闘員資格を有します。ただし、衛生要員・宗教要員は除きます(ジュネーヴ諸条約第1追加議定書43条)。
義勇兵は戦闘員か
かつての絶対王政時代においては、戦闘員は職業軍人か傭兵しかいなかったのですが、近代国民国家が誕生すると徴兵された国民による正規兵に代わっていき、さらには、普仏戦争においてフランス義勇兵が参加するといった変化が出てきました。正規兵が戦闘員であることは問題なく認められましたが、義勇兵は戦闘員なのかどうかという論点が出てきます。
そこで、戦後開催された1874年のブリュッセル会議において義勇兵の戦闘員資格が議論され、1899年第1回ハーグ平和会議で締結された「陸戦ノ法規慣例ニ関スル規則(ハーグ陸戦規則)」で、義勇兵も一定の条件下においては戦闘員資格が認められることとなりました。
その場合の条件とは以下の通り(ハーグ陸戦規則1条、ジュネーヴ第3条約4条A項(2)号))。
- 部下について責任を負う1人の者が指揮していること。
- 遠方から認識することができる固着の特殊標章を有すること。
- 武器を公然と携行していること。
- 戦争の法規および慣例に従って行動していること。
しかし、第2次大戦以降、軍服を着用しないゲリラによる紛争参加が増えていったため、1977年のジュネーヴ諸条約第1追加議定書によって、不正規軍であっても「部下の行動について当該紛争当事者に対して責任を追う司令部の下にある組織され武装したすべての兵力、集団および部隊」を「軍隊」とし、軍隊の構成員に対して戦闘員資格が拡大されます(ジュネーヴ諸条約第1追加議定書43条1項、2項、44条3項)。ただし以下の条件あり。
- 軍隊(部下について責任を負う部下の行動について当該紛争当事者に対して責任を追う司令部の下にある組織され武装したすべての兵力、集団および部隊)の構成員であること。
- 武力紛争の際に適用される国際法の諸規則を遵守すること。
- 攻撃または攻撃準備のための軍事行動を行っている間、自己と文民たる住民とを区別すること。
- 敵対行為の性質のために自己と文民とを区別することができない状況において、交戦の間および自己が参加する攻撃に先立つ軍事展開中に敵に目撃されている間、武器を公然と携行すること。
今回のウクライナ義勇兵である「国際外国人部隊」はこうした要件を満たすでしょうから、義勇兵として参加し、かつ国際人道法の諸ルールを守れば、合法的に敵を攻撃することができます。つまり殺人や傷害の罪に問われることはありません。
参考文献
鈴木和之「実務者のための国際人道法ハンドブック」[第2版](2016年)