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勝手に提出された離婚届は有効?犯罪にならないの?知らぬ間の離婚成立を防ぐポイントとは

後藤千絵フェリーチェ法律事務所 弁護士
(写真:イメージマート)

1 はじめに

テレビなどで、勝手に離婚届を提出されたことによるトラブルなどが報じられることがあります。

このニュースを見て、「離婚届を勝手に出すなんてあり得るの?」「離婚届を勝手に出されてしまったらどうなるの?」と不安に思われた方もいらっしゃるかもしれません。

私は兵庫県西宮市で家事事件を中心とする法律事務所を経営する弁護士ですが、離婚届を勝手に提出されたケースは、実務上、少なくありません。

夫婦喧嘩の際につい売り言葉に買い言葉で「もう離婚してやる!」と言ってしまい、離婚届に署名捺印して相手に渡した、といったご経験があるご夫婦も多いのではないでしょうか?

写真:アフロ

たとえ本気で離婚する気がなく、後で冷静になって思い直したとしても、相手が渡された離婚届をいったん役所に提出すれば、正式に受理されます。

また、どうしても離婚したい相手が、勝手に配偶者の名前で署名捺印した離婚届を提出し、受理されてしまったケースもあります。偽造された離婚届であったとしても、形式面で不備がなければ、基本的に役所に受理されてしまうのです。

役所の窓口では離婚意思の有無は確認せず、署名捺印欄が記入されているか、所定の記載事項が埋められているかといった形式面しか確認しないためです。

それでは、そもそも知らない間に勝手に出されてしまった離婚届はそのまま有効になり、離婚したことになってしまうのでしょうか?

今回は、離婚届を勝手に提出された場合の対処法について解説します。

2 勝手に提出された離婚届は有効?

写真:アフロ

協議離婚が有効に成立するためには、離婚届を提出する時点で、夫婦の双方に「離婚する意思」が存在する必要があります。

ですので、離婚する意思がないままに離婚届が役所に提出され受理されたとしても、離婚は無効となります。

離婚が無効ということは、法律上も夫婦のままということ。

どちらかが再婚した場合はその再婚は重婚として取り消されますし、配偶者が死亡した場合には相続権が発生します。

3 離婚届を勝手に提出された場合の対処法

離婚が無効と言っても、安心はできません。

離婚届がいったん役所に受理されてしまうと、虚偽の内容が戸籍に反映されてしまうからです。

虚偽の離婚の記載のある戸籍を訂正するためには、役所の窓口にかけあっても解決せず、きちんとした裁判手続きが必要となります。

つまり、離婚の記載のある戸籍を元に戻すには、家庭裁判所に対し、協議離婚無効の調停を申し立てるか、協議離婚無効確認の訴訟を提起する必要があるのです。

なお、離婚届が提出されていることを知りながらそのまま放置していたり、財産分与や慰謝料と評価できる金員の支払いを受けていたりするような場合は、離婚を承諾したとして離婚が有効になる可能性がありますので注意が必要です。

写真:イメージマート

① 協議離婚無効確認調停の申立

「協議離婚無効確認調停」とは、離婚届を勝手に出した相手に対し、離婚が無効であるとの確認をするための話し合いをする手続きです。話し合いで離婚が無効であることを確認できれば、合意に従った審判によって離婚を無効にすることができます。

② 協議離婚無効確認の訴え提起

協議離婚無効確認調停を申し立てても、相手が離婚の無効を認めないような場合には、家庭裁判所に「協議離婚無効確認の訴え」という訴訟を提起し、判決によって離婚が無効であることを確定させる必要があります。

協議離婚無効の審判または判決が確定したら、1か月以内に、審判または判決の謄本及び確定証明書を添えて戸籍の訂正を申請しなければなりません。

4 犯罪になる可能性は?

写真:アフロ

離婚届を勝手に偽造し、提出した場合は下記のような犯罪が成立する可能性があります。

① 有印私文書偽造罪、同行使罪

勝手に離婚届に配偶者の署名押印をした場合、有印私文書偽造罪(刑法159条1項)が成立します。そして、離婚届を役場に提出した場合は、偽造有印私文書行使罪(刑法161条1項)が成立し、刑罰はいずれも3か月以上5年以下の懲役刑となります。

② 電磁的公正証書原本不実記録等罪

「電磁的公正証書原本不実記録等罪」(刑法157条1項)という犯罪があります。戸籍は公的な電子記録に該当しますので、偽造の婚姻届を提出して役所を騙し、戸籍を間違った内容に書き換えさせると電磁的公正証書原本不実記録等罪が成立します。刑罰は、5年以下の懲役または50万円以下の罰金刑となっています。

5 離婚届不受理申出書の提出のすすめ

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このように、離婚届が勝手に提出された場合でも、いったん役所が受理してしまうと家庭裁判所で手続きをする必要があり、手間がかかり煩わしいことこの上ありません。

このような事態を防止するため、配偶者が勝手に離婚届を提出してしまう懸念がある方は、あらかじめ役所に「離婚届不受理申出書」を提出しておくのがおすすめです(離婚届不受理申出制度)。

不受理申出制度とは、本人の意思に基づかない届出が勝手に提出されて、戸籍に登録されることを防ぐ制度であり、一度提出しておけば無期限で効力が続きます。

実際に離婚することになった場合は、不受理届の申出を行った配偶者がこの申出を取り下げた後に、離婚届を提出することとなります。

6 おわりに

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勝手に離婚届を提出された場合、提出された時点で「離婚意思」がなければ、離婚は無効です。

ただし、いったんは自分の意思で離婚届に署名捺印をしている場合、その後に離婚意思がなくなったとしても「離婚意思がないこと」を証明するのにかなり苦労することがあります。特に、すでに別居しているような場合には、「離婚意思がないこと」の立証が困難になり、離婚が有効とされたケースもあります。

事前の対策としては、何といっても、離婚届を役所に受理されないようにするために不受理届の申出をしておくことが有効です。

離婚届を勝手に提出されるかもしれない可能性が少しでもある場合は、一人で悩まずに、できるだけ早急に専門家に相談されることをおすすめいたします。

フェリーチェ法律事務所 弁護士

京都生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に入社するも、5年で退職。大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道に進むことを決意。派遣社員やアルバイトなどさまざまな職業に就きながら勉強を続け、2008年に弁護士になる。荒木法律事務所を経て、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所設立。離婚・DV・慰謝料・財産分与・親権・養育費・面会交流・相続問題など、家族の事案をもっとも得意とする。なかでも、離婚は女性を中心に、年間300件、のべ3,000人の相談に乗っている。

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