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ビール純粋令導入から5世紀、ドイツで一番のん兵衛はザクセン州!

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト
工場見学の後は試飲をどうぞ。何杯でも飲めます!

ビールが美味しい季節となりました。ドイツで最もビールが飲まれている州はあのオクトーバーフェストで有名なバイエルン州!?いえ、実は一人当たりの消費量では、ザクセン州が一番なのです。

ドイツビールの原料を限定して醸造法を定めた「ビール純粋令」が発令されてからおよそ5世紀を迎えました(2016年に5世紀を迎えます)。純粋令が発令された4月23日は「ドイツビールの日」、これから夏に向けて益々ビールを飲む機会も増えます。(画像はすべて筆者撮影)

ビール消費量6割を占めるピルスナー

連邦統計局によれば、ドイツビールは8割以上が国内で消費されているそうです。ビール総販売量と生産量はノルドライン・ウェストファレン州とバイエルン州が例年トップ争いをしています。

日本の各地で開催されているビール祭り「オクトーバーフェスト」のメッカは、ご存知のようにバイエルン州のミュンヘンです。そのためか最もビールが飲まれている州はバイエルンと思いがちです。しかし、ザクセン州の一人当たり消費量はバイエルン州より高いそうです。

ドイツ人が最も好きなピルスナーは、全体の消費量の6割以上を占めるほど人気のビールで、苦味と香りが特徴です。

国内初のピルスナーを醸造したラーデベルガー

工場に一歩足を踏み入れると、ビール独特の香りが漂ってきます
工場に一歩足を踏み入れると、ビール独特の香りが漂ってきます

ドイツのビール市場をけん引する大手メーカー、ザクセン州ドレスデン近郊の街ラーデベルグには、1872年、ドイツで初めてピルスナービールを造った歴史ある醸造所があります。このラーデベルガー醸造所では、ビールつくりに最適の原材料「柔らかい水と厳選されたビールモルト、ビターホップ」を用い、こだわりのビールを造り続けています。

円熟した独特の深い味わいのラーデベルガーピルスナーは、歴代の著名人から熱い指示を受けました。1905年、ザクセンの王「フリードリッヒ・アウグスト3世」の飲み物として認定を受け、ザクセン王室御用達のビールとなった逸品です。また、ドイツの初代首相オットー・フォン・ビスマルクもラーデベルガーを首相の飲み物として選定したそうです。

ラーデベルガーは、ビール顧客満足度の調査(2013年)で、最も高い評価を得ました。

ドレスデン市内よりラーデベルクまでは20キロの道のりです。電車や車でおよそ30分ほどかかり、ドレスデン市内からアクセスしにくいという観光客のために、センパオペラ前発着のバスツワーを提供しています。

車内でビールのビデオ解説を見ているうちに、あっという間にラーデベルガー醸造所に到着します。工場内見学、そして試飲と2時間ほど滞在したあとは、また専用バスでドレスデンまで戻ります。今年は4月23日から毎土曜日運行しています(16時45分出発。大人1人往復35ユーロ・見学試飲込み)。

ビール王国ドイツならではのこだわりの醸造法

中世の頃、ビール醸造に勤しんでいたのは僧侶たち。修道院生活で、僧侶は、断食期間に「飲むパン」として自家製ビールを愛飲されていたのは有名です。現在でも、当時の僧侶の古い醸造法に忠実に従ってビールを生産している醸造所が残っています。そのビールの原料を限定し、醸造法を定めたのが「ビール純粋令」です。

食品関連の法律の中で世界一古いといわれる「ビール純粋令」は、原料を「大麦、ホップ、水、酵母」に限定し、1516年バイエルン王ヴィルヘルム4世によって制定されました。

ボトルにビール純粋令(Reinheitsgebot)に則して醸造と明記されている
ボトルにビール純粋令(Reinheitsgebot)に則して醸造と明記されている

一方で、純粋令は、欧州共同体(EC)諸国から「ドイツのみが、ビールの原料を限定することはEU内の自由貿易を阻害する」として非難を浴びました。

1987年に欧州裁判所は、「純粋令を保護主義的規定であり、非合法」と 判決を下し、これにより、ドイツ国内用に造るビールには純粋令を適用するが、国外からの輸入品と国外への輸出品には適応しないことになりました。

さらに、1993年には酒税法が改正され、国内で醸造、消費される一部のビールにも大麦以外の麦芽や砂糖を使うことが許されました。

EU統合後は、ドイツにはビール純粋令に則っていないビールも輸入されていますが、ドイツの多くの醸造所では今もこの純粋令に従い、醸造しています。

純粋令に則ったビー ルは栄養価が高く、安全で健康的な飲み物として消費者に愛されています。ザクセンには「オクトーバーフェスト」はありません。しかし、それに匹敵するドレスデンの フォーゲルヴィーゼ (民族祭) は、「オクトーバーフェスト」より350年も長い歴史を誇ります。

フォーゲルヴィーゼは今年7月10日から20日の間、ドレスデンで開催されます。これからドレスデンを訪問される方にお勧めのイベントです。

取材協力・ドイツ観光局

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典共著(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

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