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“ミスマッチの夜”の後で 〜ガルシア、ピーターソン、ジェイコブスがブルックリンのリングで競演

杉浦大介スポーツライター

8月9日

ブルックリン・バークレイズセンター

ウェルター級10回戦

ダニー・ガルシア(アメリカ/29戦全勝(17KO))

2ラウンド2分31秒TKO

ロッド・サルカ(アメリカ/19勝(3KO)4敗)

IBF世界スーパーライト級タイトル戦

ラモン・ピーターソン(アメリカ/33勝(17KO)2敗1分け)

10ラウンド2分48秒TKO

エドガー・サンタナ(アメリカ/29勝(20KO)5敗)

WBA世界ミドル級王座決定戦

ダニエル・ジェイコブス(アメリカ/28勝(25KO)1敗)

5ラウンド2分58秒TKO

ジャロッド・フレッチャー(オーストラリア/18勝(10KO)2敗)

ワンサイドファイトばかり

“ミスマッチの連続”。事前からそう陰口を叩かれていたブルックリン興行は、予想通りに一方的なファイトばかりで終わった。

タイトル戦として認可すらされなかったメインイベントは、2ラウンドに右カウンターで格下のサルカをぐらつかせたガルシアが、立て続けに3度のダウンを奪ってストップ勝ち。年間最高クラスのノックアウトではあったが、その迫力よりも、もともと1階級下のサルカのひ弱さの方が目立った。最後の派手なノックダウンが事故などに繋がらなかったことに、胸を撫で下ろした関係者は多かったはずだ。

セミファイナルでは35歳の挑戦者サンタナが粘りはみせたが、3人のジャッジの採点は9ラウンドまですべてピーターソンにつけるフルマーク。中盤以降は、フィニッシュがいつかだけが興味の対象になったほどの王者の圧勝だった。

トリプルヘッダーの中では、ガンを克服して初の世界タイトルに辿り着いたジェイコブスのストーリーは感動を誘うものではあった。ただ、この試合も一方的だった上に、WBAミドル級には“スーパー王者”として認定されるゲンナディ・ゴロフキンがいるだけでなく、何と同じ9日にロシアでディミトリー・チュディノフも”暫定王座”の2度目の防衛に成功している。ここでさらに“正規王者”の決定戦を行なう意味は見えず、ペーパータイトルの感は否めなかった。

終わってみれば、3戦ともが事前からほぼ想定された通りの展開、結末。勝った3人はすべて強力アドバイザーのアル・ヘイモン契約下だけに、その悪影響を指摘する声が多い。しかし、“スターの顔見せ興行”の生中継を承諾したShowtimeの責任が問われても仕方ないだろう。

昨年はフロイド・メイウェザー対サウル・“カネロ”・アルバレス戦を興行的に大成功させるなどで「HBOとの関係を逆転した」とまで言われたShowtimeだが、今年の中継試合はミスマッチばかりが目立っているのが事実である。

その先にあるもの

こうして有利と目された選手たちは軽々とハードルを飛び越え、順調に勝ち残った3人はそれぞれ統一戦に向けて動き出すことになりそうだ。

ガルシア、ピーターソンが同じカードで遥かに格下の相手と対戦した背景には、「後に続く直接対決への気運を盛り上げるため」という言い訳があった。

そうは言っても、どちらももう名前の売れている選手だけに、同興行で前哨戦を行なう必要は感じられず、今回の日程で統一戦を開催してしまうのが最善にも思えた。しかしこうして廻り道をすることになったのならなおさら、遠からずうちにWBA、WBC 、IBFの3団体統一戦をまとめてもらわなければならない。

「(ガルシアは)統一戦に臨む意思があるし、ラモンもダニーと戦いたいと言っている。今年中か、来年かに向けて、話し合うことになるだろうな」

ゴールデンボーイ・プロモーションズのマッチメーカーであるエリック・ゴメス氏がそう語っていた通り、プロモーター側も実現に動く気配だ。

ヘイモン傘下選手の潰し合いが本当に実現するかは少々不安だが、特に近未来のメイウェザー挑戦を視野に入れるガルシアは、ここでもう1つインパクトのある星を望んでいることだろう。スーパーライト級の統一戦であると同時に、ガルシア対ピーターソン戦は“メイウェザー争奪戦”の様相を呈することにもなるのかもしれない。

クイリン対ジェイコブスも?

「次はピーター・クイリンと戦いたい。ブルックリンにとって重要な試合だ。彼と僕は仲間だし、毎日顔を合わせるけど、このファイトは行なわれなければならない。ブルックリンで開催されるべき一戦だよ」

フレッチャーを一蹴しての初戴冠のあと、ジェイコブスもさっそくWBO王者ピーター・クイリンとの対戦希望を語っていた。

同じブルックリンに本拠地を置く王者同士の統一戦は、バークレイズセンターで開催すれば実際に大きな話題を呼ぶはず。ミゲール・コット、ゴロフキンといったHBOとの繋がりが深い同級の他の王者との対戦に比べ、遥かにまとめ易いカードでもある。ジェイコブスはまずは少々軽めの防衛戦を挟むだろうが、そうこうするうちに、近い将来の“ブルックリン・ダービー”の気運も高まって来るのではないか。

総合的に見て、8月9日のカードは筆者が近年に現場取材したHBO、Showtimeのカードの中では最低クオリティだった。敗者の中に、シリアスなケガを負うものがいなかったのはラッキーとすら言えたかもしれない。

今後、勝者たちが好ファイトに駒を進めたからといって、この日の興行が正当化されるわけではない。それでも、“ミスマッチの夜”に少しでも意味を付与するためにも、ハイレベルな統一戦の早期実現を望みたいところではある。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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