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米1月雇用者数、16万人増と冴えず―“財政の崖”や景気低迷響く

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
新規雇用者数の推移―Brifing.com提供

半面、直近2カ月雇用者数13万人の上方改定と明るい材料も

米労働省が2月1日に発表した1月の新規雇用者数(非農業部門で軍人除く、季節調整済み)は、いわゆる、“財政の崖”問題や世界的な景気後退が響いて、前月比15万7000人増と、前月(昨年12月)の19万6000人増を下回り、2カ月連続で伸びが鈍化した。これは昨年10月の16万人増以来3カ月ぶりの低い伸びで、2カ月連続で20万人台を割った。ただ、雇用者数は全体として2010年10月以降、27カ月連続でプラスの伸びを続けている。

明るい材料は、前月のデータが速報値の15万5000人増から4万1000人も大幅に上方改定されたことだ。前々月(昨年11月)も速報値の16万1000人増から24万7000人増へ、8万6000人の上方改定となっており、前2カ月合計で実に12万7000人もの上方改定となった。

また、今回1月の雇用統計の発表で、昨年1年間の新規雇用者増のデータの改定が終わり、その結果、2012年の新規雇用者数は改定後で217万人増と、前回発表時から33万5000人もの上方改定となったのも明るい材料。

さらに、1月の失業率は前月の7.8%から7.9%へやや上昇したものの、必ずしも悪化とは断定できない点だ。労働省は毎年1月に新しい労働力人口のデータを採用しているため、単純に前月と正確には比較できないからだ。

一方、アナリストやエコノミストの事前予想と比較すると、米経済分析サイト、ブリーフィング・ドット・コムの事前予想のコンセンサスでは1月の新規雇用者数は18万人増だったので、予想を下回ったことになる。また、2012年の月平均18万1000人増(改定前は15万人増)も下回った。これは財政の崖問題や国債発行上限枠の適用を延期するかどうかといった予算をめぐる議会の混乱に加え、増税や世界景気の低迷など国内外の要因で、企業は新規雇用の拡大に思った以上に慎重だったためと見られている。ただ、全体としては、昨年の雇用拡大ペースをほぼ維持しており、1月の結果は許容の範囲内と見られている。

米国のエコノミストの中には、米金融コンサルティング大手HISグローバル・サイトのチーフエコノミスト、ナイジェル・ゴールト氏のように、昨年1年間、特に11-12月の新規雇用者数が大幅上方改定となったことから、1月30日に発表された米国の第4四半期GDP(国内総生産)伸び率が前期比年率換算0.1%減(速報値)と、3年以上ぶりにマイナス成長となったのは正確ではなく異常値だったことが証明されたとの見方がある。

1日のニューヨーク株式市場では、1月の雇用統計の結果それ自体は強くなかったが、直近の過去2カ月間の大幅改定を好感して、ダウ工業株30種平均は5年ぶりに1万4000ドル台に急伸した。この日同時に発表された米1月ISM(サプライマネジメント協会)製造業景況感指数も予想を上回る53.1と、9カ月ぶりの高水準となったこともあるが、ダウ平均の終値は前日比1.1%高の1万4009.79となっている。失業率も上昇したとはいえ、FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げに転換する場合の基準値6.5%にはまだ届かないので、当面は利上げ懸念がないことも株価に安心感を与えているといえる。

民間部門、16.6万人増―2カ月連続で伸び鈍化

ところで、減少が続いている政府部門を除いた民間部門だけの雇用状況を見ると、1月は前月比16万6000人増と、直近では昨年9月の11万8000人増以来の低い伸びとなった。また、昨年11月の25万6000人増(改定前17万1000人増)や12月の20万2000人増(同16万8000人増)を大幅に下回った。

12月と1月と2カ月連続で伸びが鈍化し、市場予想のコンセンサスである19万3000人増も下回っている。ただ、明るい材料は、11月と12月のデータが合計で11万9000人も上方改定されたことだ。

景気が2番底に向かわないためには、民間部門だけで月平均10万人増、さらに、景気回復が持続安定的に進むためには15万人増が必要と見られているが、現時点ではこれらの判定基準値は上回っているといえる。

一方、政府部門は前月比9000人減となり、昨年10月の5万7000人減から4カ月連続で減少している。

求職活動、依然続く

失業率が上昇するのは、新規雇用者数の増加ペースがそれほど強くないからだ。1月の新規雇用者数の15万7000人増という増加ペースは、人口の自然増を吸収して失業率の上昇を食い止めるために必要な月平均12万5000人増を依然として上回っているが、失業率を短期間でかなり低下させるために必要といわれる25万人増を大きく下回っている。

また、失業率が2013年末までに、リセッション(景気失速)前の2007年12月の5%の水準に戻るには月平均40万人増が必要といわれるが、それにも程遠い状況なのだ。

1月の失業率は7.9%となったが、これは昨年10月の7.9%以来となる。失業率は昨年9月に8.1%から7.8%に低下して以降、7.8―7.9%で推移している。

別の見方をすると、今回1月の失業率が上昇したのは、労働力人口が増加したため、つまり、これまで就職難から仕事を探すことをあきらめた労働者が求職に向かい始めた良い兆候ともいえる。1月の労働力人口は前月比14万3000人増と、2カ月連続で増加し、昨年12月と1月の合計で33万5000人増と、30万人以上が職探しに向かっており、明るい兆しと受け取られる。

さらに、労働市場への参加の程度を示す労働力人口比率を見ると、1月は前月と変わらずの63.6%となった。これは、全体の人口が増加(31万3000人増)した一方で、労働力人口も増加(14万3000人増)しためで、前向きな求職活動が続いていることを示す。

今回、失業率がやや上昇したのは、統計上、分母の労働力人口が増加(前月比0.1%増)する一方で、それ以上に分子の失業者数が増加(同1.0%増)したためだ。統計上、職探しをあきらめている労働者は、失業者として分類されず、反対に働く意思をもって仕事を探すようになれば失業者として分類される。このため、失業者数が増加したということは、職探しをあきらめた労働者が減ったためと見られる。

長期失業者比率、38.1%に低下

また、失業状態の深刻さを示す6カ月以上(27週間)の長期失業者数は、前月の477万人から471万人へと1.2%減少し、3カ月連続で減少(改善)している。また、失業者全体に占める長期失業者の比率も前月の39.1%から38.1%に低下した。また、前年同月の水準(43%)も下回っている。ただ、長期失業者数は依然高水準には変わりはない。

全体の失業者数は前月比1%増の1233万人となったが、2007年12月のリセッション前の水準(2007年11月時点で724万人)の1.7倍で、依然高水準。これは景気回復のペースが緩慢なため、民間企業の雇用が慎重になっているためだ。

広義の失業率、14.4%

一方、広義の失業率(狭義の失業者数に、仕事を探すことに意欲を失った労働者数と経済的理由でパート労働しか見つからなかった労働者数を加えた、いわゆる、“underemployed workers”の失業率)は前月と変わらずの14.4%と、依然として低水準となっている。

しかし、正規雇用をあきらめて、やむを得ずパート労働者(involuntary part-time workers)となった数は前月の792万人から1月は797万人と、再び増加に転じた。1年前の822万人を下回っているものの、依然、高水準だ。

新規雇用者数は、2007年12月のリセッション入り以降、2008年と2009年で計866万人減少し、2010年に計102万人の純増が見られたにすぎない。2010年は月平均8万5000人の増加ペースだったが、2011年は210万人増となり、月平均では17万5000人増と、増加ペースは加速している。2012年は217万人増(月平均18万1000人増)とさらに加速したが、このペースで行けば過去の大幅な雇用損失を取り戻すことができるのは、今から18カ月後の2014年7月ごろになる計算だ。

建設業と製造業、計3.2万人増

雇用統計の内訳は、製造業は4カ月連続で増加した一方で、建設業も前月比2万8000人増と、前月の3万人増に続いて4カ月連続の増加となった。

建設業の内訳を見ると、居住向けは700人増だったが、非居住向けは2700人減となった。一方、「specialty trade contractors」と呼ばれる、整地などの基礎工事や電気・配管などの専門工事業者は2万6000人増となり、建設業全体を押し上げた。土木工事も4000人増だった。

他方、製造業は前月比4000人増と、前月の8000人増から伸びが鈍化したものの、4カ月連続の増加となっている。

製造業の内訳は、耐久財部門が3000人増となり、食品や飲料水などの非耐久財部門も1000人増となった。耐久財のうち、自動車・同部品製造は2500人増、金属加工も1000人増だったが、機械製造は1300人減だった。コンピューター・電子部品は800人増となっている。

小売業、3.3万人増=人材派遣、減少に転じる

サービス産業は前月比13万人増と、前月(昨年12月)の15万8000人増に続いて2カ月連続で伸びが減速した。昨年11月は21万3000人増だった。

このうち、小売業は3万3000人増と、これも前月の1万1000人増に続いて2カ月連続で伸びが鈍化。11月は7万人増だった。

小売りのうち、自動車・自動車部品販売は6600人増となり、自動車ディーラーも4300人増、ヘルス・パーソナルケアも3300人増となったが、百貨店にスーパーなど量販店を加えた一般小売販売は1400人減(うち、百貨店は2300人減)だった。また、家電は5100人増、建材・園芸店は100人増、衣料品・アクセサリーは1万人増と大幅に増加した。

また、サービス産業を支える専門・ビジネスサービス業は2万5000人増と、前月の2000人増から伸びが大幅に加速した。しかし、このうち、将来の雇用の先行指標となる人材派遣業は8000人減と、前月の9000人増から減少に転じた。

金融サービス業(不動産販売も含む)は6000人増と、前月の9000人増を下回り、昨年11月以降、伸びは後退を続けている。このうち、保険業は2000人減だったが、不動産・リース業は2700人増、クレジット仲介業も1800人増となった。

政府部門、9000人減

また、政府部門は前月比9000人減と、前月の6000人減に続いて4カ月連続の減少となった。

内訳は、連邦政府は5000人減となったのに対し、州政府と地方自治体も合計で4000人減となった。州政府と地方自治体は、2010年は計21万3000人、2011年も31万7000人、2012年も7万7000人と、それぞれ雇用を削減してきており、2009年6月にリセッションが終わったあとの景気回復の過程では通常見られない状況となっている。地方自治体は、6000人減となったが、このうち、教員が4700人減となっている。

平均賃金、微増=労働時間は横ばい

週平均労働時間(2010年1月から全従業員のデータを導入)は前月比横ばいの34.4時間となった。このうち、製造業の週平均労働時間は同0.2%(6分)減の40.6時間となった一方で、残業時間は横ばいの3.3時間だった。

また、1時間当たり平均賃金(全従業員のデータ)は同0.2%(4セント)増の23.78ドルとなった。賃金の上昇ペースが緩やかなのは、新規に雇用が創出されても低賃金の仕事が多いためで、今後の景気回復の本格化の足かせになると見られている。

また、1時間当たり平均賃金の前年比で2.1%増となったが、インフレ率(昨年1年間の消費者物価指数(CPI)は前年比+1.7%)を考慮すると、実質0.4%増で個人消費にとっては追い風となっている。 (了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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