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アメリカで支持を低下させる黒人差別反対デモ――BLMは何を間違えたか

六辻彰二国際政治学者
カリフォルニア州のデモ参加者(2021/4/11)(写真:ロイター/アフロ)
  • アメリカではBLMへの支持が減っており、とりわけ白人の支持低下が目立つ。
  • 白人の間でBLM支持が低下した背景には、暴動などの過激化だけでなく、BLMが白人の穏健派を取り込める目標を掲げてこなかったことがある。
  • 冷静な戦略を欠いているという点で、BLMには公民権運動との違いが鮮明である。

 黒人差別に反対する抗議活動(BLM)は、アメリカで支持を減らしている。その最大の要因は、BLMの行動と目標が黒人以外に支持されにくいことにある。

風向きの変化

 昨年5月にミネソタ州で黒人男性ジョージ・フロイドが死亡した事件の裁判で、陪審団は20日、元警官デレク・ショービン被告に第2級殺人などで有罪を宣告した。白人警官が公務中の行為で有罪になることは極めて珍しいが、そこには昨年来のBLMの高まりが影響したとみてよい。

 ただし、BLMに対する風向きは変わりつつある。

 USAトゥデイと市場調査会社イプソスが共同で行なった世論調査によると、「BLMを信頼する」と応えたアメリカ人の割合は、2020年6月には60%だったが、2021年3月には50%にまで下落した。入れ違いに、「法の執行(つまり警察や裁判所)を信頼する」という回答は、同じ時期に56%から69%に増加している。

 そこには白人の低評価がある。内訳をみると、黒人によるBLM支持は今年4月に85%にのぼったが、その一方で白人によるBLM支持はジョージ・フロイド事件直後の43%をピークに下落し続け、4月には37%にまで低下した。直近の「BLM反対」は、黒人で5%だったのに対して白人のそれは49%にのぼった(アジア系などによる支持率は不明)。

経済損失は10億ドル以上

 当初目立った白人のBLM支持は、なぜ減ってきたのか。そこには大きく二つの理由があげられる。

 第一に、経済損失だ。昨年5月末の約半月だけで、BLMの暴動、略奪、破壊により、保険会社の支払いは10億ドルにのぼった。

 この規模はコロナ第一波にともなうロックダウンによる経済損失(3〜5兆ドル)とは比較にならず、ハリケーンによる年間被害額(600〜650億ドル)と比べても小さいものの、アメリカ社会にとって大きな負担であることは間違いない。

「警察の縮小」への反対

 第二に、さらに根深い問題としては、BLMが警察への不信感から「警察の予算削減・規模縮小」を要求していることだ

 ジョージ・フロイド事件に象徴されるように、白人警官に黒人が殺害される事件は後を絶たないが、これを多くのアメリカ人は警察の「構造的人種差別」と認識している。実際、ピュー・リサーチ・センターの調査によると、警官の約67%が「警察による黒人の死亡事件」を「個別の問題(つまり偶発的な事件)」と捉えるのに対して、アメリカ市民の60%は「より幅広い問題のサイン(つまり人種差別の表れ)」とみている。

 しかし、それでもBLMが求める「警察の予算削減・規模縮小」は、黒人以外には受け入れられにくい。そこには、犯罪や刑罰に対する見方の違いがある。

 そもそもアメリカでは「黒人が犯罪を起こしやすい」という偏見が、白人以外にも定着している。ニューヨーク州立大学のJ.T.ピケット教授らがさまざまな人種からなる1500人以上を対象に行なった調査によると、「アメリカで黒人が犯罪にかかわる割合はどれくらいと思うか?」という質問に対する回答の平均値は46.4%だったが、実際には黒人が犯罪にかかわる割合は21%に過ぎない

 こうした偏見の定着を反映して、白人は犯罪取り締まりの強化を求めやすい。調査機関センテンシング・プロジェクトの調査によると、「警察が犯罪取り締まりをあまり厳しく行なっていない」とみる黒人は60%だったが、白人は73%にのぼった。また、犯罪を減らすために「教育や職業訓練にもっと予算をまわすべき」という回答は、黒人では58%だったが、白人では35%にとどまった。

 黒人への偏見が根本的な問題だとしても、厳格な治安維持を望む傾向が白人に強いとすれば、BLMのいう「警察の予算削減・規模縮小」が受け入れられにくくても不思議ではない。BLMによる暴動などが頻発すれば、なおさらだ。

キング牧師の情熱と戦略

 社会運動が成功するかどうかの分岐点の一つは、「相手のなかの穏健派」を説得できるかにある。BLMの場合、白人の穏健派から拒絶されていては、成果は望めない。

 これに関して、例えば1950〜60年代の公民権運動を考えてみよう。

 公民権運動は、「人種分離法」のもと交通機関やレストランなどにあった白人と黒人のスペースの隔離をめぐり、1955年にアラバマ州で発生したバス・ボイコット運動が起点になった。この時代、Black Power運動など攻撃的・革命的な一派もあったが、多くは座り込みなどの非暴力的な手段を中心とした。これはインド独立運動における「非暴力・不服従」にヒントを得たともいわれる。

 しかし、それでも運動の初期には、穏健派の白人の間からでさえ批判が絶えなかった。公民権運動を指導したマーティン・ルーサー・キング牧師は逮捕されてバーミンガム刑務所に収監された時、キリスト教会の白人聖職者たちから「よそからやってきてアラバマの問題に立ち入るべきでない」「社会に緊張を高めるべきでない」という手紙を受け取った。

 これに応じて著された主著「バーミンガム刑務所からの手紙」で、キング牧師は「どこかの不正義は全ての場所の正義にとっての脅威になる」と説き、差別は黒人やアラバマだけの問題でないと応じた。そのうえで、「非暴力の抗議活動で緊張を高めるのは、権力者と意味のある交渉を行なうため」とも述べており、ここからは抗議活動そのものを目的にしない冷静さをうかがえる。

 実際、公民権運動が要求した「公共の場での差別の禁止」は、「過去の贖罪」や「経済的な平等」といったテーマに比べて、まだしも白人穏健派から受け入れられる余地があった。さらに、平和的デモを白人警官が力づくで取り締まる光景は、むしろ白人穏健派の疑問を呼ぶものでもあった。

 その結果、白人の穏健派の多くは公民権運動を積極的に擁護しないまでも、拒絶することは徐々に減っていき、この気運が人種隔離の段階的な撤廃につながったわけだが、そこにはキング牧師の情熱だけでなく「黒人以外を取り込む」戦略があったといえる。

差別される側の変革

 公民権運動の教訓に引き比べると、BLMには課題が多い。

 一部とはいえ、参加者が貧困や抑圧の憂さを晴らすような略奪や破壊に向かったこと、そして白人などの理解が得にくい「警察の予算削減・規模縮小」というゴールを掲げてきたことは、BLMに対するアメリカ社会全体からの支持を減らしてきたといえる。

 だとすると、BLMには抗議活動のなかでの犯罪行為を減らし、第三者も受け入れられるような目標を設定する必要があるが、そのためには社会への不満を募らせて憤るデモ参加者を納得させ、公権力と冷静な対話を行なえる指導部が不可欠だ。ところが、SNS時代の抗議活動はこれといったリーダーを欠いたまま進みやすく、それは爆発的な広がりを可能にしても、継続的、建設的な活動は乏しくなりやすい。それは結局、社会における差別と分断を再生産することにもなる。

 差別撤廃の実現は、差別する側の意識だけでなく、差別撤廃を求める側の目標や行動パターンの変革をも必要としているのである。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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