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レアルがパリSGを沈めた意味。高まるエムバペの移籍の可能性と欧州の趨勢変動。

森田泰史スポーツライター
競り合うヴィニシウスとパレーデス(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

何かが、変わり始めている。

ロシアのウクライナ侵攻が、フットボールの世界にも影響を及ぼしている。チェルシーでは、ロマン・アブラモビッチ氏が経営からの撤退を余儀なくされた。資産が凍結され、所属選手たちとの契約延長が不可能となり、補強も困難と厳しい状況に立たされている。

■欧州の趨勢

趨勢変動が起ころうとしている。そのなかで象徴的だったのは、チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦のレアル・マドリー対パリ・サンジェルマンの一戦だ。

2試合合計スコア3−2で、マドリーがベスト8進出を決めた。だがセカンドレグのワンシーンが、物議を醸した。マドリーの1点目の場面で、カリム・ベンゼマのGKジャンルイジ・ドンナルンマへのファールがあったのではないかというパリSG側からの主張があった。

ゴールを決めるベンゼマ
ゴールを決めるベンゼマ写真:ロイター/アフロ

「非常に不当だという感覚を抱いている。ベンゼマのファールは明らかだった。それで我々は失点した。そこで選手たちのメンタルが変わってしまった。そこをコントロールできなかった。あのアクションは決定的だった。ウチの選手のメンタル、マドリーの選手のメンタル、スタジアムの雰囲気まで変わってしまった。そういった影響がある要因だった」とはマウリシオポチェッティーノ監督の弁である。

「ファールは明らかだったよ。30回から40回くらいは映像を見た。いろいろな角度から、いろいろなカメラでね。だが、これがフットボールだ。ディテールで、試合が決まってしまう」

パリSGの怒りは収まらなかった。試合後には、ナセル・アル・ケライフィ会長が審判団のローカールームに入ろうとする事態に発展した。

■ビッグイヤーの価値

この数年、パリSGとUEFAの関係は良好だった。レアル・マドリー、バルセロナ、ユヴェントスといったクラブが欧州スーパーリーグ構想に向けて動く中、アル・ケライフィ会長は早い段階で反意を示してUEFA側についた。新型コロナウィルスの影響もあり、いつしかFFP(ファイナンシャル・フェアプレー)の規則も緩くなった。最も取り締まられるべき「国家クラブ」のパリSGやマンチェスター・シティがスーパーリーグ構想から脱退してUEFAとの関係を深めたのは皮肉な話だった。

パリSGの野望は、欧州の頂点に立つことに他ならない。チャンピオンズリーグ制覇、ビッグイヤーの獲得だ。2011年にカタール投資庁の子会社、カタール・スポーツ・インベストメント(QSI)が株の70%を買い取り、パリSGを買収。その後、アル・ケライフィ会長が就任した。以降、「欧州のトップの座」が彼らの大きな目標になった。

アル・ケライフィ政権で、パリSGはおよそ14億ユーロ(約1820億円)を補強に投じている。ハビエル・パストーレ、ズラタン・イブラヒモビッチ、チアゴ・シウバ、エセキエル・ラベッシ、ダビド・ルイス、アンヘル・ディ・マリア、マルキーニョス、マルコ・ヴェッラッティ、マウロ・イカルディ、アクラフ・ハキミ、セルヒオ・ラモス、ネイマール、キリアン・エムバペ、リオネル・メッシ...。ビッグプレーヤーが次々にパリに降り立った。

一方で、指揮官については、中長期的に指揮を執ることが許されなかった。カルロ・アンチェロッティ監督、ローラン・ブラン監督、ウナイ・エメリ監督、トーマス・トゥヘル監督、ポチェッティーノ監督と異なる人物が代わる代わるチームを率いてきた。

監督交代となれば、プレースタイルは変わる。当然、起用される選手も変わってくる。大型補強をしているとは言え、前任者が求めた選手を、現指揮官が欲するとは限らない。結果、それは“余剰戦力”が増えることに繋がりかねないのだ。

去就に注目が集まるエムバペ
去就に注目が集まるエムバペ写真:なかしまだいすけ/アフロ

パリSGのチャンピオンズリーグ敗退で、再び注目を集めているのがエムバペの移籍だ。

エムバペは今夏、レアル・マドリーに移籍する可能性があった。EURO2020が終わった段階で選手自身の移籍の気持ちは固まっていた。その旨はエムバペ側からクラブに伝えられていた。

ただ、フロレンティーノ・ペレス会長が「2億ユーロ(約260億円)のオファーに応じないクラブが存在する」とのちに認めたように、パリSGにエムバペを売る意思はなかった。エムバペの残留が決まり、2021−22シーズン、彼はパリSGの選手としてプレーする運びとなった。

パリSGとしては、2022年のカタール・ワールドカップに向けて、クラブとチームを強化してきたところがある。フランスの名門クラブを通じて、カタールの名前と力を世界に知らしめる。そのための、ある種の国家プロジェクトだった。だが、実はワールドカップまでにチャンピオンズリーグを制するという意味では、これがラストチャンスだったのである。

エムバペは、現時点でパリとの契約延長にサインしていない。このままなら、次の夏にフリートランスファーでの移籍が可能になる。そして、マドリーはこの機会を待っていたかのように虎視淡々と準備を進めている。近日中にも契約を決めるという報道まで出てきている。

近年、資金力で言えば、ビッグクラブでさえ国家クラブを上回るのは難しかった。しかし、お金の力がなくとも、スタープレーヤーを確保できるというのを、現在マドリーが証明しようとしている。そして、それは実際に決定すれば欧州のフットボールの趨勢を見極める上で非常に大きな移籍になる。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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